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【コンサルタントの本棚 第1回 】 波頭 亮『論理的思考のコアスキル』

皆さんこんにちは。DailyCase運営のKです。

「コンサルタントの本棚」はコンサルタントを目指されている方や、ロジカルシンキングを身に着けたいと考えている方向けに、ベストセラーから隠れた名著までそのエッセンスをお届けするコーナーです。単なる内容の要約にとどまらない、DailyCaseならではの視点で解説をしていきます。

第1回は『思考・論理・分析』などの著作で有名な波頭 亮氏の『論理的思考のコアスキル』を選びました。

本書は内容の難易度・得られる知識・分量のバランスが非常に優れており、論理的思考を学ぶ第一歩として適していると感じました。

名著と呼ばれる本は内容が濃く得られるものも多い一方で、入門書としては適していない場合もあります。特にコンサルタントとして必須と言われるロジカルシンキングに関しては、関連する本が多すぎて何から読めばいいか分からない、なんて状態の人も多いかもしれません。まずはこの本で思考法のエッセンスを掴み、これから様々な本にチャレンジしていきましょう!

第I章 論理的思考とは


1. 思考とは何か
論理的思考というワードを考える際に、まず「論理的」とはどういうことか、「思考」とは何か、を定義しないといけませんね。この本では後者の「思考」から論を始めています。

思考とは、端的に定義するならば「(何かを分かろうとして)情報と知識を加工すること」である(情報と情報、知識と知識の加工でもよい)。このような、情報と知識を照らし合わせたり繫ぎ合わせたりして何らかのメッセージを得るプロセスが「思考」である。

非常に明解ですね。では、その「思考」のメカニズムついて詳細に見てみましょう。

その思考の工程はミクロで見ると「情報を要素に分けて、比べて、くくる」作業をしているのであり、思考とは情報を「分ける」「比べる」「くくる」ことであるという理解が成り立つのである。

これが情報加工のプロセスになります。考察対象を要素に分け、それぞれ対応する知識要素と比較し、その比較結果をもとに統合・整理して同じ要素でグルーピングすることが基礎的な流れと言って良いでしょう。そして、この思考によって得られる成果が以下の通りです。

これら「事象の識別」と「事象間の関係性の把握」という2つの基本的な思考成果を組み合わせたり積み上げたりすることによって、複雑で広大な森羅万象にアプローチすることが可能になる。

事象の識別とは「それが何か」分かることであり、例えば思考の結果、「目の前に咲いているのは桜だ」「この症状は風邪だ」などと分かる、ということです。事象間の関係性の把握とは、「今日の胃もたれ」が「昨日の食べ過ぎ」のせいであることがわかる(原因と結果)、という分かり方のことを指します。

事象の識別を積み上げることで、私たちは膨大な量の知識を「分類・体系化」してきました。そしてこれまで説明した思考の流れを発展させると、思考成果の総括として事象の「構造化」が可能になります。

「構造化」とは、事象の「構成要素」と、それら構成要素間の「位相/関係性」を明らかにすることである。
これがすなわち事象の全体像の把握と言っても良いでしょう。

2. 論理とは何か
次に「論理」について見ていきましょう。まず、「論理そのもの」の定義から入ります。

広義の論理が「根拠」+「思考の道筋」+「結論」という3点セットになり、狭義の論理は根拠によって結論を支える「思考の道筋」ということになる。

次に論理が成立するための要件を考えてみましょう。

論理が成立するための要件には、形式要件と意味的要件とがある。まず端的にこれら2つの成立要件を示しておくと、
・形式要件は、「命題が2つ以上あること」である。
・意味的要件は、「2つの命題が推論(したがって)、あるいは理由づけ(なぜならば)によって、意味的に繫げられ得るものであること」である。

もちろん、これらの要件を満たして論理が成立したとしても、受け手の理解力や判断基準に適合した論理展開でなければ、客観的に妥当とは認められない場合もあります。いきなり「E=mc2なので時間は可変です」と言われても、その妥当性を判断できる人はいないでしょう。

さて、これまでの1~2節をまとめると、「論理的思考」は以下の様に定義できます。

論理的思考とは、「情報と知識を組み合わせて、客観的妥当性を有する思考の道筋によって、既呈命題から次段階の命題を導く、あるいは結論を根拠によって支える形態の命題構造を作り出すこと」なのである。

3. 論理展開の方法
次に、論理的思考において客観的正しさ、妥当性を担保するための論理展開の方法・フォーマットについて見てみましょう。

客観的正しさを担保することに適った論理展開の方法論とは、「演繹法」と「帰納法」であるが、両者は全く異なるプロセスとフォーマットを取る。端的に言うならば、「演繹法」は純粋論理的な論理展開の方法論であり、「帰納法」は実証科学的な方法論である。

