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スキレットの教科書

スキレットは溶かした鉄を型に流し込んでつくる=鋳物のフライパンのこと。ちょっと誤解されがちな道具なので、詳しく説明する必要性を感じています。そこで今回はスキレットの教科書。

スキレットの長所は抜群の蓄熱性。同じ厚さのアルミフライパンと比べると2倍の保温性を誇ります。200gのステーキを薄いアルミ鍋に入れると20℃近くも温度が下がりますが、鋳鉄の鍋は温度がほとんど変わりません。そのため表面がむらなくこんがりと焼けて、カリカリの層ができます。

柄が金属製なので、オーブンに入れられるのもメリット。ピザを焼くときにも活躍します。スキレットを裏返してオーブンで熱くして、その上でピザを焼けば家庭用のオーブンでもお店に負けないピザができます。(Heston Blumenthalが考案した方法です)

それから圧倒的な耐久性! 使い込むほどに使い勝手がよくなり、ほぼ半永久的に使えます。何世代に渡って、引き継がれる調理道具です。

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弱点ももちろんあります。均一に熱くならない、というのもその一つ。一般的なイメージとは逆ですが、鋳鉄は熱伝導率が低いので、熱源から離れたところはなかなか熱くなりません。この問題を解決するには「ガスコンロのサイズにあったスキレットを選ぶこと」です。

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日本の家庭で一般的なガスコンロであれば8〜9インチが適当です。もうひとつは時間をかけて予熱すること。あるいはオーブンに入れて熱くしてからガスコンロに移すという方法もあります。

鋳鉄には「錆びる」というリスクもあります。しかし、これは後述するメンテナンス方法を行えばまったく問題になりません。一番の弱点は「重い」ということでしょう。女性に嫌われがちなのはこのため。小さいけれど重い=比重が高いので小さな体積のなかに熱エネルギーを蓄えられるので、これは仕方がないところ。もうひとつトマトソースのような「酸の強い食品」は得意ではありません。しかし、これも後述のメンテナンスをしっかり行い、油の層をつくったあとであれば問題ありません。肉を焼いたあと、ワインを加えてソースをつくる、みたいな料理は使い込んでからにつくりましょう。

シーズニングについて

フライパンに食材がくっつかない仕組みについては鉄のフライパンの記事で説明しました。鍵を握るのは油です。買ってきたスキレットはよく洗い、充分に熱してから(ガスコンロか230℃のオーブンで30分)油を刷り込みます。持ち手や底も忘れずに。

この時、ラードやベーコンの脂を使うべき、という主張がありますが、乾きやすい油=乾性油、または不乾性油を使ったほうが具合がいいと思います。乾性油とはヨウ素価という数値が低い油のことで、ひまわり油やアマニ油、クルミオイルなどです。不乾性油である大豆油やコーン油でもいいでしょう。フードライターのJ-Kenji-Lopez-Altはラードを使うべきという主張が生まれた背景には「鋳鉄の全盛期にそれらの油が安かったからではないか」と推測しています。

油を塗っては空焼きする工程を2〜3回繰り返せばOK。油の膜ができて、いつでも使えます。とはいえ最近のスキレット(例えばロッジなど)はシーズニング済の製品を売っているので、買ってきたらすぐに使えます。

さて、実際に肉を焼いてみますか

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スキレットは使う前に充分に熱しましょう。油が馴染んでくれば冷たい状態から肉などを入れてもうまく焼けますが、はじめのうちは基本を守ったほうが安全。鉄のフライパンの基本と一緒です。

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油を馴染ませます。羊や豚肉など脂身がついている肉の場合は脂身から焼く様にすれば油を入れる必要すらないかもしれません。牛肉を焼く場合は強火のまま焼いたりしますが、その他の食材は弱火〜中火に落としても大丈夫。スキレットは蓄熱性が非常に高いのです。

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肉をパリッと焼きました。

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使い終わったら油をふき取りましょう。食材がこびついて困るようであれば塩を大さじ1入れ、それを研磨剤にしてふき取ります。

このあとの工程は様々な議論を呼びます。純粋主義者の鋳鉄鍋は絶対に洗ってはいけない、という主張です。しかし、彼らの主張はまったく無視して大丈夫です。自分のスキレットは20年以上、洗剤で洗っていますが、食材がくっつくようなことは一切ありません。調合した油の膜(=ポリマー)は洗剤で洗ったくらいでは落ちないからです。

前述したライターのJ-Kenji-Lopez-Altは石鹸をつけたスポンジでスキレットを洗う画像を記事の冒頭に掲載し「この写真は離婚を引き起こし、友情を終わらせ、戦争になる可能性がある」と書いたうえで「洗剤で洗う」ことを推奨しています。僕もまったくの同意見です。

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あまりに熱いスキレットを流しに入れると危ないので、少し冷めしてから流しに入れ、洗剤で洗いましょう。使用後はすぐに洗うこと。冷めてからよりも熱いうちのほうが汚れがすぐに落ちるので、洗い物が楽です。このとき、強く研磨しないようにしましょう。ボンスターのような硬い金属タワシで洗うと、表面の調合した膜が剥がれてしまいます。スポンジで洗う程度で充分きれいになります。

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洗ったスキレットをコンロに戻し、水分を飛ばします。スキレットの使い方に自然乾燥はありません。(スキレットに自然乾燥なし、と憶えましょう)

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煙があがりはじめるまで熱したら、片付けは終わりです。自然に冷ましてあとはしまうだけ。一番のメンテナンスは頻繁に使うこと、です。揚げたり焼いたりする料理をするたびに油の層ができて、状態が安定します。慣れるまでは煮込み料理などは控えましょう。

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もしも、長く使わない場合は油を塗っておきます。熱い状態でサラダ油を塗ってもいいですし、冷めてからアマニ油(もしくはクルミ油)を塗ってもいいでしょう。おすすめは後者ですが、前者でもまったく問題ありません。もしも、錆が出てしまったらヤスリで擦ってとりのぞき、シーズニングをやり直せばいいだけです。

ややこしいことを言う人が多いので、敬遠されがちですが、まとめると難しいことはなにもありません。使ったらすぐに洗って、よく乾かす。要点としてはそれだけです。重たいので収納が大変という意見もありますが、湿気(=水分)に弱いので、むしろ出しっぱなしにして、頻繁に使うというのがいいのかもしれません。出しっぱなしのほうが落としたりせず安全ですし、毎日使える道具ですから。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!