フィラデルフィアでの恐怖と憎悪②
フィラデルフィアの地下鉄はおもちゃのような電車だ。日本の電車とは比べ物にならないほど遅く走る。それに地下鉄といっても、地下を走るのはダウンタウンの一部分だけで、大抵は100年前からあるオンボロの高架線路を走っている。
終点まで来てくれと言われたのでそのまま終点のターミナルまで乗り続け、そこから言われた通りの路線バスに乗車した。バスの乗客はどうやら私一人だけ。辺りは雪が積もっていて、とても寒い夜であった。やがて教わったバス停で下車をすると、冬の冷たい空気が顔の肌を突き刺した。
アメリカ東部の冬は寒い。カリフォルニアの温暖な気候に慣れきった身体にはまるで拷問のようである。おまけにバス旅のおかげで体中が痛い。痛くなると想像したこともなかった部分が痛んでいた。そして一面の雪。止んではいたが荷物を持っている分、当然歩きづらい。わたしはこの時点で相当自分の計画に後悔を覚えていた。
ここでEが待っているとずっと思って中心街から移動してきたので、一人バス停に取り残されたわたしは頭が混乱していた。疲労と寒さでもう心身ともに限界が来ている。宿を探すのもこんな住宅地と畑が入り組んだような所にはある訳がない。これだったらグレイハウンドのターミナルにいたほうがマシだったんじゃないか、そう考えながら来た道を徒歩で戻りだすと、そのうち24時間営業のファミリーレストランの大きな看板の前にたどり着いた。取り敢えず入ろう、そう決めてドアを開けた。
アメリカのファミレスは以外にサービスが良い。比較的安くて盛りがいいし、コーヒーを頼めば何倍でも継ぎ足してくれるからだ。わたしが何を頼んだのかは今となっては覚えていないが、おそらくサンドイッチの類と、コーヒーだったはずだ。
疲労と眠気で倒れそうだったわたしにウェイトレスはこう聞いたのは覚えている。
「一体今夜はどうしたの?」
「いや、今朝グレイハウンドバスでLAから来たんだが、泊まる所が急になくなっちゃったんだ。」
「えーっ。なんならここに朝までいていいよ。外は寒いしね。」
「ありがとう。」
目頭が熱くなるのを感じながら、感謝の思いで運ばれてきた料理を頬張った。考えてみれば、ちゃんとした皿に出される食べ物は5日ぶりだ。温かい食べ物ほど疲れに効く特効薬は熱いお風呂以外にない。ほどなく食べ終わったわたしは、そのまま席に座ったまま考えていた。一体明日はどうなるのだろうか。時計は12時を差していた。そしてわたしは記憶を失っていった。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?