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ふっくらパンケーキは生地を寝かせるな、混ぜ過ぎるな!

食の博識、樋口直哉さん(TravelingFoodLab.)による科学的「おいしい料理」のつくり方。今回のテーマは『パンケーキ』です。ふっくらパンケーキをつくるコツは、生地を寝かせないこと、混ぜすぎないこと、ふっくらの源である空気が抜けないように加熱すること、です。アレンジメニューとして「ベーコンとバナナのパンケーキ」もご紹介します。

こんがりきつね色で、ふんわり軽いパンケーキ。市販されているパンケーキミックスの原材料は基本的に小麦粉、砂糖、ベーキングパウダーの3つ。つまり、ベーキングパウダー以外は台所にある材料で普通につくれるのです。(ベーキングパウダーだけは買ってください)

自作すれば経済的ですし、甘さを調節できるのも利点。今回は甘さ控えめの配合にしていますが、パンケーキづくりを通して、ベーキングパウダー、粉類を使った料理やお菓子作りの基本が学べます。

基本のパンケーキ

材料(16cm2枚分)
小麦粉(薄力粉) 100g
グラニュー糖 大さじ2(26g)
塩   ひとつまみ
ベーキングパウダー 小さじ1
卵   1個
牛乳  100cc

1 .小麦粉100g、グラニュー糖大さじ2、塩ひとつまみ、ベーキングパウダー小さじ1を泡立て器で混ぜる。

*自家製のパンケーキミックス
卵と牛乳を加えるだけですぐに焼くことができるパンケーキミックスです。おすすめはこの4〜5倍の分量でつくり、密閉容器でストックしておくこと。

料理書のレシピには「粉を振るう」と書いてある場合があります。グラニュー糖を事前に混ぜれば、その作業は無用です。小麦粉がダマになる原因は水分。砂糖がその水分を吸収してくれます。

2.卵1個と牛乳100ccを泡立て器で混ぜる。

*粉類と液体系
お菓子作りでは粉類と液体系を分けて準備することも多いです。粉に卵と牛乳を加えるのではなく、こんな風に事前に混ぜ合わせておくことで、作業がスムーズに進みます。

3.1の粉に2を加えて、ゴムベラで混ぜる。

*パンケーキがふっくらする秘密
パンケーキやスポンジケーキ、パンがふっくらとしているのはなぜでしょうか。鍵をにぎるのは「空気」「グルテン」です。

これらの食べ物の断面を見ると、細かな穴が空いています。おいしいパンケーキやスポンジケーキ、パンが口の中でシュッと溶けるのは、空気を含んだ薄い壁が崩れるからです。

空気を含ませるには昔ながらの3つの方法があります。一番、古いやり方は糖を食べて二酸化炭素を出す微生物(イースト)を使う方法。イーストには特有の風味があるため、主にパン作りに使われています。

2つ目の方法はベーキングパウダーを使う方法。ベーキングパウダーは水と一緒に加熱すると分解して、二酸化炭素の泡をつくります。今回のパンケーキにはこの方法を使いました。ちなみに3つ目は卵に空気を含ませて泡をつくる方法でスポンジケーキづくりに用いられます。

しかし、せっかく空気の泡ができても壁が薄ければすぐにしぼんでしまいます。そこで登場するのが「グルテン」です。

小麦粉に液体を混ぜると、小麦粉のなかの2週類のタンパク質「グルテニン」と「グリアジン」が水分によって結びつき「グルテン」を形成します。グルテンは弾力性や伸縮性のあるタンパク質。グルテンによって生地がしなやかになるため、二酸化炭素の泡が出てくると風船のように膨らみ、破裂しない弾力が出ます。

パンケーキ特有の食感を出すためにグルテンは必要ですが、多すぎると弾力が出すぎる=生地が硬くなってしまいます。

パンケーキは軽い食感にしたいので、グルテンの多い強力粉ではなく、薄力粉を使います。また混ぜることによってグルテンが増えるので、あまり混ぜ過ぎないようにするのが基本です。

