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食と生活「郷土料理のお勉強とツナの低温コンフィ(失敗)」

先日の木曜日、徳島県にし阿波地区に行ってきました。

徳島県を訪れるのは二回目。前回は小売店のバイヤーさんたちと産地視察ツアーで、その時は徳島市から阿波市にかけてと、南下して柚子で有名な木頭地区(高知との県境あたり)などを廻りました。

今回、訪れたのはにし阿波エリア。地名でいうと美馬市・三好市・つるぎ町・東みよし町にあたります。吉野川と剣山、日本三大秘境の一つ、祖谷などが有名です。祖谷は東洋文化研究者のアレックス・カーさんが気に入り、プロデュースしている関係もあり、外国人観光客から人気があるそう。

地図をみるとわかりますが、山のなかです。山を越えれば香川、山を越えれば高知という感じ。

まずは農家レストラン「風和里」でランチ。

店主の方が「薄味を心がけています」とのことでしたが、素材の味が際立ついい料理でした。ちなみにうどんにはご飯がつきます。ここだけではなくて、メインがそばだろうが鍋だろうか、必ずご飯がつくあたりは田舎あるあるですね。地元の人はご飯を食べたいでしょうけれど満足するボリューム感は人それぞれなので、選択できるようにした方がいいかもしれないですね。

お店でこんにゃくが売っていたのですが、面白かったのは原材料。

灰汁(蕎麦)とあります。こんにゃくは通常、水酸化カルシウムや炭酸カルシウムで凝固させますが、そば殻を灰にしたものでこんにゃくを凝固させているようです。灰は強いアルカリ性を示すので、たしかに固まります。お米がとれないかわりに蕎麦を食べていた地方ならではの作り方です。

店の前は畑なのですが……。

生け垣に植わっていたのはツバキかと思ったらお茶でした。にし阿波地区では各家がそれぞれ茶畑を持っていて、番茶にしたり、緑茶にしたりと自家製する食文化があるようです。店内で提供されるお茶もすべて前の畑でとれたものとのことでした。

集落をまわります。(この写真は淵名集落)

今回の目的は「にし阿波」の農地を見学すること。この写真、お父さんが傾いているわけでも、僕のカメラが傾いているわけでもなくて、山間の傾斜地をそのまま農地にしているのがこのあたりの特徴です。

山の一番上は水源確保のために自然林を残し、その下は等高線に沿って、果樹、お茶、蕎麦などの作物が植えられています。この徳島県西部2市2町の急傾斜地農法「にし阿波の傾斜地農耕システム」は世界農業遺産に指定されています。

はっきり行って上り下りがかなりしんどいです。石だらけの痩せた水はけのいい土壌で育つ農作物(主に蕎麦など)は独特の風味があると言われています。

山の斜面のままだと雨が降るたびに貴重な土壌が流出していしまいます。そこで土壌の流出を防ぐために畑に投入されているのが茅です。茅を敷くことによって保温、保湿、雑草の防止などの効果があり、さらに土壌の微生物によって分解され、最終的には土になる、というわけ。写真はコエグロと言って、秋に収穫した茅を束ねたものだそう。

茅葺き屋根の家は有名ですが、この屋根も最終的には畑に戻されて肥料になるわけですね。すごく良くできたシステムです。

徳島名物になったそば米汁はこんな環境から生まれた郷土料理。ちくわ、鶏肉、野菜、そば米が入った澄まし仕立てのお椀です。農水省のホームページに作り方が載ってますが、人によって作り方が違うようです。源平の合戦に敗れた平家の落ち武者が山村で都を偲んで作ったのがはじまりといわれています。

そばを粉にしないでそのまま食べるのは他に酒田のむきそばくらいしか知らないので、めずらしいですよね。(他にご存知の方がいれば教えてください)おそらくお米への憧れが生んだ料理でしょう。

そば米はまず収穫した蕎麦の実を塩水で茹でます。その後、二週間乾燥させ(時々乾燥させながら)、だるま臼という機械で脱穀します。で、とうみやふるいなどを使って殻をとりのぞき、さらに10日間ほど室内、または日陰で干して、ようやく完成という具合です。そば米雑炊は知っていましたが、そば米をつくるのにこれほど時間がかかるとは知りませんでした……。

参考の動画です。(つるぎ雑穀生産販売組合作成)いや、この作り方を知ると有り難みが全然違います。

夕飯と宿泊は「古民家やど紺屋」にお世話になりました。

いわゆる農泊施設(農家がその住居を旅行者に提供する形の宿泊施設)で昔ながらの古民家に泊まれます。築100年以上の古民家に泊まるのは特別な体験と思うかもしれないですが、体験としては親戚の家に泊まりに来た感覚に近いです。

鹿肉の串カツをはじめ、100%地元の食材の料理が並びます。メインはひらら焼きという郷土料理。

堅豆腐、アマゴ(やまめ)、じゃがいもを味噌焼きにしたものです。味噌、砂糖、料理酒という感じの味付け。右端のは「ごうしゅいも」という在来のジャガイモです。他の地域で育てると普通の芋になってしまうそうなんですが、このあたりで育てると小粒で味の濃いジャガイモになるそう。これは面白い。

翌日の昼ごはんに行ったのは

つづき商店というお店なのですが、こちらも親戚の家感が半端ないです。

地元ではかなり有名な店とのこと。

野のものをいただきます。というか、これも親戚の家でご馳走になる感じ。

イノシシをつかったしし鍋。イノシシのバラ肉の部分を中心にしてとろけるくらいまで味噌味でよく煮込んであります。ジャガイモが入っており、それも相性よし。青唐辛子の一味があって、かけて食べると絶品です。青唐辛子の一味は香りがとても良かったのでどうやってつくるかきいてみたところ「唐辛子がまだ小さくて青いうちに収穫して、半分に割り、種と筋をとってから干してミルミキサーで粉にする」とのこと。「(小さいので)種と筋をとるのが面倒ですね」と言ったら「あんた料理家なんやから、面倒なんて言ったらいかん」と怒られました。そのとおりですね。反省、反省。

珍しいなぁ、と思ったのは祖谷のお雑煮「うちちがえ雑煮」です。雑煮といってもお餅ははいっておらず具材は里芋の親芋と豆腐。いりこだしベースの醤油味(とはいっても徳島を代表する醤油「味一」はミリンやアミノ酸が入っているので甘めです)です。先程の猪鍋の味噌味は日常の味、すまし汁はハレの日の味付けなんですね。

こんな風に盛り付けるのが基本だそう。うちちがえというのは平家の侍が源氏と刀を打ちちがえている様子を表しているそう……(豆腐が刀というわけ)です。

祖谷蕎麦も食べました。短く太いそばですするようにして食べます。日本料理は懐石や会席にばかり注目が集まりますが、こうした郷土料理こそがすべてのベース。作り方を学べるうちに勉強しておこう、と思いました。郷土料理をどのように残していくのか、というのは大きな課題です。

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