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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.338~340

(続き)

 ゴードンは去り、二度と戻らない、という形で決着がつきました。その場に立って、ついに彼の姿が丘の向こうへと消えていくのを見つめながら、私は、自分は自由で、独りで、誰のものでもないんだと気づきました。ええジュディ、解放された喜びと、自分は自由だっていう感覚が、一気にこみあげてきたの。あなたにはうまく説明できないな。幸せな結婚生活を送ってる人には絶対にわかってもらえないと思うのよ、私が感じた、輝かしく素晴らしい「独り」の感覚は。両腕を大きく広げて、急に自分自身のものとなった、この世界すべてを抱きしめたい気持ち。ああ、こうなって本当にほっとした! あの火事の晩、古いジョン・グリア孤児院が燃え落ちていくのを見たとき、私は真実と対峙しました。新しいジョン・グリア孤児院がまたここに建てられることになっても、私が再建に加わることはないんだと気づいたの。おそろしいほどの嫉妬が、私の心臓をわしづかみにしました。私はそれを諦めることなんてできない。それに、あの苦しかった数分間――ドクターを失ってしまったと思っていたあのときに、彼の人生が私にとってどんな意味をもっていたのか、そしてそれがゴードンの人生と比べてどれほど大きなものであったかに気づきました。その瞬間、私はドクターを置いていくことはできないと悟ったの。私は、彼と一緒に立てた計画をみんな実現していかなければいけない、と。
 だらだらと言葉を並べてるだけで、何もちゃんと話してないみたいね。私の中は、こういうぐちゃぐちゃになった感情でいっぱいなの。しゃべってしゃべってしゃべり倒して、自分の気持ちを整理したいのよ。でもとにかく、私は冬の日暮れ時に一人立って、澄みきった冷たい空気をいっぱいに吸いこみました。私は自由なんだ、それはもう完璧に、素晴らしく、電撃的に。そして私は、走ったり跳んだりスキップしたりしながら丘を下り、牧草地を横切って我らが鉄の牢獄へ戻っていきました。自分に歌なんかうたってあげながら。ああ、普通だったら、片翼をもがれた私はとぼとぼ歩いて帰らなきゃいけないはずなのに、こういうのって言語道断な態度よね。でも、裏切られ傷ついた心を抱えて駅へ向かった気の毒なゴードンのことなんて、一度も頭に浮かばなかった。
 屋内に入ると、子どもたちは夕食へ向かうところで、いかにも楽しそうな喧噪が私を出迎えてくれました。この子たちも急に、私のものになったと感じられたわ。最近じゃ、私がここを去る運命の日が少しずつ近づいてくるにつれて、なんとなく子どもたちの影が薄くなって、知らない子たちになってるように感じてたから。私は近くにいた3人の子たちを引き寄せて、ぎゅっと抱きしちゃった。突然、新しい人生と生きがいを見つけたのよ。まるで牢獄から解放されて自由になれたような気分。まるで――ああ、これ以上はやめとくわ――ただ本当のことをあなたに知ってほしかったの。この手紙、ジャービスさんには見せないでね。こんな内容が書かれてたってことだけ、もうすこし控えめな、悲しそうな雰囲気で知らせておいてちょうだい。
 いまは真夜中で、もう寝ようとしてるところです。結婚したくない相手と結婚しなくてすむなんて、最高。子どもたちが私を必要としてくれてよかった。ヘレン・ブルックスが来てくれたことにも感謝してるし、それに、もちろん、あの火事にも感謝してる。私の目をはっきり開かせてくれたすべてのことに感謝だわ。うちの家系では離婚した人なんていないのよ、そんなことになったら嫌がられてたでしょうね。
 自分がとんでもなく利己的でわがままだってことはわかってる。本当なら、気の毒な傷心のゴードンに思いを馳せてあげなきゃいけないわよね。でも、私がものすごーく申し訳なさそうな風にしてみせたところで、実際そんなのはただのポーズなんだもの。彼だってそのうち、誰かほかの、私と同じくらい目立つ色の髪をした、女主人役をしっかり勤めてくれるお方を見つけるでしょう。いまいましい現代かぶれの考え――社会福祉だの女性の使命だの、あとなんだか最近の女性がかぶれているばかげた諸々だの――にわずらわされない女性を。(かの青年が腹立ちまぎれに言ったお言葉を、やんわり言い換えてみました)
 さようなら、大好きなペンデルトンご夫妻さま。私もあなたたちのいる海岸に立って、青い、青い海を眺めることができたらねえ! カリブ海へ向かって、敬礼をば。
 アディオ!

サリー

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