サンマの塩焼きはサンマ自身の脂で焼け!
秋はサンマの季節。昔は日が暮れてくると家々の路地からはサンマを焼く煙が流れていた、と聞きますが、今では魚を焼く煙はすっかり嫌がられるように。そこで今回はサンマをフライパンで焼く方法をご紹介します。ほとんど煙を出さずに焼ける、現代的な方法です。
サンマを焼くポイントは加熱を最小限、短時間に抑えること。長く焼くとサンマのおいしさである脂肪分が流れ出て、身がパサパサになってしまうからです。このポイントを踏まえて、いくつか工夫をしていきます。
サンマの塩焼き
材料(2人前)
生サンマ 2尾
塩 適量
大根おろし 適量
スダチ 1個
まずはおいしいサンマの見分け方から。
サンマはなるべく大きいものを選びます。身も蓋もないことを言うとサンマの味は値段に比例し、大きいものほど脂が乗っています。よく「クチバシが黄色い方がいい」と言いますが、この時期のサンマのクチバシはみんな黄色がかっているので判断の材料にはならないかもしれません。
1.包丁を立ててサンマの表面をこすり、鱗を落とす。
*魚を扱う基本の一手間
魚を扱う基本を確認しておきましょう。まな板は濡れ布巾などで拭き、表面を湿らせておきます。こうすると魚の臭いがつきづらいです。
サンマは鱗がない魚と思われがちですが、この時期に流通している生サンマには鱗が残っていることがあります。きちんと確認し、残っていたら除去することが重要です。
2.サンマの頭を持ち、腹を下にしてまな板に立てた状態で、写真を参考に頭のつけねあたりに中骨まで包丁を入れる。中骨が切れたら、頭を引っ張ると内臓が抜ける。
*サンマのつぼ抜き
炭火や魚焼きグリルであればはらわたまで上手に焼けますが、フライパンの場合は鍋肌に接している面からしか加熱されないので、内臓の水分を飛ばそうとすると身に火が入りすぎてしまうリスクも。
そこで思い切って、この場合ははらわたを抜きます。
「サンマははらわたが旨いのに」
という声が聞こえてきますが、はらわたを食べたい派の方には活用法を後述します。この頭の部分を引っ張って内臓を抜く方法を「つぼ抜き」と言います。細長い魚全般に使う手法なのでマスターしておきましょう。
3.サンマの表面とお腹のなかを水でさっと洗い、キッチンペーパーで水気をふきとる。
*魚の味をすっきりとさせる水洗い
魚の頭を落とし、内臓を抜き、魚を洗うまでの工程を「水洗い」といいます。表面のぬめりを落とし、血を洗い流して生臭みを減らす効果もあります。この時、腹から割り箸を入れると、中骨に沿ってある血合いの部分が簡単に洗えます。
もちろん、水につけておくと魚が水を吸ってしまうので注意が必要です。手の温度で温まらないように手早く扱いましょう。
4.サンマの尾を切り落とし、フライパンに入る大きさ(今回は半分に)に切る。
*均質化させて火の通りを揃える。
魚は硬い骨のある頭、水分を多く含む内臓、身の薄い尾の部分など様々。今回は最初に頭を落とし、内臓を抜き、最後に尾を切り落とすことで、身を均質化させます。これでかなり焼きやすくなるはずです。
5.さんまの上身に斜めに切れ目を入れ、下身は中骨に沿ってまっすぐに切り込みを入れる。
*切り込みを入れて、骨の髄まで火を通す
さんまの身は中心ほど厚いので、切り込みを入れることで火の通りをよくします。頭を左に置いて、上にくるのが上身です。こちらは焼き上げた時に表になる面なので、格好悪くならないように斜めに切り込みを入れます。
下身は中骨に沿って、骨に当たるまで切り込みをいれます。中骨の位置は断面からわかりますし、サンマは真ん中に一本の線が走っているので、そこが目印になります。こうすると骨の髄まで加熱することができるので、結果として加熱時間が短くなり、サンマの脂を充分に残したまま焼き上げることができます。
6.両面に薄く、塩を振る。
*塩の量の目安
