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6.13週目の奇跡 2nd 〜 三男編 〜

当時働いていた高齢者のためのデイサービスに出勤してすぐ、妻から職場に電話があった。職場にかかってくる家族からの電話はたいてい悪い知らせだ。

「出血してる」

「出血?!」

真剣な顔で思わず声に出した僕を見て、
心の中で勝手に介護の鬼と呼んでいた、体格のいい女性リーダー
(恐ろしくオムツ交換が早く、ご自身の意見を貫く方だった)が状況をすぐに察知してくれ、言った。

「すぐ帰ったほうがいいんじゃないかい。」

自宅に戻り妻に様子を聞く。
出血とともに破水をしているようだった。
次男の時と同じ状態、そして同じく妊娠13週目だった。

最も近い総合病院に車を走らせ、すぐに診てもらうことができた。
次男の時と同じく女性の医師で40代に見える。女性であることが安心感を与えてくれた。子の命が危うい状況に医師であるだけでなく、女性としても妻に寄り添ってくれる、そう感じた。日本人の医師だった。

その女性医師は言った。
「助かる見込みは非常に少ないです。」

言葉は違えど、次男の命が危ぶまれた時の医師の診断と同じだった。
直接言葉は交わさなかったが、選ぶであろう選択は妻と同じ確信があった。
僕は医師に決意を込めて伝えた。

「妻は次男を妊娠したとき、同じく13週目で出血して破水をしました。
 当時緊急で診て下さった医師は100%助からない、と言った。
 僕たちは治療を望み、その後、傷の回復とともに徐々に減ってしまった羊水が回復して、次男は無事に産まれてきてくれました。
 そして今こうして元気に一緒に暮らしています。
 なので治療をお願いします。」

妻を見ると不安を帯びてはいたが、次男の時とは違い、これから無事三男が産まれてくることを信じ治療を強く望む、そういった決意の表情に見えた。

僕の話を聞いた女性医師は驚いた表情で目を開き、一瞬の間の後、口を開いた。
「今まで前例がありませんし、母体にリスクもある。無事に産まれたとしても子供に障碍が出る可能性があります。」

「無事に産まれてきた前例はここにあります。」

産まれてきた次男がその証であり、我々は前例の経験者だ。
僕は妻の方を見るとさっきよりも不安の和らいだ顔をしていた。
改めて夫婦で三男の無事出産のために、できることを全てやる、そう決めた瞬間だったと思う。

妻は入院して安静に過ごし、次男の時と同じように、羊水は順調に少しずつ回復していった。


続く


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