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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.317

(続き)

彼女はついに、生きることに疲れきって、びん1本分の薬用酒を飲んだの。誰かが、一気に飲んだら毒になると言っていたからって。でも、それでは彼女は死ななくて、ただ具合が悪くなっただけ。そこへ夫が戻ってきて、次にあてつけでこんなことをしやがったら、絞め殺してやるって言ったの。それで彼女は、じゃあ夫は、まだ少しは自分に気持ちが残っているんだわ、って思ったわけ。こんなことを、紅茶をかき混ぜながら何気なーく話してくるのよ。
 私、何か言わなきゃって考えをめぐらそうとするんだけど、社交の場でこんな突拍子もない話を聞かされたって、ちっとも頭が働かない。ところが、サンディがこのとき、じつに紳士らしい態度を見せたわ。申し分ない良識的な言葉をかけて、彼女をすっかり元気づけて帰してあげたの。我らがサンディは、やる気さえ出せば、素晴らしくいい人にもなれるのよね。とくに、彼と何の関わりもない人に対しては。私は、これって彼の職業的な作法だと思ってる――体を治すのと同じように、心のほうを癒してあげるのも、医師の仕事の一貫でしょ。この世界にあっては、たいていの人の心に、そういう癒しが必要だものね。今日のお客さまのせいで、私だって癒しが必要になっちゃった。そこからずっと考えてばかりいる。結婚した相手が、私を捨ててガム娘に走ったり、家に帰ってきては骨董品を叩き壊したりような人だったらどうしよう、って。この冬に出会った人たちの経験談を総合すると、そういうのって誰にも起こりうることみたいよね。上流社会では、とくに。
 あなた、ジャービスさんと結婚できたことにもっと感謝しなきゃだめよ。ジャービスさんみたいな人は、何か確固たるものを内に秘めてるのね。長く生きるほどに、「価値があるのはその人の中身だけ」っていうことがどんどんはっきりしてくる。でも、その人の中身なんて一体どうやって判断したらいいのよ? 男性って、本当に口がうまいんだもの!
 さようなら、ジャービスさんと二人のジュディに、メリー・クリスマス。

S.McB.

追伸
 あなたが、私の手紙にもうちょっとだけでも早く返事をくれたら、大変に喜ばしいことだと存じます。

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