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葛粉についての考察

以前、瓢亭風がゆの作り方をご紹介したときに銀餡(醤油を落とした出汁にとろみをつけたもの)をつくりました。そのとき、〈葛粉〉についてちょっとお話しました。じつはこの葛粉、ややこしい食材の一つです。

例えば「葛粉、買ってきて」と言われて富澤商店で葛粉を買ったとします。葛粉というくらいなのだから葛からとったデンプンなのだろう、と思いますが、名称と原材料名を見ると『名称 甘藷でん粉』とあり、原材料名は甘藷でん粉(国産)とあります。説明にもちゃんと『国産さつまいもを100%使用しています』と書かれていますが、普通、葛粉として売られているものはさつまいものデンプンです。

「じゃあ、葛のデンプンは?」と疑問に思われるかもしれませんが、ちゃんと売られていまして、その場合は『本葛粉』という商品名で区別されています。

吉野葛は地域団体商標名ですが、裏を見るとちゃんと表示があります。

吉野葛は葛デンプンと甘藷澱粉が半々(50% 50%)になっています。

ついでに言うと『片栗粉』は片栗ではなくて、じゃがいもの澱粉。昔、『牛肉の大和煮』と表示しているクジラ肉の缶詰があり、みんなクジラと思って食べていたのですが、みんなが牛肉を食べるようになると「さすがにこれは問題ではないか」となって、表示が見直されました。その時、片栗粉も一緒に問題にはあげられたのですが、「誰もカタクリの根からとっていると考えている人はいないので偽装ではない」ということで片栗粉の名前が残った、という経緯があります。

それぞれの性質の違いを確かめるために、本葛粉、吉野葛、葛粉それぞれ9g(大さじ1)を大さじ1の水で溶き、200ccの水と加熱しました。

左から本葛粉、吉野葛、葛粉です。味見をすると風味がはっきりと違い、本葛粉には特有の香りがあることがわかります。和食屋さんのデザートで食べる葛切りのあの香りです。ちなみに葛でん粉の粒子の大きさは5~20マイクロメートルと澱粉のなかでも小さいのが特徴。

もっとも透明度が高かったのはさつまいもの澱粉のもの。葛とさつまいも澱粉の精製度の違いによるものかもしれません。とろみ具合はどれも非常によく似ています。さつまいも澱粉の大きさは5~20マイクロメートルと葛とほぼ同じなので、当然かもしれませんが……ただ、大きな違いはさつまいも澱粉には葛特有の香りがないこと。逆にいえば料理に使うのであればさつまいも澱粉で充分に代用できる、ということです。本葛粉は高価なので、闇雲に使うのはちょっともったいない気もします。ちなみに吉野葛は中間的な性質でした。

おまけで片栗粉とコーンスターチも混じえて、比較しました。一番、左が甘藷でん粉、中央が片栗粉、右側がコーンスターチです。これはひと目で違いますね。さきほどと水と澱粉の量は一緒ですが、片栗粉ははっきりと粘度が強くなりました。ジャガイモでん粉の粒の大きさは2~100マイクロメートル。粘りが強いのもうなずけます。よく日本料理では「片栗粉を使うと濁るので、葛粉のほうがいい」と言いますが、透明度は意外と高いようです。どちらかというととろみが強く出るので、量に注意が必要みたいです。

コーンスターチはわりあいさらっとした感じで、色が濁りました。通常は乳製品とあわせて使うことが多いので、濁りは気にならないと思いますが、こうして比較すると結構違うものです。こんな風に比較すると赤ワインソースにとろみをつけるのに水溶きコーンスターチを使う人がいますが、それだったら葛粉を使ったほうが仕上がりはきれいでしょうし、おそらくおいしく仕上がることがわかります。とろみの性質によってソースがどのくらいまで口のなかに残って欲しいかをコントロールできるので、使い分けるのがいいんでしょうね。

これはおまけで水にキサンタンガムでとろみをつけてみました。味や風味はまったくなく、口のなかでさらっと溶ける感じで、粘りが全然ありません。ただ、キサンタンガムは玉になりやすいという弱点があり、砂糖や塩などと混ぜて使う必要があるのが難点。

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樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)など。
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