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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.326~327

(続き)

 ドクターが、ルエリンとご近所の方2人を連れて到着したときは、私たちは最後の部屋を出て、火元からいちばん遠い厨房へ下りてきているところでした。子どもたちの大半は裸足で、毛布にくるまれてるだけ。起こしたときに、服を持ってきなさいとは言ったんだけど、子どもたちはすっかりおびえて、逃げることで頭がいっぱいになっちゃったの。
 この頃にはもう、廊下には煙が充満して、ほとんど息もできないくらい。風は私のいた西棟のほうから吹いてたけど、もう、建物ぜんぶが燃えてしまうんじゃないかと思った。
 そこへ、ノウルトップから、使用人を満載した自動車が飛んできて、全員で消火活動にあたってくれました。正規の消防車は、そのあと10分も現れなかったのよ。消防署には馬車しかないし、ここは3マイルも離れてるでしょう。道も悪かったし。ひどい夜だったわ、寒くて、みぞれが降ってて、立っているのもやっとなくらいの強い風が吹いていて。男性陣は屋根の上に出て、足元がすべらないように、靴下だけ履いた状態で作業をしてる。濡れた毛布で火の粉をたたきつけて、貯水槽の水を撒きちらす姿は、まるで英雄でした。
 その間、ドクターは子どもたちの指揮にあたっていました。私たちが最初に考えたのは、子どもたちを安全な場所に移さなきゃ、ということ。もし建物が全焼してしまったとしても、パジャマ姿で、防寒具といったら毛布だけの子どもたちを、風の吹きすさぶ屋外に出すわけにはいかないもの。この頃には、男性が大勢乗った自動車がさらに何台か着いたから、その車を使わせてもらうことにしました。
 この週末、ノウルトップには運よく人が集まってたの。ご主人の67歳の誕生日を祝うパーティーが開催されることになってたそうで。最初に到着した一団の中にご主人もいて、家を自由に使ってもいいと申し出てくれました。そこが避難するにはいちばん近い場所だから、私たち、即座にそれをお受けしたわ。それで、いちばん小さな子たち20人を車何台かに詰めこんで、ノウルトップのお屋敷へ向かわせました。お屋敷にいたお客さまたちは、火事の現場へ行くために張り切って着替えてくれていて、子どもたちを受け取ると、自分たちが寝るはずだったベッドにしっかり寝かせてくれたそうです。これで、お屋敷の空いていた部屋はほとんど埋まってしまったんだけど、レイマー氏(ノウルトップさんのお名前)のお宅ではちょうど、大きな漆喰塗りの納屋を建てたところだったのね。ガレージ付きの。そこが、子どもたちのためにすっかり暖めてあった。
 赤ちゃんたちがお屋敷の中に収まると、次に、この親切なお客さまたちは、もう少し大きな子どもたちをこの納屋へ入れる手はずを整えてくれました。床に干し草を敷きつめて、毛布や馬車用の膝掛けを広げた上に、子どもたち30人を何列にも並べて寝かせたの。仔牛みたいにね。一緒についていたマシューズ先生と保母さんがあたたかいミルクを配ったら、30分もしないうちに、みんな、いつものベッドにいるときみたいにすやすや眠ってしまったそうです。

(続く)

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