この時、泡立て器を使ってもいいのですが、ゴムベラを使うと混ぜ過ぎを防ぐことができます。ゴムベラで生地を混ぜる時は外側から内側に大きく動かすのがコツです。

4.中火で1分ほど温めた、テフロン加工のフライパンに生地を流し入れる。2分ほど焼き、表面の泡が弾けたら、ひっくり返し、火を限界まで弱火にする。

*火加減について
パンケーキは弱火で焼くと火が通る頃にはベーキングパウダーが放出する二酸化炭素が抜けてしまい、ふっくら感が弱くなります。

しかし、強火で焼くと今度は二酸化炭素が出すぎて、やはりふっくらしません。ゴム風船と同じで気泡は膨らみ過ぎたら破裂してしまうからです。また、砂糖や卵が入っているパンケーキ生地を強火で焼けば、すぐに焦げてしまうのも難点。

そこではじめは中火で加熱し、裏返したら弱火に落としましょう。60℃を越せば卵のタンパク質が固まりはじめるので、泡は安定します。パンケーキの膨らみ具合は温度と二酸化炭素の量、生地の温度が上がる速さなど様々な要因で決まるので、絶対にうまくいく方法はありませんが、同じフライパン、同じ配合の生地で何度も焼くことで次第に上手に焼けるようになります。

表面が生っぽい状態で裏返すのも、ふっくらと軽く仕上げるコツ。生地をよく観察していると表面の泡が弾けてくるのがわかるはずです。これは小麦粉が固まる前にベーキングパウダーがつくった二酸化炭素が抜けている現象。こうなってきたら裏返して、ガスが抜ける前に生地を凝固させます。次に火を弱めるのは焦げるのを防ぎ、なかまでしっかりと加熱するためです。

5. 裏面も2分ほど焼き、火加減をチェックする。

*火加減のチェック方法
火が通ったかチェックするには側面からつまようじ、または竹串をさします。引き抜いた串の先に生地がついてこなければ火が通った証拠。つまようじに生地がついてくるようであればが蓋をして、弱火で加熱を続けます。

たっぷりのバターとメープルシロップかはちみつを添えてどうぞ。

【Column】ベーキングパウダーの仕組み

パンケーキのレシピには「生地を寝かせる」や「弱火でじっくりと焼いた方がふわふわになる」など様々なものがあります。自分が望む仕上がりのレシピを選ぶためには、ベーキングパウダーの仕組みを理解しておく必要があります。

ベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウム(重曹)、酒石酸塩、デンプンを混ぜたものです。重曹にレモン汁などの酸を加えると泡立ちますが、仕組みはそれと同じ。重曹と違うのは二段階にわたって二酸化炭素を出すことです。簡単な実験でそれを確かめましょう。コップにベーキングパウダー小さじ1を入れ、水を30ccほど注ぎます。

こんな風に泡立ち、30秒ほどで収まります。これが一度目の反応です。次に600wの電子レンジに10秒ほどかけます。

すると、再び泡立ちます。ベーキングパウダーは75℃〜80℃で二回目の反応が起こるのです。

この簡単な実験からわかるのは「生地を寝かせずにすぐに焼けば二酸化炭素を逃さないので、ふっくらと分厚いパンケーキが焼ける」ということです。寝かせると一度目の反応でできた泡は抜けてしまうので、薄いパンケーキが焼けます。また、生地を寝かせることで水分が充分に行き渡り、グルテンが増えるので、生地がもちもちした食感になります。好みに応じて、レシピを選びましょう。

【アレンジ】ベーコンとバナナのパンケーキ

このパンケーキ、甘さが控えめな配合なので食事にも向いています。オススメはベーコンとバナナの組み合わせ。

ベーコンは脂と肉の層という異なる性質が組み合わさっているため、上手に焼くのにはコツが必要です。加熱するとすぐに収縮する脂の層は結合組織を充分にやわらかくする必要があります。反対に肉の部分はあまり収縮せず、火を通しすぎるとぱさつきます。強火で焼くと脂の層が一気に収縮し、いびつな形に焼き上がってしまいます。

解決策は弱火でじっくりと加熱をすること。そうすることで加熱による収縮の差を最小限に抑えることができます。焼き上がったら、キッチンペーパーで脂を切っておきましょう。

バナナは中火で表面がこんがりするまで焼きます。

パンケーキを焼いたら……

一緒に盛ります。ここにメープルシロップをたっぷりかけるのがおすすめです。ベーコンとメープルシロップはミスマッチのようですが、意外や意外、高相性です。ここに目玉焼きを添えればアメリカンな朝食になります。


撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!