演繹法と帰納法については聞いたことがある人が多いでしょう。しかし、ここで注意しなければならない点があります。

この基本的性質の違いはそれぞれの論理展開を行うことによって得られる結論の性質の基本的な違いを生み出している。どのような違いかというと、演繹法によって得られる結論は〝真か偽か〟で明快に判断することが可能であるのに対して、帰納法によって得られる結論は、その正しさの程度が〝強い/弱い〟で判断される性質のものなのである。

つまり、正しい論理展開をしたからと言って、必ずしも客観的に正しい結論が得られるわけではないのです。ロジックに加えて、それを適用する対象が現実的事実に合致している、すなわちファクトであることが必要になります。

では客観的に正しいことを結論として得るために妥当な論理展開、すなわち「ロジック」に加えてさらに必要なものは何か。答えは「ファクト」(事実)である。(中略)このように客観的に正しい論理的思考を支えるのは「ファクト」と「ロジック」であること、そして「現実的に正しいことだけが、本当に正しい」ということを銘記していただきたい。

第Ⅱ章 論理的思考のコアスキル


第Ⅱ章では、これまで説明してきたような論理的思考を上手く行うためのスキルについて見ていきます。

1つ目のコアスキルは、思考している意味内容を的確に言葉で表すための「適切な言語化」スキルである。(中略)言葉は意味の容れ物である。そして意味は言葉によって表現されてこそ思考の材料となる。その意味において「適切な言語化」は思考行為そのものなのであり、論理的思考を成立せしめるための最も基本的なコアスキルなのである。

私たちは普段言葉によって思考しているので、頭の中の意味内容を的確な言葉で表せてこそ、正しい思考が可能になるのです。

2つ目のコアスキルは、事象を構成要素に「分ける」スキルと、ある事象と別の事象を意味やイメージの連関性によって「繫げる」スキルである。(中略)つまり、上手く「分ける」ことができるかどうかで、「分かる」かどうかが決まることになるのだ。

これは第Ⅰ章でも見てきた内容ですね。ある事象に対してどのくらい多様な事象を「繋げられるか」が、その人の思考の範囲と射程を決めることになります。

3つ目のコアスキルは論理的思考に現実的有効性を与えるための「定量的な判断」スキルである。

現実的な論理展開を行う際に、どの方向へ論を展開するのが筋が良いのか、その支えとなるのが「定量的な判断」のスキルです。そして、これらのコアスキルを十分に活用するためには、そのための武器が必要になります。それはすなわち、知識と経験です。
以下、順に詳しく見ていきましょう。

1.「適切な言語化」スキル
思考とは言葉によって成立します。そのため、この言語化スキルはコアスキルの中でも特に基盤となる重要なものと言って良いでしょう。この言語化は次の3つの段階からなります。

まず第一に「言葉の選択」、すなわち、思考している意味内容を的確に表す言葉を探し、選び取ることである。第二に「十全な文」、すなわち、論理を構築するための文(命題)を文法に則って生成することである。第三に「文章・文脈」、すなわち、文を繫げて文脈を作り、論理を成す文章にすることである。

2.「分ける」スキル・「繋げる」スキル
言語化スキルに対して「分ける」スキルと「繫げる」スキルは、思考の材料である事象や知識の情報要素を分けたり繫いだりして「意味を加工」する行為そのものであり、思考という情報加工行為のコアプロセスにおけるスキルだと言うことができます。

論理的思考を行うために有効な〝分け方〟には3つの要件があります。その3つの要件とは、
①ディメンジョンの統一
②適切なクライテリアの設定
③MECEな分け方
です。

適切なクライテリアを設定するということは、何かを分かろうとして思考を行う場合に有効なメッセージに繋がり得る分け方を選択するという事である。論理的思考を可能にするためには思考者の思考目的に合致した”適切な”クライテリアを設定することが重要であり、これこそが「分ける」スキルとなるのである。

この「分ける」スキルにコロケーションやアナロジーといった「繋げる」スキルが掛け合わさることで思考の豊かな広がりがもたらされます。

3.「定量的な判断」スキル
これまで見てきたスキルだけで論理的思考が成立するかというと、そうではありません。私たちが実際に思考する際に、答えが白か黒かどちらかに決まるようなパターンは決して多くありません。そのような時にしっかりと蓋然性を把握しながら論理展開するためには、この「定量的な判断」スキルが必要になります。

一連の論理展開の中に蓋然性の低い繋がりが組み込まれると、最終的な結論の確からしさはほとんどゼロに近くなる。

4. アセットとしての知識と経験
先ほども解説したように、3つのコアスキルを支えるのはアセットとしての知識と経験です。この3つのコアスキルがエンジンだとすると、知識と経験は燃料です。

「私の言語の限界が私の世界の限界を意味する」というウィトゲンシュタインの言葉が示すように、知っている言葉と、その言葉にまつわる実感を伴った経験の総量が思考の広がりと論理の射程を決定するのである。

