フランス料理の技法をとり入れた、簡単おうちポトフ
ポトフは肉と野菜を水から煮込んでいく庶民的な料理です。野菜や肉を煮て、その旨味が溶けこんだ液体ごと味わうこの料理には、フランス料理の基本が詰まっています。
ポイントは〈弱火でことこと煮込む〉こと。ところでポトフのような煮込み料理に用いる塩はどのタイミングで振ればいいのでしょうか? この料理をつくることでその答えがわかります。
ポトフ
1.牛肉に塩を振り、30分以上置く。玉ねぎは半分に切って、中火にかけたフライパンで片面に焦げ色がつくまで3〜4分焼く。
2.煮込み用の鍋に水1.2㍑、1の牛肉と玉ねぎ、ベーコン、半割にしたニンジン、適当な大きさに切ったセロリ(葉は使わない)、同じく適当な大きさに切った長ネギ、昆布を入れ、強火にかける。沸いたらアクをとり、弱火に落として2時間煮る。
3.火を止めて、液体部分はスープカップに注ぐ。それとは別に肉と野菜は器に盛り付け(野菜は大きければ切る)保温のために少量のスープをかける。塩が足りなければ塩、マスタードをつけて食べる。
ポトフに塩を振るタイミング
ポトフはフランス料理の原型。ポトフとは「火の上の壺」という意味。厳しい冬の寒さのなかでも心と身体をあたため、元気づけてくれる料理です。
ポトフづくりには注意と時間が必要です。肉は「シチューやカレーに」と書かれている〈煮込み用〉の部位を選びます。今回は濃厚な味のすね肉を使いました。さらに味を良くするためにはテールやバラ肉などを加えます。有名シェフのジョエル・ロブションは「ポトフのよさは豊富に肉を入れることによって生まれる」と述べていますが、肉の旨味を最大限にいかす点にこの料理のポイントがあります。
ポトフに入れる野菜は付け合わせ。肉の味を引き出すための存在です。今回は一般的な煮込み用の野菜を加えましたが、他にもほぼすべての野菜を加えることができます。ただ、じゃがいもとキャベツ(をはじめとしたアブラナ科の野菜)には注意が必要です。
じゃがいもは茹でてから、取り分けた煮汁で別に加熱します。一緒に煮てしまうと煮汁が濁り、保存も利かなくなってしまうからです。匂いが強いキャベツやブロッコリーも、別の鍋で茹でてから最後に加えるようにしますし、葉物野菜も同様にして、最後に温める形がいいでしょう。ちなみにローリエは香りが強く、他の妨げになるので入れる必要はありません。
この作り方が普通と違うのは焦がした玉ねぎを加えてブイヨンに色と風味を足している点です。これはフランス料理の技法。可能であればこの焦がした玉ねぎにクローブを2本刺して使うとより本格的な味になります。
ポイントは決して沸騰させずに弱火で静かに煮ることです。強火にかけると煮汁が煮詰まってしまいますし、表面に浮いた脂が乳化してしまったり、野菜が煮崩れたりして、澄んだ仕上がりになりません。「表面が微笑むように」煮ることをフランス料理の世界では「ミジョテ」と呼び、煮る調理の基本になっています。
さて「塩はいつ振るのか?」という冒頭の問いの答えは、はじめに塩を振って煮込んだ料理と、後の仕上げに塩を加えた料理を食べ比べてみればわかります。はじめに塩を振っておけば肉は滋味深く仕上がり、逆に仕上げに塩を加えた料理はスープが深い味になっているはずです。つまり、答えは〈目指す料理の仕上がりによる〉です。間違いも正解もありません。
フランスでは家で食べるときも外食でも、可能な限り「前菜」「メイン」「デザート」という形で食卓を構成するのが一般的。ポトフの場合にはまずスープを前菜として食べ、次にメインとして野菜と肉の皿を食べるという形です。
ポトフは時間がかかりますが、手間はほとんどかからず、前菜とメインが同時にできる点に魅力があります。
スープの表面に浮いている脂は冷ますと固まるので、簡単に取り除くことができますが、少し残しておくと味わいにコクが出ます。ポトフは翌日以降もおいしい料理。脂を除去することで洗練された味わいになりますが、個人的にはポトフの良さは脂が浮いた野暮ったいところにあるように思います。
ポトフはフランスでもやはり冬の料理というイメージ。日本でいえばおでんのような存在で、薬味としてディジョンマスタードは欠かせません。マスタード以外にも玉ねぎの酢漬けやきゅうりのピクルスのみじん切りを添えるとより豪華になります。
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