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5.真っ白になる

病院を出て直ぐに旦那さんにラインをした。

迎えにきて欲しい。と。

娘が抱っこ紐で寝てるからとそのまま歩いて来てくれた。
見慣れた景色の向こうから娘を抱いた旦那さんが見えた。
涙が止まらなかった。

旦那さんも何かを察しないわけがない。
「がんだって」
と、泣きながらやっと一言だけ絞り出した。

この展開だってドラマときっと同じ。

旦那さんも泣いた。
「絶対大丈夫だからな」と肩を抱いて励ましてくれた。
なんか果てしなかった。

赤ちゃんを抱っこするパパと。
号泣するママ。
通りすがる人は何事だと思うだろうな。
と、少し思った。

実家に帰宅し、待っていた母にも告げた。
「あちゃー........だね」
とひとこと。

昼寝から起きた娘を母に預けた。
とにかく時間が経っても頭が真っ白だった。
「今できることはないですから」
とお医者さんは言ってた。
確かにそう。

健康そのもの。
痛みも何もない。

だから嘘だと言って欲しい。
悪い夢であってほしい。
とりあえずさっきまでの日常に戻りたい。

なのに

自分が「がん」である

と言う事実が心に泥のように張り付いている。

息をするのも苦しかった。

本当にそんな感覚だった。
何も考えたくない。
考えられない。
だけど、どうしたら良いのかわからない。

自分だけが別の世界にいるように感じた。
呆然としたまま、旦那さんと近くの祖父母のお墓参りに行った。

2人でお墓に座り込みしばし時を過ごした。

「なんとかしてください」

とご先祖様にすがる気すら出てこなかった。

ただただ呆然としてた。

家(実家)へ帰ると全てを知った姉家族などもいた。
みんなで夕飯を食べた。
母は賑やかな方が元気が出るかと思ったようだった。
実際娘はみんなが居て寂しくも異変も感じず過ごしてみたいだったたからよかったのかもしれない。
でも食事も喉を通らなかった。
上辺の会話すらできなかった。
私と旦那さんは言葉も発せず。
両親や姉一家は「いつもの」会話をしていた。

生まれてはじめてだった。

「来年もし私がここにいなくても皆はこうして賑やかに過ごしてるんだろう。笑ったりもするんだろう。旦那さんはどうしてるのかな。きっといたたまれないかもしれない。でもいつかは忘れるんだろうな」

と、天国から見てるような気分だった。

みんなの会話も入ってこなかった。
普通の話題をしてるみんなが遠くに感じた。
わざと普通にしてるんだろうけど、それがいたたまれなかった。


その夜に母に、実家に居てもみんなでご飯を食べるのは辛いからしばらくやめたいと伝えた。


悲しんだだろうけど、せめてもの自衛だった。

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