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出汁のとり方、もう一度復習〜鰹節編〜

昨日の続きです。

さて、昆布だしが引けました。この段階で味見をしてもいいのですが、合わせ出汁にするので、確認程度でいいでしょう。さて、今日は鰹節の話をしてきます。

鰹節はやはり日本料理を代表する味覚で、うま味のもとはイノシン酸と脂肪です。今回はこのあたりについて考えてきましょうか。

鰹節もまたものによって味が異なる

合わせ出汁に鰹節を入れる量は人によって大きく変わります。よく「お店の人はぜいたく鰹節を使い……」みたいなことを言う人がいますが、はっきり言って人によりけり、です。水1lに対して10gくらいしか使わない人もいますし、50g以上投入する人もいます。でも、ま、一般的には1%〜2%が目安でしょう。

昨日、グルタミン酸とイノシン酸の量が1:1で最もうま味の相乗効果が起きる、という話をしました。

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(うま味インフォメーションセンターウェブページより図版引用)

右側の図がそうです。

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うま味インフォメーションセンターや日本料理アカデミーが京都の料亭の出汁を調べたところ、ちゃんとグルタミン酸とイノシン酸の比率が1:1に近くなっていました。

昨日も話しましたが、1:1でうま味の相乗効果を最大に引き出すと、日本料理が尊ぶ「後味のいい出汁」が引けます。うま味が強いわりに両旨味成分の量が少ないので、すぐに口からなくなるからですね。もちろん、これがベストではなく、例えばこのバランスをもっと崩し、昆布の量を増やして後味の強い出汁にしたり、鰹節の量を増やして先味と香りのアタックを強調する、という出汁の組み立て方も考えられます。ラーメン屋さんのスープなんかはかなり意図的に味のバランスを崩して、インパクトを出していますが、いろんな出汁の味があるので、なにがベストか、というのは作りたい味によります。

さて、つぎに鰹節の種類の話です。鰹節はカビつけしていない荒節とカビつけした本枯節にわかれ、さらに薄削りと厚削りにわかれます。荒節と本枯節を比較したデータは少なく、明確な結果が得られていないのですが、一般的には本枯節の方が脂肪分が少なく、香りのいい出汁が引けます。

見分けるには裏の成分表示の品名の欄を確認すること。「かつお削りぶし」とあれば荒節、「かつおかれぶし削り節」「かつおぶし削りぶし」とあれば本枯節です。ややこしいな、と思いますが、とにかくそうなっています。細かいことを言う人は本枯節にも「仕上げ」と「枯荒本仕上」「枯荒本節」があるとか言いますが、これは鰹節屋さんの範疇なので、我々にはあまり関係ない話か、と思います。

細かいこと言うと鰹節の背か腹、血合いあり、血合い抜きとか色々と出てきますが、本稿の趣旨からは外れるのでここでは省略します。

築地の鰹節屋さんに聞くとたいてい「本枯れ節がいい」と言いますが、関西で好まれているのは荒節です。昆布の味があるので、鰹節の風味はあまり強くない方がいいのでしょう。ちなみに以前、僕が取材した焼津の鰹節メーカーの方は「みそ汁には荒節が向いている」と言っていました。荒節のほうが燻香が強いので、香りのいいみそ汁になる、とのこと。

実際には「手に入る鰹節」を使うことになります。家はお蕎麦屋さんではないので、厚削りよりも薄削りのほうが他の料理にも色々使えて便利でしょう。とりあえず手に入るものを買ったうえで、その量をいろいろと変えていく、というのが現実的です。

ちなみに話はちょっと逸れますが、僕が普段使っているのは鰹節ではなく、まぐろ節です。(近所のスーパーで売っているから、というのがその理由)まぐろ節はカビ付けしないものが多いので、こちらもカビ付けしていないもの。

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うま味インフォメーションセンターのデータベースによると

かつお節 イノシン酸 474mg/100g
まぐろ節 イノシン酸 970mg/100g
参考 煮干し イノシン酸 350〜800mg /100g

まぐろ節の方がイノシン酸が豊富ですが、実際の印象としては強いうま味があるというより甘みが強いのが特徴か、と思います。というのも、旨味成分の量ってあまり当てにならないんですね。

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例えば「各種食品中の呈味成分に関する研究」(武恒子)にも高温で抽出した方が旨味成分自体は増えますが、官能評価の結果は低温抽出の方が好評だった、という報告があります。脂肪酸やイノシン酸以外の物質(例えば他のアミノ酸および香り成分)が出汁の味には大きく影響するからです。あと、二番だし(ここでは出し殻でとった出汁)にはほとんどうま味がないですね。また、こちらの論文では味噌汁や佃煮などの旨味出汁には鯖節やムロアジ節が活用できるのでは、と示唆しています。これもなかなかいい情報ですね。

さて、実際に出汁をひいてみましょう

昆布だしについては旨味を重視しましたが、鰹出汁に関しては香りを重視するべき、という点を抑えたところで実際に出汁を抽出していきます。

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昆布をとりだした出汁を85℃まで加熱します。

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まぐろ節を水の量に対して1%投入しました。香りを出すためにはある程度の熱量をかけたいので85℃で1分を目安にしています。「各種食品中の呈味成分に関する研究」の結果を踏まえると2分30秒〜3分ほど抽出してもいいかもしれません。

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reproのプリセットレシピだと50秒タイマーがセットされています。それからなんやかんや作業をしていると1分程度になります。

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そういえばアクをとらないんですか? とよく質問されますが、白い泡を味見してもまずくはないのでそのままです。脂肪分の多い鰹節ならアクをとる必要があるかもしれませんが、、、。

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不織布タイプのキッチンペーパーで濾します。

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アクはとっていませんが澄んだきれいな出汁がとれました。

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出汁を絞るか、否かも見解が分かれる部分です。絞ってはいけない派の意見は「酸味やエグミが出るから」で、絞ってもいい派の意見は「家庭ではそんなの気にする必要がない」といったところ。「そもそもなんでそんなに絞りたいのか」というと「なんとなくもったいないから」という感じでしょう。答えは一度、絞ってみればわかります。

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試しに絞ってみました。きつく絞って得られる出汁は40ml程度。この程度の差をもったいない、と感じるのもちょっと大げさかな、と思いますが、逆にたとえ若干の酸味やエグみがあったとしても混ぜてしまえばわからない程度です。

次に絞った液体を味見してみましょう。

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絞らず自然に落とした出汁と絞ったものはまったく同じ味でした。ということは「出汁は絞っても問題ない」というのが結論です。ただし、この結果は使用する鰹節の種類によっても変わってきます。

絞ったら怒る人の前では絞らず、誰も見ていないのであれば絞ってしまいましょう。そのうえで味見をして判断すればいいのです。鰹節の種類によってはたしかに酸味やエグミが出ることもあるかもしれません。その場合は絞らない、という解決方法ではなく、鰹節自体を変える方が合理的です。

昨日、今日とつらつら書いてきましたが、出汁はうま味と香りの複合的なものです。「正しい出汁のとり方」を探すよりも、自分が目指す出汁の味を決めることが大事。あとは自分の身の回りで手に入る材料で色々、模索していく形になるか、と思います。

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