見出し画像

ドライアイスを使った香りの演出

風邪を引いて鼻が詰まると食べ物の味がよくわかりません。離乳食のような野菜のピューレを作って、目隠しをして、鼻をつまんで食べる実験をしてみるとそれがよくわかります。ニンジンとカブのピューレの違いすら、言い当てるのが困難でしょう。

わたし達、人間が匂いを感じる経路は二つあります。1つ目は周りの空気に含まれる匂いを鼻で感じる「オルソネーザル」(たち香)という経路。もうひとつは食べ物を飲み込んだときに口の奥から鼻に流れる揮発性の芳香分子を嗅ぎ取る経路でこれは「レトロネーザル」(あと香)と言われています。

食べ物を食べた時に感じる香りはほとんどが「レトロネーザル」です。しかし、実際にはどこまでが口から鼻を通してその香りを感じているかはわかりません。食べ物の香りの大部分は鼻ではなく、口(舌)が知覚するからです。わかりにくので、少し説明します。例えば鼻をつまんで梅ガムを噛んでみてください。甘いだけですね。次に指を離すと香りがドッとでてきます。しかし、その時は鼻ではなく口のなかに「梅の香りがある」と感じるはずです。この錯覚を「オーラルリファラル」と呼びます。つまり、味と香りは密接な関係があるということ。

香りについては今後、徐々に解説していくとして、今回、とりあげるのはドライアイスを使った香りの演出です。これまでの料理は「レトロネーザル」を扱ったものでしたが、最近では「オルソネーザル」の演出もよく用いられます。

スーパーマーケットでもらってきたドライアイスがあればそれを簡単に体験できます。

花器などの入れ物とエッセンシャルオイルを準備します。今回はオレンジとローズマリー。

ドライアイスにエッセンシャルオイルを垂らします。実際にはこの上にローズマリーの枝(花が咲いていれば言うことなし)などを活けて、ドライアイスは隠したほうがいいです。

食卓の中心に置き、お湯を注ぐと香りが流れます。ドライアイスは-78℃なので扱いには注意してください。決して素手では触らず、耐冷製のある器を使ってくださいね。

ローズマリーとオレンジの香りと一緒にローストした肉を味わったり、レモンタイムの香りと一緒にスクランブルエッグを味わう、というわけです。

Fat Duckのヘストン・ブルメンタールやアリニアのグランド・アケッツといった著名なシェフが料理に用いたところから広まった技法です。言ってみれば料理のフレーバーを拡張する試みは、味以上の味を生み出そうとする努力。とはいえ、ドライアイスを使った実験は子供の頃に遊んだものと本質的には一緒です。(お風呂場や洗面器にドライアイスを入れて遊びませんでしたか?)過剰な演出は逆効果ですが、遊びと割り切って楽しむと、新しい味の世界が広がるはずです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!