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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.345~348★最終回

ジョン・グリア孤児院にて
土曜日、朝の6時半!

大好きな敵さま

「もうすぐきっと 素敵なことが起こるよ」
 今朝起きたとき、何があったか思い出して驚きませんでした? 私は驚いちゃった! 2分くらいは、どうしてこんなにも嬉しい気持ちなのかわからずにいました。
 まだ明るくなってはいません。でも私はばっちり目を覚まして、どきどきしながらこうして手紙を書いています。あとで、最初にここへやってきた、信頼のおける子に手紙を託します。それで、オートミールと一緒に、この手紙があなたの朝食のトレイに乗るっていう寸法です。
 手紙を追いかけて、午後4時にそちらへ伺います。付き添いの子どももなしに私が2時間も居座っていたら、そんなはしたない真似をマクガーク夫人は見逃してくれるかしら?
 私ね、サンディ、お手にキスはしませんだのベッドカバーに涙はこぼしませんだの言ったのは、本当にそうするつもりだったんです。でも、申し訳ないけど両方ともしちゃったわ――ううん、それよりひどかったかも! 戸口から入って、包帯でぐるぐる巻きの、前髪も焦げてしまったあなたが枕にもたれているところを見るまでは、私、自分がどれほどあなたのことを好きか気づいてなかったんだわ。あなたの姿を見てほっとしました! 体の三分の一がギプスと手術用の包帯で隠れてるいまだってあなたのことが好きなのに、全身が出てきちゃったら、私どれだけあなたのことを好きになるのかしらね?
 でもね、大好きな、大好きなロビン、あなたってばかな人ねえ! こんなに何か月も、完璧なスコットランド的行動を見せつけておいて、それで私のことをずっと好きだったなんて、わかるわけないじゃない? 男性があなたみたいな態度をとってたら、それは大抵、好意の現れってことにはならないのよ。何か私に、真実を告げるちょっとしたヒントだけでもくれればよかったのに。そしたら私たち二人とも、あんなに心を痛めたりしなくて済んだのにね。
 でも、過去を振り返ってばかりもいられません。前を向いて、感謝しなきゃ。人生における最高の幸せ2つが、私たちのものになるんだものね。友情のともなった結婚と、2人の愛する仕事と。
 昨日そちらを出たあとは、なんだかぼーっとした気分で孤児院まで歩いて戻りました。一人になってよく考えたかったんだけど、一人になるかわりに、ベッツィとパーシーさんとリバモア夫人を招いて夕食会(もう招待してあったの)、さらには、階下へ行って子どもたちとおしゃべりもしてこなきゃいけなくて。金曜の夜――社交の時間です。蓄音機用に、リバモア夫人がくださった新しいレコードがたくさんあるから、私もおとなしくすわって音楽を聴くことにしました。それでね――おかしいと思うでしょうね――、最後にかかった曲が「ジョン・アンダーソン、私のジョン」だったんだけど、私、急に泣き出してしまったの! みんなに見られないように、すぐそばにいた女の子を引き寄せてぎゅっと抱きしめて、その肩に顔をうずめました。

ジョン・アンダーソン、私のジョン
一緒にあの丘をのぼったわね
そして楽しい日々を、ジョン
私たちずっと一緒に過ごしてきたわ
いまはこうして、ゆっくり丘を下っていくのね、ジョン
手をつないでいきましょう
そして丘のふもとで一緒に眠りましょう
ジョン・アンダーソン、私のジョン

 私たちが年をとって、腰が曲がってゆっくりゆっくり歩くようになっても、ずっと一緒に過ごしてきた楽しい日々を、二人で何の後悔もなく振り返れるものでしょうか? 前を向いて進むのは素敵ね――仕事、遊び、日々のちょっとした冒険、隣にはいつも愛する人のいる暮らし。未来のことについては、もう何も恐れるものはありません。あなたと一緒に年老いていくのなら、それもいいわ、サンディ。「月日は、私が釣り糸を垂れる水の流れのようなものである。」
 私が孤児院の子どもたちを好きになったのは、あの子たちが私を必要としていたからです。そして、それがまた、私があなたを好きになった理由――少なくとも理由の一つ――でもあるの。あなたは気の毒な方だわ、サンディ。自分の力ではのんびりした気持ちになれないんだもの、誰かがそうさせてあげなきゃ。
 孤児院の向こうの丘に家を建てましょうね――黄色い小さなイタリア風の家はどうかしら、それともピンクのほうがいい? とにかく、緑色以外でね。二重勾配の屋根もだめ。広くて明るい居間に、暖炉と、眺めのいい窓と――マクガーク夫人は抜きで。かわいそうなおばあちゃん! 私たちのことを知ったら、怒りのあまり、とんでもない食事を出してくるんじゃないかしら! でも、まだこの話をするのはずっとずっと先のことにしましょう――ほかの誰にも。私のほうは婚約破棄したばかりだっていうのに、あまりにも外聞が悪いものね。昨夜ジュディに手紙を書いたんだけど、かつてない自制心をはたらかせて、におわせるようなことは一言だって書きませんでした。私も、ながながスコットランド的になってぎだな!
 私があなたをどんなに好きか自分でも気づいてなかった、って言ったけど、サンディ、たぶん私、厳密には本当のことを言っていなかったと思います。ジョン・グリア孤児院が燃えた、あの夜に、そうと気づいたの。あなたが炎を上げる屋根の上に出てきて、そこからあとの、あなたが助かるのかどうかもわからずにいた30分の間、私がどんな苦しみの中にいたか、言葉にすることはできません。もしあなたが死んでしまったら、私はもう、一生をかけても立ち直れないと思いました。人生で得た最良の友を、こんなおそろしいすれ違いの溝にはまりこんだまま失ってしまうなんて――。面会が許されるようになったときには、1秒だって待ちきれなかった。この5か月間、私の中にためこんでいたものを、すべて話してしまいたくて。それなのに――あなたは私を家に入れないよう厳命してたじゃない。ものすごく傷つきました。こんな態度から、どうやったら「本当はほかの誰よりも私に会いたいのに、例のスコットランド的な道徳感がそれを押しとどめている」なんてわかるわけ? あなたはたいした役者だわ、サンディ。でもね、もしこれからの2人の人生に、ほんのちょっとした誤解の雲でも生じてきたら、それを心の中に閉じこめておくなんて真似はしないと約束しましょう。ちゃんと話すのよ。
 昨夜、みんながいなくなったあと――早い時間にね、ありがたいことに。子どもたちはもうここに住んでないから――私は2階に上がって、ジュディへの手紙を書き上げました。それから、電話機を見て、かけようかどうしようか迷っちゃった。505番を呼び出して、あなたにおやすみって言いたかったの。でもしませんでした。私にも、まだ相当に恥じらいというものがありますから! そんなわけで、あなたと話をすることの次にいいことをしました。バーンズの詩集を出してきて、1時間ばかり読んでいたの。眠りに落ちるときには、あのスコットランドの恋の詩が頭の中に流れていました。それでいま、この夜明けのひとときで、あなたに手紙を書いているというわけです。
 さようなら、ロビン、あんだのこどが大好ぎよ!

サリー

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