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甥っ子がやってきた

1歳になる甥っ子がいる。

まだ正体のはっきりしなかったコロナへの不安に世の中全体がおびえていた2020年後半に生まれた。「無事に出産」の知らせを聞いた時は、よくぞ生まれてきてくれたと涙が出たのを覚えている。何よりも、母であるお義姉さん――といっても私よりひと回り以上お若い――は、ただでさえ初めての経験に心配でいっぱいなところに、コロナという恐ろしい敵との闘いを強いられながらの出産となった。どんなに神経をすり減らしたことだろう。そう思うと、コロナ禍が始まって以降に赤ちゃんを授かり、育てている世の全てのお母さんたちを尊敬してやまない。

その甥っ子君が最近、ひとりで歩けるようになった。2カ月ほど前に会いに行ったときは、まだつかまり立ちができるかできないかという状態で、畳の上にぺちゃんとすわって無垢な瞳でこちらを見上げて笑いかける姿がたまらなくかわいらしかった。ところがつい先日訪問したときは、少しよろめきながらも、ひとりで廊下を歩いてきたのだ。自分には子供がいなくて、ふだん小さな子に会う機会がほぼなかったせいもあってか、子どもの成長の早さに新鮮な驚きを覚え、老境にさしかかったこの身にまで生命力がみなぎってくるように感じた。

その数日後、銀行のATMに並んでいたときのこと。視界の片隅に動きを感じて顔を向けると、甥っ子と同じくらいの背丈の男の子がよちよちと歩いていき、自動ドアから外に出て行った。思わず後を追いそうになったが、すぐに父親とおぼしき若い男性があわてて追いかけていき、男の子の周りをバスケットボールのガードのように両腕で覆って守っていた。ほっとした。そしてふと思った。歩けるようになった甥っ子がいなかったら、自分はあの男の子の行動に気持ちを寄せることができただろうか。もしかしたらぼんやりと眺めていただけ、いや、気づきもしなかったかもしれない。甥っ子の存在が、私の世界を広げてくれて、少しだけ思いやりの心をもたせてくれた。人は経験によって初めて学ぶことが山ほどある。あらゆる点において経験の足りない私は、これから甥っ子君に多くのことを学び、気づかされていくのだろう。

かわいいかわいい甥っ子のA君、この世界にやってきてくれて、ほんとうにありがとう。叔母さんがあなたに教えてあげられるのは英語くらいだけど、どうぞよろしくね。




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