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42Tokyo Piscineを難病患者が泳ぎ抜いた話

今回のエントリはあくまでも「Picsine参加に悩む人」への羅針盤になることを目指して作成したものです。試験という性質上、その細かい中身には一切触れません。その意味で、こちらを読んでも一切有利になることはありませんので、事前情報を得たい方にとってはあまり意味のない記事になると思います。

ターゲットは「身体にハンデを持つ人」です。この視点で書くことは一般的にリスクのあることですが、たとえポジショントークだと言われようと、僕だからこそできるひとつの活動だと信じて書いておきたいと考えます。

具体的な「ハンデ」の内容

42Tokyoの特徴は「無料」「24時間開放」「生徒同士による教育」です。これらはPiscineにおいても同様で、1か月やってみた上でも変わず感じられた大きな魅力・象徴的な内容だと思います。

カリキュラムは存在してますし、基本的にはそれらをこなしていく形式ではあるものの、当然可能な限り時間をかけられる環境を構築できた方が満足度は高くなるであろうと感じます。

「ハンデ」を持つものとしては、その時間と自分の身体との格闘こそが大きな問題として立ちはだかるでしょう。その意味で、僕がどのようなハンデを抱えていたのか、それがどの程度の重さだったのかは記しておかねばなりません。なぜならば、ただ「こんな僕でもやり抜けたんだ!」といった夢物語を描くだけでは、こんなはずじゃなかった……となってしまう人が望まずして出てしまうとも限らないからです。

僕が罹患しているのは「クローン病」で、国から指定された特定難病疾患というものです。症状が重い場合「ほとんど食事ができない」「食事により腸の炎症・出血が発生する」といった状況になります。また、慢性的に「トイレが長くなる」「急にトイレへ立つ必要が生じる」「時と場所を選ばず漏らす危険性がある」「疲労感が抜けない」「体力が低下し続ける」といった症状は、重軽かかわらず患者を悩ませる代表的な症状でしょう。

現状、僕は会社を休職する程度には一般的な男性レベルの体力を維持できない状況にあります。連日電車に乗る場合、乗り換えの階段を手すりなしでは登れなくなってしまったり…… そうしたことが続いてしまいました。

しばらく仕事を休ませて頂いた結果として、Piscine中の体力はそこまで落ちていた訳ではありません。かなり楽しかったのもあったのか、苦しさがマヒしていた部分もあったでしょう。

ですが、食事は可能な限り「うどんだけ」といった消化の良いものにし、毎日エレンタール(これだけ飲んでれば生きられるレベルの栄養剤)を持ち込んで、不足している栄養素を補っていました。

どれだけ熱中してみても「きちんと帰らねばならない時間」は自分でしか決められません。若い人も多く、多少の無理をしてでも打ち込める環境は揃っています。しかしながら、自分が決めた時間に参加し、自分の身体を壊さない範囲で帰宅する計画・決断ができないのならば、僕はおすすめしません

揃っていた「戦える状況」

「休職により1か月丸々確保できた」「実家に引き上げていて頼れる土台があった」「病院への受診タイミングを調整して試験中は通院せずに済んだ」「傷病手当などで現金はひとまず心配なかった」「現実的に通える範囲に実家があった」……

これらの状況全てが、僕のPiscine遊泳を可能なものとしていた強い要因です。もちろん仕事をしながら受験していた方もいます。しかしながら、非常に厳しい戦いを強いられるだろうと感じています。僕がいわゆる「初心者」の立場だったこともあり、いくら頑張っても時間が足りないと強く感じていました。

休職によって回復していた体力により、電車の移動程度でフラフラになることはそんなにありませんでした(何日かヤバイ日はありましたが)。期間中は一日も休んでいませんし、終電帰りになることも多かったです。それでも、終わってみて「かなり無理をしていたな…」と反省する場面がたくさんあります。

実際、最終日を終えた翌日は24時間まるまる寝て過ごしてしまいました。途中でちょくちょく目は覚めていた気がしますが、これが難病患者の現実的な体力です。ある種、奇跡的にやり抜けたのだろうとも感じています。

具体的に現れた症状は、Piscine後半の「体力切れ」問題でした。朝早くから行きたかったのに昼を大きくまわってからの参戦。そして離れそうになる意識。しびれる手足。不安定な呼吸。それでも明るくあろうと努めましたが、そうした日は早く帰りました。無理は禁物!
さすが最新鋭の建築物なので、トイレはキレイですし個室も多め。ウォシュレットもあります。はやく使わせてボタンまであります。オストメイト対応設備もあります。クローン病の味方。

