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RGB画像から、特定色で多色分解をする方法(特色印刷の話)

久しぶりに紙のマンガを買った

11月の発売日直後に、第七王子セミカラー版(オンラインでなく印刷した本の方)を書店で入手するのは意外に苦労した。苦労したのは私に頼まれて遠くまで取り置きを取りに行った家人だが。
で、久しぶりに本屋さんをブラブラしていて見つけた「うる星やつら パーフェクト★カラーエディション」が、フルカラーページがほとんどなくて、2色印刷ばっかりだったけど、その事に全く不満はない。買う前にAMAZONのレビューを読んで知ってたしね。むしろ2色印刷は手法として大好き♪ 本のあとがきによると、サンデー本誌ではこの朱色と墨の2色で分解する多色印刷が、実際もうすでに4〜5年前から使用されなくなったと書いてあった。驚いたよ。

朱色と墨での分解をやってみた

そしてこの世間からは失われた「朱墨2色原稿」の色分解を自分でもやってみた。もちろんなんでも自分でやってみますよ、楽しいよ。
いつも通りチャンネルミキサーで該当色を拾って行く。私は色の階調や色相の操作がしやすいためRGBで作業をします。チャンネルミキサーでRを中心に朱版を作成すると、墨版成分も拾ってしまう。例えばラムちゃんの髪の毛などのベタ部分が朱100黒100の200%リッチブラックになってしまう。従って朱版から黒(墨)の部分を除去する方針(印刷は減法混色なので実際のオペレーションとしては反転した墨版を加算する)で行く。背景の「昆布巻き」の薄いグレーあたりも再現度の確認ポイントですね〜。

色分解比較1:墨版部分を朱版から除去した方が良いのはわかった

やっていてレイヤーベースでの演算てホント面倒なので、いい加減にPhotoshopでもノードベースで作業したい!と思う。あー、これたぶん実際は2色分解専用の分解テーブルがある気がする。めんどくさすぎるし。
で、色々調べて「プロファイル変換」で「カスタムCMYK」を選び「墨版生成」より黒色成分を墨版へ厚く調整できる事(GCR)がわかった。

色分解比較2:GCR処理のほうが朱版に調子が残り良い感じ 墨版もオリジナルにより近い

GCRとUCR

GCR(Gray Component Replacement)という製版技術があるそうだ。CMY成分を全てB版へ置換する。同様にシャドウ部分のみを置換するのをUCR(Under Color Removal)という。
印刷の黒色部分をK版だけでなくCMY版を重ねてできるリッチブラックは濃くて版面が締まるしツヤも上がる。CMYK全部で400%中、印刷適性的には350%くらいが限界なため、重なった部分をグレーへ置き換えるという技術になる。300%くらいでもでも十分効果はあるのに。アゲアゲで盛っていた過去は深く反省するよ。今回はR成分にある黒色部分を墨版へ移した。

個々の版をよく見てみる

がんばってチャンネルミキサーで拾ってみたが、髪の毛などの朱色100%部に墨版がうっすら残っている。背景も少し濃い。これだと色が濁る。

墨版比較:プロファイル変換によるGCR処理は優秀のようだ

肝心の朱版についてはこんな感じ。GCR処理は階調が残っていて優秀。「墨版生成」を「硬調」だと、墨部分にこれくらい朱版に黒色が残る。
「墨版生成」を「最大」にすると、中央の墨版部分を除去したのと同じくらいまで朱版から墨部分が除去される。ここらへんは画像の中間色の具合や、全体にどう仕上げたいかに応じて考えれば良いだろう。
今回は少し残っていたほうが良いので「硬調」かな~

朱版比較:一番左だと問題外だよな・・・

具体的な手順

以下に具体的な手順を記しておく。
2色印刷は、マンガの世界ではなくなったらしいけど、NHKのラジオ講座のテキストとか大量に刷る現場ではコスト削減策として今でもまだ残っているようだ。この記事は2色原稿制作ではなくあくまで色分解の話なのだが、DTP以後はデザイナー側で製版まで責任を負う事も多いので手順を正確に残しておくことは有益かもしれない。
個人的には、こういうリミテッドカラーのグラフィックは、ミニマムデザインとして、情報過多で制約が多い中でも効果的な手法として、UI制作でもっと活用されていったら良いのにとは思っている。なかなか伝わらんけど。

「②朱・墨色をRGBから分解」する方法

  1. 「イメージ」>「モード」から「RGB」「16 bit/チャンネル」へ変更 これで階調抜けをある程度までは防げる

  2. 元画像自体に「レベル補正」が必要ないか、ヒストグラムや見た目で確認

  3. 墨版をつくるためにオリジナルを複製し新規グループに入れ、グループ名を「01_墨版」などへリネーム。

  4. 「レイヤー」>「新規調整レイヤー」>「チャンネルミキサー…」を適用出力チャンネルは「グレー」でヒストグラムで見ながら飽和させない程度にオリジナルの階調を再現するイメージで墨版をパラメータ調整で作成する(下図参照)

