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おでんは「冷める時に味が染み込む」わけではない!

寒い日にぽかぽか温まるおでんはいかがでしょう? おでんをはじめとして煮物は、冷める時に味が染み込む、とよく言われますが、これは誤り。スッキリした味わいの出汁でおでんをおいしくいただく方法をご紹介します。

冬にぴったりのおでんはおでん出汁を具材に含ませる料理です。おでん出汁には便利な市販品もありますがわりと濃いめの味付けがおおい印象です。そもそも市販されている練物は甘めの味付けが多いので、くどくなりがちです。せっかく自分でつくるなら出汁から手作りしましょう! すっきりした味に仕上げたいので、今回は「出汁20:醤油1:酒1」でおでん出汁をつくります。一般的なおでん出汁の割合は「出汁20:醤油1:みりん1」ですから、みりんのかわりに酒の甘さを使った配合です。

おでんの基本は「長時間煮込まない」こと。90℃〜95℃くらいの温度を意識すると上手にできます。

おでん

材料
大根…半本
こんにゃく…1枚(250g)

練り物類
焼きちくわ…4本(1パック)
魚のつみれ…12個(1パック)
揚ボール…130g(1パック)
ごぼう巻…4本(1パック)

おでん出汁
水…1L〜1.5L
昆布…10cm角〜15cm角
鰹節…15g〜20g
醤油…50cc〜75cc
日本酒…50cc〜75cc

1.大根は2cm厚に切り、皮を厚めに剥く。鍋に入れ、たっぷりの水を注ぎ、強火にかける。沸騰したら弱火に落とし、25分間下茹でする。

2.おでん出汁をつくる。鍋に水、昆布、鰹節、醤油、日本酒を入れて中火にかける。沸騰したら弱火に落とし、30秒間煮て火を止める。

3.1で下茹でした大根、適当な大きさに切ったこんにゃく、練り物類を鍋に入れ、2の出汁をこし入れる。出汁に使った昆布も切って一緒に入れ、弱火にかける。沸騰させないように注意しながら15分間煮て、火を止め、蓋をして1時間以上置く。

4.3の鍋を再び中火にかけ、沸いてきたら弱火に落とし、蓋を開けた状態で10分間煮れば出来上がり。そのまま食べられるが、火を止め、一晩(8時間以上)置くと味がさらに染みるので、前日につくって翌日食べると最もおいしく味わえる。その場合は粗熱がとれたら、冷蔵庫で保存する。

味を染み込ませる秘訣

四国のうどん屋さんでは待ち時間におでんを食べる習慣がありますが、おでんの命は出汁です。今回は鰹節と昆布を使っていますが、そこに煮干しを加えたうどん屋さんの出汁を使うとさらにおいしくできます。

うどん屋さんがおでんを出す理由は手間がかからない料理だから……と言ってしまうと乱暴ですが、おでんの具材は普通「おでん種専門店」から購入するものばかり。おでん作りは一見すると大変そうですが、大根を下茹でして、出汁さえ作っておけば、あとは台所に立たなくても鍋が勝手に調理を続けてくれるので、冬におすすめです。

大根はまず下茹でします。いきなり煮るとおでん出汁に大根の風味が出てしまい、後から入れる他の素材に勝ってしまうので、これは必要な工程。皮を剥いた大根は通常隠し包丁といって十字に切り込みを入れることが多いですが、この工程は必要なのでしょうか? 隠し包丁を入れたものと入れないものを比較してみました。

左が隠し包丁を入れた大根、右が入れていないもので、それぞれ30分間煮込み、一晩経った状態です。出汁のなかで30分煮込んだ段階では隠し包丁をしたほうが味は染み込んでいましたが、一晩経った状態となると浸透具合にほとんど差はありませんでした。というわけで、このレシピでは隠し包丁を入れる工程は省略しています。

大根は強い野菜なので、強めの火加減で適当に煮ても大丈夫。竹串が刺さるまで下茹でしましょう。また、下茹でした状態の大根も市販されているので、それを選択するのも一つの方法です。

次にこんにゃくですが、裏の成分表示を確認し「こんにゃく芋」と書かれているものを使いましょう。こんにゃくにはこんにゃく粉から作る製法と、芋を煮て潰したものを固めるものの二種類がありますが、前者のこんにゃくは味が染み込まないので、おでんよりも炒めて味を絡めるような料理に向いています。パッケージに「あくぬき不要」と書かれている商品は製造工程で水にさらしてあるので、そのまま使うことができます。

練り物は今回、紀文食品の揚げボール、有限会社浅角のこだわりのごぼう巻、カネタ食品ののどぐろ入りつみれ、寿隆蒲鉾ののやきちくわを使用しましたが、なにを入れてもかまいません。スーパーの練り物コーナーに行くと様々な練り物が入った「おでんパック」という商品が売られているので、それを使うのが簡単です。

おでん出汁をつくったら後は煮込むだけ。この時注意しなければいけないことは「ぐつぐつ煮込まないこと」です。練り物はすでに火が通った商品なので、高温で煮るとパサパサになってしまいます。

加熱温度が必要な食材である大根にはすでに火が通してあるので、やや低めの温度で加熱し、火を止め、予熱を利用して仕上げていきます。つまり、おでんの具にじゃがいもやれんこんを入れたいときも事前に火を通しておき、同様に調理すればOKということです。

煮物はよく「冷めるときに味が染みる」と言いますが、これは正確ではありません。例えば100℃で1時間加熱した煮物と、100℃で30分間加熱し、火を止めて30分おいたものでは、前者のほうが味は浸透しています。煮物の味の浸透速度は温度に依存するため、高温で煮続けたほうが味は入るのです。しかし、火を止めて冷ますことには別の効果があります。さきほど述べたように練物は高温で加熱しないほうが良いので、余熱を使って穏やかに加熱できますし、煮汁が煮詰まって味が変わるようなこともありません。だからおでんは冷ましながら火を入れていくのが正解なのです。

ここでは二回にわけて加熱することで、しっかりと味を含ませています。一晩置くと大根に完全に味が染みますが、出来たての白い部分が残った大根もしっかりと素材の味が感じられていいものです。熱々のおでんは熱燗と最高の相性。冬の寒い日に部屋でゆっくりと楽しむと贅沢な時間になるはず。

おでんの出汁が余ったら、それでご飯を炊くと茶飯という料理になります。おでん出汁をかけて、だし茶漬けとして楽しむのも一興です。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!