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cakes連載〈「 おいしい」をつくる料理の新常識〉第20回余談デミグラスソースについて

今回のテーマは『ビーフシチュー』

今回は悩みました。こういうレシピはお店の味に近づけるか、あるいは手軽に別の方向性を目指すかという選択肢がまずあります。お店の味の再現は不可能なので、エッセンスだけを抽出して、レシピを組み立て直しました。

はじめはデミグラスソースの缶詰を入れないレシピを考えていたのですが、まー、味が出ない。試作を繰り返した結果、わかったことは

ケチャップを入れるレシピは☓
中濃ソースを入れるレシピは☓
缶詰のフォンドボー(またはグラスヴィアンド)が深みを出すには手っ取り早い

ということ。最後はかなり身も蓋もない話ですが、市販品の凄さを思い知らされました。ただ、缶詰のデミグラスソースの問題点は缶臭さとよくいいますが、特有の匂いが気になります。これをどうするか、というのが課題でした。他の材料と煮込む時間を増やせば気にならなくなるんですが、ソースを入れてから煮込む時間を増やすと焦げるリスクがあるので……。

これもいろんなのを試しまして、結局一番効果があったのは「みりん」でした。ミリンの肉や魚の臭さや脂質の酸化臭を抑制するマスキング効果はたいしたものです。また、ミリンを入れることでトマトピューレ(本当はトマトペーストを使いたかったのですが、入手しやすさの関係でピューレを選択)の酸味とのバランスをとっています。

わかっている人は勝手にやると思いますが、肉をあらかじめ焼いてからスープをとるともう少し色と味が深くなります。ただ、今回は構造を伝えるのが目的なので省略しました。えーと、一応、余談では各種の缶詰を使ったそこそこのレベルのデミグラスソースのレシピを紹介しておきます。

市販のデミグラスソースのアレンジ
牛すじ   300g
玉ねぎ   150g
ニンジン  150g
セロリ   50g〜75g
にんにく  1片
トマトペースト 大さじ1
赤ワイン    1本
みりん    大さじ3
ドミグラスソース缶 2缶
缶詰のフォンドボー 1缶
ブイヨン     600cc
飴色玉ねぎ    2個分
ブラウンルー   大さじ2

1  牛すじは小さく切り、フライパンで焦げ目がしっかりとつくまで焼く。野菜は角切りにして、同様に焦げ目がつくまで炒め、途中でトマトペーストを加えてさらに炒める。どちらも深目の鍋に移す。
2 赤ワイン、ミリンを注いで沸騰させ、水分がなくなるまで煮詰める。かなり煮詰まったら、ドミグラスソース缶とフォンドボー、ブイヨン、飴色に炒めた玉ねぎ、ブラウンルー、水を加える。沸騰したらアクをとり、2時間以上煮て、濾す。

煮詰めているあいだソースが側面にこびりつくので、それは暇を見てなかに落としてください。その部分が味と色を深めてくれます。煮込むときに焼いた煮込み用の肉を入れればビーフシチューになります。

こちらの作り方は焦がした牛すじと飴色玉ねぎがはいっている分、色が深く出ていると思います。ワインの分量を洋食店のドミグラスソースよりもかなり増やしているのですっきりした味わいになっているはずです。ただ、ワインを増やすと酸味も増えるので、そこを飴色玉ねぎの甘さでバランスをとっています。

基本的にこういった茶色い料理は焦げ味と酸味、甘みのバランスで成立しています。フランス料理のソース作りが上手な人はポルト酒やベルモットなどの甘みが強いお酒と酸味の強いお酒を巧みに組み合わせているんですね。

結局、水を足しながら6時間煮込むとここまで色が深くなります。これくらいであればそこそこごまかせるレベルのデミグラスソースになっていますが、とりあえず要点だけ覚えておいてください。ちなみにこの牛すじはカレーに入れるとおいしいです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!