鉄のフライパンの再生とメンテナンス
知人の家で料理をしていたところ「最近、鉄のフライパンで卵を焼くとくっつんだよね」という話が。ちょっと見せてもらいましょう。
こ、これは良くない状態です。このフライパンで調理をすれば焦げ付く事態が想像できます。その理由は表面に焦げなどの汚れが付着しているから。
そもそもなぜフライパンに食材がくっつくのか、を復習しておきましょう。フライパンの表面を顕微鏡でのぞくと、目に見えないヒビや突起があります。このでこぼこがフライパンに食材がこびりつく物理的な原因です。
タンパク質を加熱するとお互いに反応しあって、網状組織をつくるわけですが、この時、鍋の金属イオンとも反応します。例えば熱くしたフライパンに卵液を注ぐと、凝固したタンパク質がこの凸凹にしがみつきます。つまり「くっついてしまう」のです。
一般的な解決策は油を注ぐことです。油は温度が高いほど流動性が高くなり、隙間を埋めることができるので、注ぐ前にフライパンを充分に予熱しておきましょう。もう一つの方法はそのうえで「かき混ぜ」たり「動かしたり」することです。タンパク質が固まってしまえばそれ以上、反応することはありません。しかし、フライパンの表面が汚れる=焦げがついていると、油が馴染まず同じ部分がくっついてしまいます。
また、こうした物理的な問題の他に化学的な原因もあります。接着剤を鍋に入れるとくっつきますが、同じ用に糖分=飴を鍋に入れればくっつきます。野菜の焦げ付きは主にこちらに依るものです。
さて、このフライパンの裏側を指で触ると手に汚れがくっつきます。
「使用後は絶対に洗剤で洗わないようにして」
「よく乾かしてラードを塗っていた」
とのことですから、裏側に付着している黒いベトベトは重合した油脂でしょう。掃除をずっとサボった換気扇にべっとりとした油汚れがついているのを見たことがあるか、と思いますが、これはまさにあれです。せっせと油を塗り込んだことが逆効果というわけで、こうなると内側から錆が進行することもありますし、衛生的にもよくありません。また、油が酸化した匂いが食材についてしまうので、料理の味が落ちてしまいます。
鉄のフライパンは洗剤で洗ってはいけない、とよく言われますが、現場のキッチンでは洗剤でガシガシ洗っています。きちんと手入れされた鉄のフライパンは洗剤で洗っても問題ありません。これはNHKの人気番組「試してガッテン」でもとりあげられているくらいメジャーな話なのですが、意外と知られていないのかもしれません。研磨剤入の洗剤は傷がつく=錆やこびりつきの原因になるので避ける必要がありますが、むしろ鉄のフライパンは普通の中性洗剤でよく洗うべきだと思います。
フライパンを再生するには、まず汚れを落とします。ガスバーナーで加熱し、こびりついた汚れを炭化させてしまいましょう。お店ではガスコンロで焼き切ったりしますが、家庭のガスコンロはセンサーがついていて温度が一定に達すると火が弱くなるのでガスバーナーを使ったほうが楽です。
スクレーパーでガリガリと表面を削りとります。
たわしはここまで来てしまうと役に立ちません。汚れがたくさん出るので屋外で作業したほうがいいでしょう。
油汚れはあらかたとれましたがまだまだ汚れています。こうして見るとやはり内側で錆が進行していますね。
次に登場するのがサンドペーパーです。はじめは#100程度の目の粗いサンドペーパーを使い、表面の汚れをけずりとります。
サンドペーパーの目を細かいものに変えながら表面をよく磨きます。最終的には#200ぐらいで仕上げるときれいです。
汚れがかなり落ちました。
仕上げにメラミンスポンジでさらに磨きます。
一度、表面を洗いました。銀色の部分が鉄本来の色です。この状態だと鉄が露出しているので、錆びる恐れもありますし、油も馴染みません。
そこでガスコンロでよく焼きます。徹底的に焼いたので、写真からも色が変わったのがわかるか、と思います。(青っぽくなればOKです)これは鉄が酸化した証拠。鉄は焼き込むことで四酸化三鉄という物質に変化します。錆も酸化によって生じる現象なのですが、先に酸化させたしまえばこれ以上、錆びないという理屈です。また、金属の酸化物は親油性があるので、油もよく馴染むのです。
酸化させたら自然に冷ましてください。すぐに次の工程であるシーズニングを行うとフライパンが熱すぎて油が分解し、煤になってしまうので注意。
一度冷ましたフライパンを熱します。
油を注ぎます。煙が出ますが大丈夫。これをシーズニング(油慣らし)といいますが、このときの油の選択は結構問題です。油には色々と種類がありますが、ヨウ素価によって
不乾性油 : オリーブ油
半乾性油 : 大豆油、ナタネ油、綿実油、サフラワー油。
乾性油 : クルミ油、アマニ油
などの種類に分かれます。オリーブオイルは不乾性油=乾燥しない油なので、フライパンの膜が上手にできず、好ましくありません。今回はクルミ油を使いましたが、日本の家庭であれば普通のサラダオイル(半乾性油)がいいでしょう。人によってはアマニ油が一番いいという意見もあります。
油を馴染ませたらオイルを捨てます。これで酸化させた表面を油でコーティングした状態です。このコーティングの膜はちょっとやそっとでは落ちないので、洗剤で洗っても大丈夫というわけ。というか、むしろ洗剤で洗ってきれいな状態を保ちましょう。
この状態になれば食材はもうくっつきません。試しに中火で加熱して、少量のオリーブオイルを馴染ませてから、卵液を注いでみました。
卵(やケーキ生地)はタンパク質をたくさん含んでいるのでくっつきやすい食材です。
ほら、しっかりと焼き込んでから油を馴染ませてあるので、くっつくことはありません。使い終わったら洗剤でよく洗ってから、火にかけて表面をよく乾かしておけばいいだけです。
ただ、長い間使わずに湿気の多いところに放置したりするとさすがに錆びますが、その場合もヤスリで削ってからこのように油を馴染ませていくことで復活します。これが鉄のフライパンは一生モノの道具という理由ですね。
こちらの動画で普段使いの方法について詳しく説明しています!