鉄のフライパンの使い方のキホン
noteをはじめて2年とちょっと経つのですが、一番「スキ」ボタンが押された記事がこちら。
鉄のフライパン、持っているけど使いこなせていないという人が多い証拠みたいなものでしょうか。レシピよりも道具について書いた記事に反応があるのは若干複雑なところですが、今日は鉄のフライパンの使い方の基本についてまとめます。
鉄のフライパンはまず使う前に、充分に熱くしておくことが重要です。テフロン加工のフライパンは冷たい状態から加熱するテクニックが使えますが、鉄のフライパンの場合はNG。その理由は表面に付着している吸着水という水分にあります。
鉄のフライパンの表面には目には見えない水分が付着しています。この水分はいわゆる我々が想像する「水」ではなく、水分子です。(前者は物理吸着した水、後者は化学吸着している水と定義できます)
物理的についている水は100℃で沸騰したら離れますし、布巾で除去することもできますが、科学的に結合した水分は鍋からなかなか蒸発しません。例えばそこに肉を入れると溶け出した水溶性のタンパク質と鍋が結合してしまう=くっついてしまいます。
そこで料理では「空焼き」という作業をします。具体的には中火〜強火にかけて鍋からうっすらと煙が出るくらいまで加熱します。200℃〜250℃まで熱すれば鍋から件の吸着水が離れるからです。
がきちんとメンテナンスしてないと表面の汚れが焦げて、煙を出すのでここの感覚がわかりづらくなります。やはりフライパンはきちんと洗い、いい状態を保ちましょう。原理的には油を入れてから充分に熱してもいいのですがその場合、油の温度が高くなりすぎるので(煙が出るくらいまで油を熱すると酸化分解が進み、よくありません)空焼きしてから油を入れるのがポイント。
そこに油を注ぎ、よくなじませます。油を素材とのあいだに介在させることでくっつくのを防ぎます。
この状態だと鍋の表面温度が高すぎるので、火加減を弱火に落とすか、一度火を止めて温度を下げましょう。この作業を『油慣らし』と言います。この状態になれば料理をはじめることができます。
昔のレシピにはホットケーキを焼く時など「濡れ布巾などに鍋底をあてて、一度冷ましてから生地を注ぐ」と書いてありますが、これは鉄のフライパンが一般的だった名残。糖分+卵という焦げやすいもの=ホットケーキを焼くときは濡れ布巾で冷ますのも一つの手です。
油をなじませるためにある程度の量の油が必要なのですが、少量の油で焼きたい場合は油を捨てる作業が必要になることもあります。油の酸化が気になる場合も鍋になじませるために注いだ油は捨てて、新しい油で調理をはじめます。これを『油返し』と言います。必要な場面は少ないですが、一応頭に入れておきましょう。
今日は冷凍餃子を焼いてみましょう。火を止めた状態で餃子を並べます。餃子同士を離しておけないとくっつくので注意。再びフライパンを中火にかけます。
お湯100cc〜150ccを投入し、蓋をして5分蒸し焼きにします。
蓋を開けました。水分が残っています。餃子がくっつきやすいのは餃子の皮から溶け出したでんぷん質がタンパク質と同じように糊のように作用するからです。水分が残った状態では鍋と餃子がくっついていることがあるのでこの状態では触らないように。そのまま加熱して、水分を飛ばします。
途中で油を少し追加しました。水分が飛べばデンプンはくっつく力を失うので、鍋底から餃子が剥がれます。無理に触らないように加熱を続けます。
裏側をチェック。きれいな焦げ色がついています。最初に油慣らしを充分にしているのでくっつくことはないはず。
焼き上がり。前回説明した通り、鉄のフライパンは使用後、洗剤で洗って大丈夫です。前回、シーズニング(油慣らし)の説明をしましたが、きちんと油を馴染ませれば油の膜が剥がれることはありません。その理由は「重合」という現象にあります。重合とは油の分子が繋がることです。(重合したものをポリマーと呼びます)
調合した油はちょっとやそっとのことでは落ちません。カー用品店に行くとワックスの横に「ポリマーコーティング」という製品が並んでいますが、ワックス=油脂と違ってポリマーであればすぐに剥がれないというわけ。車のポリマーコーティングには劣化しやすいというデメリットがあります。劣化したものは取り除かないと、そのままボディに張り付いて汚れになります。この汚れ、調合しているので、ちょっとやそっとでは落ちない汚れです。さらにその汚れに他の汚れがくっついて……という事態が起きます。
鉄のフライパンもこれと一緒。鉄のフライパンは頻繁に料理に使って(きちんと洗剤で洗い、頻繁に油慣らしをして)いい状態に保つ必要があります。逆に言えば毎日使うのであれば一生モノの道具。テフロン加工のフライパンは高温での調理(ま、ステーキに使うくらいで、他の用途はあんまりないですが)ができないという弱点があるので、鉄のフライパンも選択肢に入ってくるでしょう。