  5. 「レイヤー」>「新規調整レイヤー」>「トーンカーブ…」を適用
    ヒストグラムの左右の端を見ながら、チャンネルミキサーで調整しきれない階調を調整する

  6. 新規レイヤーを作成し、Ctrl+Alt+Shift+Eでスタンプし「01_墨版fix」などにリネーム

  7. 朱色版については、上記3〜6を繰り返す

  8. 新規ドキュメント(CMKY)を作成し、チャンネルから、新規スポットカラーチャンネルを2つ作成し、できあがった「01_墨版fix」と「02_朱版fix」をそれぞれペーストする

  9. 特色として、墨(#201f1e)朱(#e57a49)を今回は指定

チャンネルミキサー調製例

「③朱版から墨色部分を除去」する方法

  1. 上記①朱・墨色をRGBから分解を行った上で、朱色の完成したレイヤ「02_朱版fix」を新規グループに入れ、グループは「朱版から墨版除去処理」などわかりやすくリネームする

  2. 「01_墨版fix」を複製し、「朱版から墨版除去処理」の中の一番上へ入れる

  3. Ctrl+Iで階調を反転し、「覆い焼き(リニア)ー加算」を選択する
    これで、墨版の黒い部分を白い部分として加算する事で、黒色部分を朱版から除去できた(下図参照)

  4. 新規レイヤーを作成し、Ctrl+Alt+Shift+Eでスタンプし「03_朱版修正fix」などにリネーム

  5. 新規ドキュメント(CMKY)を作成し、チャンネルから、新規スポットカラーチャンネルを2つ作成し、できあがった「01_墨版fix」と「03_修正fix」をペーストする

  6. 特色として、墨(#201f1e)朱(#da6128)を今回は指定 (朱版は最大が100%がないので若干色を変更して見た目を揃えています)

レイヤー構造 

「④GCR処理」をする方法

  1. オリジナルのRBGデータを複製し「〜2色分解CMYK」などわかりやすくリネームする

  2. 「編集」>「プロファイル変換」>「カスタムCMYK」を選び「墨版生成」より黒色成分を「硬調」選択し実行

  3. 「レイヤー」>「新規調整レイヤー」>「チャンネルミキサー…」を適用出力チャンネルは「シアン」「イエロー」は0,0,0,0で、「マゼンタ」と「ブラック」はヒストグラムで見ながら飽和させない程度にオリジナルの階調を再現するイメージでパラメータ調整(下図参照)

  4. 新規レイヤーを作成し、Ctrl+Alt+Shift+Eでスタンプし「CMYK分解」などわかりやすい名前にリネーム

  5. チャンネルタブへうつり、「シアン」「イエロー」には白のみであることを確認する

  6. 「マゼンタ」「ブラック」のチャンネルを複製する

  7. 複製した「マゼンタ」「ブラック」のチャンネルをダブルクリックして、チャンネルオプションよりスポットカラーへ変更

  8. その際に特色として、墨(#201f1e)朱(#da6128)を指定し、チャンネル名を墨版、朱版などへ変更する

  9. 朱版のみコピー、新規グループと野の中に新規レイヤーを作成してペーストし、「レイヤー」>「新規調整レイヤー」>「レベル補正…」を適用
    ヒストグラムの左右の端を見ながら、チャンネルミキサーで調整しきれない階調を調整する(墨版は必要なさそうだった)

  10. スポットカラー(特色)のみを表示するために、一番上のレイヤーに新規レイヤーを作成して白で塗りつぶして完成。

プロファイル変換とチャンネルミキサーの設定

【おまけ】スポットカラーを設定したCMYKモードのドキュメントをjpegなど通常のファイルで書き出す方法

せっかく分解しても、その画像をPhotoshop以外で見られないと色々困るでしょう。そういう人のためのTIPS。CMYKのままではダメというのがポイントです。

  1. レイヤーモードをRGBへ変更する

  2. チャンネルからスポットカラーチャンネルを選択した状態で、右上のメニューから「スポットカラーチャンネルを統合」を実行する

  3. コピーを保存等でjpegやPNGで書き出せます

参考リンク

プロファイル変換についてはこちらのサイトの記述を参考にしました。

GCRとUCRの説明はこの本に拠ります

私が10年前に書いた特色分解についての記事

その記事を引用している記事があってびっくりした。今回の記事も誰かの役に立つかもね。どっちかというと備忘録なんだけど。

で、うる星やつら。なぜ今アニメ化なのかはしらんけど、久しぶりに読んでも、やっぱり良いわけです。

あと、第七王子について触れておくと、白黒コミックの一部をカラーにする事を「セミカラー版」と呼称するのは、【デジタル版限定! デジタル着色により“メイティングシーン”のみフルカラー!!】からなのかな。セミはsemi-という接頭辞で確かに半分とか半ばを意味するけど、部分的にカラーであることを意味するって違和感あるしきっと和製英語なんだろうなぁ。

以上、久しぶりに印刷について考えた。

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