牛乳の泡(ミルクフォーム)の科学
今日はカプチーノやカフェオレにのっている牛乳の泡の科学です。ちまたでは「乳脂肪分が高いほうがいい」「いやノンホモ だ」「低脂肪牛乳が泡立つ」など諸説入り乱れているので、ちょっと整理しましょう。
まずは分子料理学の虎の巻「マギーキッチンサイエンス」を引いてみると……
牛乳が泡立つのはタンパク質によるもので、空気のまわりに薄層を形成して気泡が分離し、水の強い凝集力によって泡が潰れるのを防ぐ。
とあります。まず、鍵を握るのがタンパク質であることを頭に入れておきましょう。そのため、タンパク質が添加されている低脂肪牛乳は比較的泡立ちが容易なのかもしれません。ただ、風味は脂肪分が含まれたミルクのほうが良いのはたしか。ホモジナイズとノンホモジナイズの違いは泡立ち具合にはほとんど影響しません。
実際につくりながら考えていきましょう。生クリームの泡は脂肪によって安定しますが、牛乳の泡はそれとは違い原理的には卵を泡立てるのと同じ。しかし、タンパク質濃度が薄いのと、卵のタンパク質は構造がほぐれて強く集まるのに対し、乳たんぱく質の3/2は集まってくれません。
牛乳を泡立てるには「アエロラッテ」というミルクフォーマー(牛乳泡立て器)を使うのが簡単。バーミックスでもできますが、こちらのほうが効率がいいです。また100円均一でも売っているのが魅力。
まずは実験。冷蔵庫から出したての冷たい牛乳を泡立ててみます。
一時的には泡立ちますが、泡はすぐにしゅわしゅわと消えていきます。冷たい状態では泡は安定しません。これはさきほど説明したようにタンパク質の構造がほぐれないためです。
次に加熱しながら泡立てみましょう。
65℃を超したあたりで泡が安定しはじめます。70℃前後で加熱することで牛乳の乳清タンパク質(牛乳のわずか1%ほど)の構造がほぐれます。これが気泡膜の境界面で起きればタンパク質同士が結合し、一時的ですが泡が安定します。ちなみに乳清タンパク質の構造が完全に壊れるのが78℃。70℃〜78℃が牛乳を泡立てる際の温度の目安となります。
この状態になれば泡はちょっとやそっとでは壊れません。しっかりとした泡ができています。タンパク質の凝固を利用しているので、一度加熱してしまった牛乳は二度は泡立てに使えないことも頭に入れておきましょう。
スターバックスコーヒーなどにあるエスプレッソマシーンは熱した蒸気を牛乳に送り込むことで加熱と泡立てを同時に行っています。誤解しがちなのは水蒸気で泡立てているわけではない、ということ。蒸気は冷たい牛乳のなかで凝集し水になるだけです。蒸気によって撹拌することで空気を取り込むので、ノズルそ液面のすぐ下に持ってくる必要があるのです。
弱点は牛乳が高温だと泡が消えてしまうこと。気泡膜の水分が重力で落ちることで、泡は消えてしまうわけですが、温度が高いと水分の流動性が高くなるので、牛乳が空気を取り込む前に温度が上がりすぎると泡ができないのです。ハロルド・マギーはエスプレッソマシーンのスチームノズルを使う場合は以下の点に注意するようにまとめています。
・冷蔵庫から出したばかりの新鮮な牛乳を使う。冷凍庫で数分間冷やすとベター。
・少なくても150cc以上の牛乳を、その倍以上の容量の容器に入れる
・ノズルを液面かそのわずか下に固定し、中位のスチーム量で途切れることなく泡立て続ける (マギーキッチンエンスより)
さて、少量の牛乳を泡立てる場合はどうすればいいでしょうか。その場合は機械がなくともペットボトルでも泡立てることができます。泡立てと加熱をわけて行うわけです。
瓶やペットボトルに牛乳を入れ、振ります。この時、フレンチプレス式のコーヒーメーカーを使えば、網のおかげでとくにキメの細かい泡が立ちます。
2倍に泡立ったらふたをとって電子レンジで30秒加熱します。泡が消えてしまうので、この作業は素早く行います。
加熱をすることで泡が安定します。
これで泡が立ちました。カフェオレにするにはこれで充分かもしれません。
ミルクの泡は料理にも使います。150ccの牛乳に35gの小さく切ったベーコンを加 え、温めます。この時も温度に注意して、決して70度を越さないようにします。タンパク質が固まってしまったら泡立ちませんからね。火を止めて、ベーコンの味と香りを牛乳に移します。
ベーコンをとり出し、弱火にかけながら牛乳を温めていきます。この時、フォーマーは境界面で使うのがポイ ント。
しっかり泡立ちました。この時の牛乳の温度を計ると80度くらいでしたが、泡は完全に安定しています。温度が高すぎても安定性が落ちるのはさきほど説明した通り。
蒸かしたジャガイモにベーコン風味の泡を添えました。このベーコン風味の泡はスープに載せてカプチーノ仕立てに使うことができます。泡立て系のソースをつくる時もこれらのことを頭に入れておくと、慌てずに済みます。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!