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アメリカの風景:ロサンゼルスからフィラデルフィアまでグレイハウンドバスで旅をしたときの思い出④

ミシシッピ川を渡り、イリノイ州に入ると雪が降ってきた。最初はみぞれだったのが、だんだんと本格的に降ってきた吹雪の中をバスは東へと進む。窓から感じる外の空気も寒そうだ。しばらく銀世界となったイリノイの田舎を走っていると、エフィングハムという街にたどり着いた。20分の休憩だという。わたしはいつもどおりバスを降りて、朝食を確保しようと歩き回ったが、どこも空いていない。

実は、グレイハウンドのターミナルに入っている店舗はいつも全て空いているとは限らない。場合によっては自販機で売られているサンドイッチなどで空腹を満たさければならないときもある。しかもここはアメリカだ。自販機が壊れている場合だって珍しくない。クォーター(25セント硬貨)が機械に飲まれるなんてことは日常茶飯事なのだ。仕方なく自販機を使ってみることにした。お金を入れ、商品の窓口を開けようとする。動いたじゃないか。何も禄に作れないアメリカ人にしちゃジョウテキじゃないか。そう思いながらバスに戻り、再び銀世界の中を旅する。

やがてバスはインディアナに入り、夕方までにはオハイオ州まで到着した。相変わらず雪は降っている。コロンバスについたときにはもう夜も良い時間であった。ここで恋人に連絡を取ったことをよく覚えている。それまでの中継地でも連絡を取っていたのだが、何故かこのときだけ覚えている。内容も

「明日つくからよろしくね。」

とだけだったが、何故かしっかりと脳裏に焼きつけられている。あと一晩の辛抱じゃないか、という安堵感だったのかもしれない。そしてバスに再び乗って、雪の中を最後の州境へと揺られていったのである。

深夜にピッツバーグへ到着した。ここは長い休憩だったと記憶している。夜なので何も見えないし、雪でターミナルも覆われていた。僕は12歳にアメリカへ送られてから久し雪を観ていなかった。そのために雪を見つめながら色々懐しい思い出が浮かんでは消えていった。だが明日はとうとう旅の終わりだ。楽しい日々が待っているだろう。自分はまた幸せになれるんだ、そう思いながらバスに戻ったのであった

つづく


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