焼き魚に振る塩の量は重量比で2%が目安とされますが、実は魚種や大きさによっても異なります。サンマの場合は身が薄く、しかも醤油で染めた大根おろしを添えることが多いので、塩味はあまり強くつけないのが得策。写真の量を参考に全体にうっすらとかかるくらいでいいでしょう。(重量比で0.5%が目安)
ただ、鮮度の落ちたサンマの場合は2%の塩を振り、時間をおいてから水分を除去すると、臭みがとれ、身も締まるので上手に焼けます。
7.中火にかけたフライパンでまずは表になる面からサンマを焼いていく。この時、サンマの身を持ち上げて、全体を焼くようにする。
*テフロン加工のフライパンならではの調理法
テフロン加工のフライパンを使えば油を使わずに焼くことができます。油を使うとその風味が入ってしまうので、使わないのがコツ。サンマ自身の脂で焼くからこそ、塩焼きはおいしいのです。
放射熱を使って加熱をする炭火焼きと違って、熱伝導で加熱するフライパンは鍋肌に当たっていない部分からは火が入りません。そこでサンマの身を持ち上げながらまんべんなく焼いていきます。
ただし、テフロン加工のフライパンには耐用年数があります。古いフライパンを使うと身がくっついたり、皮が剥がれたり、といったトラブルに遭うことも。その場合はスーパーで売っているオーブンペーパーを敷いて焼くと、くっつかずに焼けます。
8.焦げ目がついたら裏返して、反対側を焼いていく。この時、キッチンペーパーで出てきた脂をふき取る。
*魚の臭みの原因
脂質の酸化も魚の生臭さの原因。炭火焼きであれば酸化した脂は勝手に落ちますが、フライパンの場合は鍋底に残り、これが表面に付着すると生臭くなってしまうので、キッチンペーパーでふき取りましょう。
サンマを焼いているとジュージューと音がします。はじめはやや高い音ですが、しばらく焼いているとジワジワという具合に音が低くなります。これは水分が抜けた証拠。
菜箸で持ち上げるとサンマが軽くなったこともわかります。火が通った証拠です。後の判断基準は香ばしい表面の焼き色。音、持った時の感じ、見た目。これらの感覚を掴むとどんな魚も上手に焼けるようになります。
9.最後にもう一度、表面を10秒程度焼く。
*最後はつや出し
サンマにはもう火が入っていますが、最後に一度だけ上身を焼き、艶を出すとおいしそうに見えます。
10.お皿に盛り付け、大根おろし、スダチを添える。
*盛り付けの基本
魚は頭が左になるように、大根おろしやスダチなどは右手前に置くのが基本です。日本料理は右利きの人を基準に考えているので、スダチを搾る場合にも右側にあったほうが手に取りやすいという理由もあるでしょう。
もちろん、フライパンではなく魚焼きグリルを使ってもサンマを焼くことができます。両面焼きのグリルであれば切り込みを入れておくと7〜8分ほど焼けば火が通るはずです。注意点はグリルを予熱してから、サンマを焼くこと。高温、短時間で焼くことが脂を残したおいしい焼き上がりに繋がります。
今でこそ人気のサンマですが、江戸時代中期の百科事典『和漢三才図会』には『下品である』と書かれており、昔はあまり好まれる魚ではありませんでした。ゆえに殿様などの口に入ることもなく、これが後に落語『目黒のサンマ』などの物語に繋がっていきます。
さんまの肝醤油の作り方
さきほど除去したはらわたの部分は捨てるのが勿体ないと感じる方も多いのでは。サンマは他の魚と違って胃がないため、食べたものが1時間以内に排出されるので、食中毒などの心配がなく、内臓の味も楽しめます。
今日は肝醤油をつくってみます。
すべて食べられますが、写真の三角形をした色の濃い部分=心臓のあたりは苦いので除去します。この苦みがおいしいという人もいるんですけどね。
こんな状態にします。
ミリン60cc、醤油40ccとはらわたを鍋に入れて煮詰めます。ミリンから火が出るので注意。1〜2分煮ればアルコールが飛ぶので、火が通ったはらわたをゴムべらなどで潰せば出来上がり。
醤油の代わりに使うと肝が混ざった濃厚な味わいが楽しめます。肝醤油を使って蒲焼きにしても美味です。