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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.342~343

1月29日 木曜日
ジュディへ

 先週ばーっと書きなぐって送った10ページの手紙は、とんでもなく支離滅裂だったでしょうね。あの手紙はびりびりにやぶってねって言ったけど、ちゃんと守ってくれた? 私の書簡集にあの手紙が入っちゃったら嫌なのよ。私の精神状態は、まったくお恥ずかしくて、衝撃的で、外聞の悪いものではあるけど、でも人間の感情はどうにもできないもの。普通なら、婚約するってとても嬉しい気持ちになるもののはずよね。ところがそんなものは、ああ、婚約を解消した、この何にも束縛されない、喜ばしい自由な感覚に比べたら! ここ何か月かは、ずいぶん不安な気持ちでいたけれど、ようやく落ち着きました。独身生活を送れることをこれほどありがたく、楽しみに思ってる人って、私のほかには絶対いないはずよ。
 私、あの火事は天啓だったと思うようになりました。新しいジョン・グリア孤児院の進む道をひらくために、神さまが火事を起こしてくれたのよ。私たちはもう、コテージ式孤児院の計画にどっぷりはまっています。私は灰色の漆喰塗りがいいって言うし、ベッツィはレンガ作りのほうが好きだって言うし、パーシーさんはヨーロッパ風の半木骨造がいいって。気の毒なドクターは何がいいって言うかしらね、わからないわ。二重勾配屋根のある、深緑色の建物がお好みかも?
 それに、実習用の台所が10室はないと、子どもたちが料理を覚えられないわね! 私もう、そこを担当してくれる愛情たっぷりのお母さんを10人探しはじめてるのよ。じつを言えば、11人探してる。サンディのところに1人つけようと思って。かわいそうに彼、うちの子どもたちと同じくらいに、お母さんらしい心遣いを必要としてるのよ。毎晩、あのマクガーク夫人とやらが采配をふるう家庭に帰らなきゃいけないなんて、あまりにも気が滅入るじゃない。
 あの女の人、本当に嫌いだわ! 私が4回行ったら4回とも、「しぇんしぇいはおやしゅみになってまして、起こしゃないでほしいそうです」なんて、偉そうに言い張るのよ。だからまだ彼には会えてないんだけど、もう礼儀正しくするのはやめました。と言っても、それを実行に移すのは明日の4時になるけど。30分くらいの短い時間、形ばかりの面会に行くの。彼が自分で約束してくれたのよ。そこでもしマクガーク夫人が「しぇんしぇいはおやしゅみ…」なんて言い出したら、私、彼女をちょんと押して転ばせてやるわ(すごく太ってて安定が悪いから)。で、そのおなかを踏みつけて、しずしずと家の中に歩を進めてやるの。以前は運転手で、部屋係で、庭師でもあったルエリンは、いまや熟練の看護師だそうよ。白い帽子とエプロンをつけたルエリンの様子、ぜひ見てみたい。
 いま郵便屋さんが来て、ブレットランド夫人からの手紙を持ってきてくれました。子どもたちを持ててどんなに幸せかってことが書いてある。はじめての記念写真も入ってるわ――みんなで小型の馬車に乗って、クリフォードが誇らしげに手綱をとってる。ポニーの脇には、馬丁が控えてるわ。ついこの間までジョン・グリア孤児院に収容されてた3人は、どんな気持ちでいるかしら? この子たちの将来を考えると心が躍ります。でも、子どもたちのかわいそうなお父さまのことを思い出すと、ちょっと悲しくもある。3人の子どもを養うために、死ぬまで懸命に働いて、でもその3人は自分のことを忘れていくなんて。ブレットランド夫妻は、子どもたちが父親を忘れるように全力で頑張るでしょうね。自分たち以外の影響が子どもに及ぶことに嫉妬を感じて、子どもたちが完全に自分たちのものになるようにしたいんでしょう。結局のところ、自然な流れというのがいちばんいいのかもしれないわね――自分たち自身の子どもを持って、手元で育てていくことが。

(続く)

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