現実を直視して得られた「価値ある日々」

階下にあった丸亀製麺の存在には本当に助けられました。

学歴も年齢も経験も不問である42Tokyoですが、残念ながら「あまりにも身体を動かせない」状況にある場合は、実質的にその門戸が閉じられているとも言えます。

35歳で内臓関係の病を持つ立場として感じるのは、ギリギリ社会生活を営める体力と意識を維持していることは最低限の条件だということです。「ちょっと通ってちょっと学びが得られたらいい……」 といった感覚だと、求道心あふれる若々しい参加者たちの中で孤立してしまうことでしょう。

なぜなら、42Tokyoが特徴として掲げている「ピアラーニング」は、人と人との真剣な取り組みであり、そこには現実として時間を必要とし、そうした人達がいて初めて実現するものだからです。誰かが誰かに何かを教えるということは、互いに最低限の準備がなければ成り立ちません。もちろん、楽しくやれる場ではあるのですが、教えるという行為を重ねることで得られる効果は、互いの信頼の上にしか成り立ちません。

しかしながら、僕は病との格闘を覚悟してでも通って良かったと思える確信があります。同じ目標に向かって立場・年齢関係なく同じように熱く挑める仲間というのは、まず得られないものだからです。そして少なくともPiscineという場は、それらを可能とし、むしろ強力に推進するシステムを構築していると僕は感じています。

プログラミングどころか、パソコンの操作すらおぼつかない完全未経験のような、ある種心配になる人が、気付けば同じレベルの課題に到達しているといった状況をたくさん見てきました。僕自身はもちろんプログラミングの経験をほとんど持ちませんが、長年パソコンでゲームをしていたり、海外ゲームのModをたくさん導入したり、自作PCを組んだりといった素地はありました。たった1か月の間に、誰もがこんなに成長できるのかという驚きをひたすら実感する日々だったと思います。

人を恐れず、人の中にどれだけ飛び込めたのかで、その価値は上がっていくのではないでしょうか。試験の細かいことは書けませんが、自分を信じ、そしてすべての人を信じ抜いてください。色んなウワサは出てくるかと思いますが、基本的にはそれがすべてだと実感しています。楽しんで欲しいと願います。それらは表層的なものではなく、根源的な「喜び」として日々刻み込まれていくことでしょう。

自分で覚悟を決め、自分が貫きたいものを決められたのなら、あとは恐れるものなど何もない。

あくまでも学ぶ機会の為に「ハンデ」を埋める

最後に、42Tokyoの運営に携わる方々へ最大限の感謝を申し上げたいと思います。これもまた詳細は書けないのですが、「学ぶ」という一点で公平となる為の支援はたくさんして頂けたように感じています。

もちろん、試験ですから個別の誰かが有利になってしまうようなことは絶対にあってはなりません。運営の方々はそうした難しい一線をしっかりと見極め、必要な処置を細かく提供して頂いたと思います。

ともに試験を泳ぎ抜いた仲間がいたからこそ最後まで倒れずに挑めたのは間違いありません。しかしながら、それ以上に…… 運営の方々の「目には見えてこない熱い支援」のお陰で、この身体でも挑み抜くことができました。

学ぼうとする意思は誰であれ公平に持てる資格があります。そして、公平だからこそ病による言い訳は通りません。ここまでしてくれるのか…… という感謝の思いは、それでも僕自身に限った特別なものでは一切ないのです。

「ハンデ」を持つ人は、恐らくPiscineを受ける前から現実の自分自身と向き合うことをより強く意識しているでしょう。絶対に見極めてください。倒れてしまえば、それはある種の負けです。挑むことは尊いことだと思います。しかしながら、無謀と勇気は異なるものです。休むことも、一旦戦いを止めることも、一種の勇気です。あなたにできることは、そんな自分自身との戦いを経て積み重ねた経験を証明とし、ともに戦う受験生を一人一人励ましていくことです。

現実に踏みつけられ、それでも学ぼうとする意思を絶やさなかった僕たちだからこそ感じられる情熱は、Piscineを受ける覚悟を決めた今こそ発揮すべきなのだと思います。まず自分に勝ち、そして隣人の手を取りましょう。それらがただのキレイゴトではなく、本当に価値あるものとして活かせる場こそがPiscineという一か月なのです。

重ねてのこととなりますが…… 運営の皆様、本当にありがとうございました。2月は僕にとって「嬉しさ」に満ち溢れた日々となりました。最後まで戦えたのも、ひとえに皆様のお陰です。42Tokyoの大成功をいつまでも、祈っています。