第Ⅲ章 コアスキル習得の具体的方法


第Ⅲ章ではこれまでに解説してきたコアスキルをどうすれば習得できるか、その具体的な方法について述べられています。ここではあくまで概要の紹介を行い、それぞれ詳しい内容については別途、別の書籍などで解説させていただければと思います。

1. What to do: 何を練習するのか
論理的思考力習得への一番の近道は、正しいフォーマットで繰り返し練習を積むことです。その具体的な方法としては、以下の5つが紹介されています。
①「タテの因果・ヨコの因果」の捕捉
②「ベン図」を用いた集合関係の判断
③「ピラミッドストラクチャー」による体系化
④「フェルミ推定」による定量的感覚の訓練
⑤「正反の立論」、すなわちある1つのイシューに対して肯定側と否定側の両方の論理を構築する訓練

先に紹介した4つの練習方法は論理的思考力を構成するパーツとなる個別のスキルトレーニングのメニューであるのに対して、「正反の立論」はそうしたスキルを統合的に活用して、論理を柔軟に、自在に組み立てる力を向上させるための論理的思考の総合力トレーニングのメニューと言えます。

論理とは最も端的に言うと「根拠に基づいて結論が支えられている命題構造」である。したがって論理的思考を自分が思考する際の基本フォームとするためには、思考対象に接したらまず「根拠-結論」のフォーマットでとらえようとするスコープ、思考フォームを身につけることが有効である。

2. How to do:どう練習するのか
第Ⅰ章から見てきたように、論理的思考は、情報を知識・経験と照らし合わせて加工し、論理的妥当性に則って客観的に妥当なメッセージを紡ぎだしていく情報処理作業です。まずはこの定義を繰り返し復習することで、この本のエッセンスを感じ取っていただければと思います。

論理的思考のコアスキルを学ぶ際には、当たり前の事ではありますが
・手を使って考える
・自分の経験と紐づけて考える
・集中して考える
ことが大切です。

「知る」と「分かる」は別物であり、「知った」ことが「経験と紐づけられ」てこそ、実感を伴って「分かる」のである。逆に言えば、実感や経験の無い事象に対しては、「知る」ことはできてもなかなか「分かる」感覚には至らないということでもある。

第IV章 クリティカル・シンキング


最後に、「脳は生得的に論理を間違える性質を持っている」ということと、そのような脳の生得的性質からくる誤謬を避けるための思考の方法論を解説します。

1. ネイチャーとして間違える脳
人間の脳はものを考え、答えを分かろうとする時、まず直感的に答えを得た後で、その答えが論理的妥当性を持っているように後づけで論理を組み立てる、というメカニズムが働いていることはご存知でしょうか。○○バイアスなどの呼び方を何種類かご存知の方も多いかと思います。

つまり、人間は思考以前の段階でもバイアスのかかった認知・判断をしているのです。少し長い引用になりますが見てみましょう。

思考/意思決定を行うにあたって作動する脳のメカニズムには、「システム1」と「システム2」という2つの経路がある。「システム1」は、知識と経験の集積によって働く、無意識的な直感的判断の経路である。(中略)これに対して「システム2」は、意識的に思考して結論を出す思考のプロセスである。論理的思考もシステム2がなせる業であり、このシステム2の発達が人間の進歩と繁栄に繋がったとも考えられている。専門的には二重過程理論(二重プロセス理論)と呼ばれる。本人が意識せずとも、システム1は意識の外側で勝手に始動する。つまり、論理的思考を行おうとした瞬間には、すでにシステム1が作動して無意識的・直観的に結論を出しているのである。

つまり私たちは、何も意識していなければ論理的思考はできないようになっているのです。これは人間が生きていくうえで獲得されてきた能力なので、一概に否定することはできません。しかし、私たちが「論理的に」思考をしようとするならば、次に説明するクリティカル・シンキングが必要不可欠になります。

2. クリティカル・シンキング
論理的思考とは、客観的妥当性のある考え方によって、根拠から結論を導く事です。第Ⅲ章までに紹介・解説をしてきたコアスキルやスキル習得のノウハウが論理的思考力を身につけるための必要条件とするならば、論理的思考をよくするための十分条件と言える思考の方法論がクリティカル・シンキングになります。

論理的思考の十分条件は「クリティカル・シンキング」である。批判の批は比較して良否を判断すること、判は見分ける、明らかにすることを意味している。(中略)要するに、クリティカル・シンキングとは「よく吟味する思考」であり、平易に言うならば、「それは本当に正しいのか?」と立ち止まってよく考えることである。

最後に
いかがだったでしょうか?ここまで体系的に論理的思考についてまとめられている本はなかなかありません。ぜひ実際に本を通読していただき、より深く内容を理解する際にもこちらのコンテンツが補助になれば幸いです。
今後も様々な本を解説していきますので、ぜひ楽しみにしていて下さいね。

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