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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.329~331

(続き)

 残っていた子どもたちは、大人と一緒になって夜じゅう働いてくれた年長の男の子たち以外、親切なご家庭何軒かにあずけることができました。町が一丸となって私たちを助けてくれようとするその光景に、私、心の底から感動しました。この孤児院の存在すら知らなかったんじゃないかというような町の人が、夜中に駆けつけて、自分の家を使っても構わない、と言ってくれるのよ。みんな子どもたちを家に入れて、温かいお風呂に入れて、熱いスープを飲ませて、ベッドに寝かせくれるの。いま私が把握している限りでは、あんなびしょ濡れの床の上を裸足で跳ね回ってた割には、うちの107人の子どもたちのうち、誰1人として具合を悪くしていません。百日咳にもかかってた子たちでさえも、よ。
 火がすっかりおさまって、どの程度が無事だったかわかるようになった頃には、もう昼になっていました。私がいた棟はまったくの無事だったことをお伝えしておきます、ちょっとけむいけど。いちばん広い廊下は、中央階段のところまではほぼ大丈夫。それ以外は、焦げてずぶ濡れになってる。東棟は黒焦げだし、屋根がなくなって骨組みだけになっちゃった。ジュディ、あなたが大っ嫌いだったF室は、永久に消え去ったわよ。この部屋が地上から永久に消え去ったのと同じく、あなたの記憶の中からも、永久に消し去ってしまえたらいいんだけど。物理的にも、心情的にも、古いジョン・グリア孤児院は終わったのよ。
 おかしかった話をしなきゃ。この夜ほど、おかしなものをどっさり見たことってなかったわ。集まってきた人たちは完全に部屋着姿で、男性のほとんどはパジャマにコートをひっかけた程度、つけ襟なんて誰もつけてやしなかったんだけど、サイラス・ワイコフ閣下ときたら……遅れて現れたと思ったら、午後のお茶会にでも行くような格好なの。真珠のネクタイピンに真っ白なスパッツまで! でも、閣下もじつに協力的だったのよ。家をまるごと使わせてくれるって言うから、私、狂乱状態のスネイス先生をお任せしちゃった。スネイス先生のヒステリーで、閣下は夜じゅう手一杯になって、ちっとも私たちの邪魔をしてきませんでした。
 これ以上の詳細はもう書いていられません。人生で、こんなに忙しくなったことないわ。ただ、あなたが旅行の日程を短縮する必要なんてまったくないんだ、ってことだけ言わせて。土曜日の朝早くに評議員5名がいらして、諸々をある程度のところまで片付けるために、私たちみんな必死で働いてる。現時点で、孤児院は町のいたるところに散り散りになっています。でも、あんまり心配しないでね。誰がどこにいるかは把握してるの。そのまま置き忘れちゃう、なんてことは誰にも起こりませんから。私、まったくの見知らぬ人たちが、こんなにも親切にしてくれるものだとは思わなかった。人間というものをすっかり見直したわ。
 ドクターにはまだ会えていません。電報でニューヨークの外科医を呼んで、脚の骨を接いでもらったそうです。ずいぶんひどく折れてて、治るには時間がかかるだろうって。ただ、全身ぼろぼろではあるけど、内部損傷はなさそうだとのことです。面会の許可が下りたら、もっと詳細をお知らせするわね。さ、明日の郵便船に手紙を乗せるなら、本当にこのあたりでペンを止めないと。
 さようなら。心配ご無用、雲間からは希望の光がたくさん見えてるの、それについてはまた明日書きます。

サリー

わ! J.F.ブレットランド氏の車が来た!

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