(追記)
合格しました。

それだけでは寂しいので、僕が心がけたことを紹介します。

予習はしました。がっつりではないですが、公開されてる情報から予測できる範囲はあるはずです。(僕が事前に参考としたこと→ 全ての端末がMacであること。C言語を扱うこと。学校の形態)

その予測できる内容からは外れるのですが、Piscineが始まるまで「作って理解するOS」という本を読んでいました。これはx86系のアセンブラを使って小さなOSを作ってみようというものです。それだけを聞くと圧がありますが、本当に丁寧に作られた内容で、初心者でもこの本さえあれば手を進められます。その分、どうしても長めになるので分厚い本です。
Piscineを受けようと思う前から読んでいたものですので、予習という観点は実際あまりなかったのですが、個人的にはコンピュータサイエンスの入口みたいなものに触れられた感覚があり、やっといて良かったなと思います。
ひたすらPiscineへの準備に集中したい……ということであれば敢えてオススメする本ではありませんが、僕はこれをやっていたよということで。
あとはUdemyだとかで基礎っぽい動画をみたりしていました。事前勉強もくもく会を開いて下さった方がおり、それに参加してみたりって感じです。

入学後の自分を強く意識していました。Piscineは試験ですが、合額基準は不明です。ただ、学校の基本的な教育スタイルは公開されていますし、Piscineがそれに近いことも想定できますよね。そして、僕は「なるべく”攻略思考”に陥らないよう自分に言い聞かせていた」のです。
試験は試験です。試験をクリアする目的は当然、42Tokyoへ入学することです。では、42Tokyoへ入学する目的は?これを常に念頭において挑んでいました。
僕の個人的な意見に過ぎませんが、この本質的な所を突き詰めようとすると、自ずとやるべき行動は見えて来ると思います。
良い学校に行きたいですよね?良い学校だと思ったからPiscineを受けようと思ったんですよね?ではなぜ、あなたは良い学校だと感じたのでしょうか?生徒となる(予定の)僕たちにとって、42Tokyoに価値があると感じられるのはなぜなのでしょうか?その価値を生み出している本体は、いったいどこにあるのでしょうか?
Piscineの内容そのものは、受けてみてのお楽しみです。ぜひ挑んでみてください。楽しんで。ですが、いったい何が価値なのかは「常に」問い続けてください。僕は、そうした思索は、思ったよりも合格に近づく大切なことなのではないかと考えています。

普通より率先した行動を意識していました。先の内容にも被りますが、僕はおそらく受験者の中でも率先的な方だったと思います。何が? それは受験するあなたが自分で創発してください。細かいことは言いません。全てを楽しみましょう。
Piscineを受ける自分にとって、42Tokyoの教育にとって、どんなことが価値となるのかを真剣に自分へ問い続け、隣人と対話を繰り返すならば、やるべきことは見えて来るはずです。そして、それが見えたならば「あなたが」やってください。壁をやぶる最初の人物になることは、もしかしたら試験の判定には一切関係ないかもしれません。時には、それを自分がやることで、やるべき試験の課題の時間が削られてしまうこともあるかもしれません。それでも、そんなジレンマと常に格闘してください。そして「すべてに勝つ」と決めるといいと思います。
願わくば、与える側であってください。その力なんて持ってないと感じても、まず先に与える行動を取ってください。その資格がないなどとジャッジするものなど誰もいません。勇気を出しましょう。すべてが価値になることを信じて、どんどん「あなたから」はじめるんです。
後半は僕も余裕がなく、厳しい場面はたくさんありましたが、可能な限りそうした精神で挑んでいました。繰り返しますが、これは合格やPiscineの場にとって正解だったかすらわかりません。でも、僕はこれが貫けて良かったです。

憧れる人を真似ていきました。僕は未経験ですので、既に業界にいる人達などの凄さを目の当たりにすることとなりました。
そうした人達の技術や、課題への向き合い方には様々な色や形のカッコよさがありました。憧れる人はたくさんいます。
僕はそのカッコよさを感じたら、次の日から可能な限りそれを真似ようとしました。なんだこれ?難しすぎる!と投げ出しそうになった時、憧れた人のひとりを思い出し、いや!今こそあのようにもう一度取り組むんだ!と奮起しました。
「ピアラーニング」とはどういうことなのか?これを追求してみてください。だれも正確には説明できないと思います。だれかのそれを否定するものでもありません。言えるのは、真剣さは後から必ず価値になるということです。真剣さとは何なのかを考察してください。目の前に人がいるという事実を直視してください。誠実さを磨いた先に、きっと報われる瞬間が来ると思います。

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