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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.331~332

ジョン・グリア孤児院にて
1月14日

ジュディへ

 聞いて! J.F.ブレットランド氏は火事の件をニューヨークの新聞で読んで(やっぱり都会の新聞はくわしいことを載せるみたいね)、心配にうち震えながら飛んできたの。黒焦げになったここの敷居から転がりこんできて、第一声は、
「アレグラは無事ですか?」
 でした。
「はい」
 と私。
「よかった!」
 彼は叫んで椅子に倒れこみ、
「ここは、子どもを置いておけるような場所ではありません」
 と、厳しい口調で言いました。
「アレグラを引き取りに来ました。男の子たちも一緒に、です。」
 それから彼は、私が何か言うまもなく、せきこんで話しはじめました。
「妻とよくよく話し合ってきたんですが、どうせ手間をかけて子ども部屋をつくるなら、1人用にするのも3人用にするのも大差なかろうということになりましてね」
 私は彼を2階の書斎にお連れしました。あのちっちゃな一家は、火事のあとここで暮らしてるの。それから10分後、私が評議員さんと話すために1階へ呼ばれていったときには、J.F.ブレットランド氏は新しくできた娘を膝にだっこして、息子たちを両方の腕に一人ずつもたれさせ、合衆国一の誇らしげなお父さまとなっていました。
 まあ、そんなわけで、火事が1つのことを成し遂げてくれました。3人の子どもたちの人生が決まったのよ。これだけでも、失ったものの埋め合わせになるわ。
 でも、あなたに出火原因については話してなかったわよね。まだ手紙に書いてないことってたくさんあるのよ。これをぜんぶ書くって考えただけでも腕が痛くなりそうなくらい。判明したところでは、ステリーがこの週末、孤児院にいたようなの。件の夜は「ジャックの店」でどんちゃん騒ぎをしたあと、窓をよじのぼって馬車置き場に入りこみ、ろうそくに火をつけて.すっかりくつろいで寝てしまったみたい。このとき、ろうそくの火を消しておくのを忘れたようなのね。ともかく、火事が起こってしまって、ステリーは命からがら逃げ出したわけ。いまは町の病院に入ってて、やけどした体に油を塗られながら、こんな大騒動を引き起こしてしまったことを心から悔いているって話です。
 保険がかなり効くみたいでよかった、最終的に、金銭的な損害はそこまで膨大にならなくてすみそうね。それ以外には、損害なんて全然なし! っていうか、私が知ってる限りでは、むしろ得たもののほうが大きいの。もちろん、満身創痍の気の毒なドクターを除いては、ってことね。皆さん、最高によくしてくれているわ。人の心に、慈善と親切とがこんなにもあったなんて、知らなかった。私、以前に評議員さんたちを悪く言ったことあったかしら? それ、取り消し。評議員さんたちが4人も、火事の翌朝にニューヨークから飛んできてくれたのよ。それに、地元の方々も素晴らしいわ。サイ閣下ですら、5人の子どもたちの面倒を見てくれてるんだけど、そのお行儀を正すのに手一杯になってるものだから、何も面倒ごとを起こさなくなりました。

(続く)

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