立体コンポーネントにおける違い

ボートゲームではカードやボード以外に、キューブやチップ、ミープル、フィギュア等様々なコンポーネントが含まれています。
本noteでは、これらの中でもキューブやフィギュア、プリント木駒と言った「立体的なコンポーネント」に関して各々の特徴を考えていきたいと思っています。
コストに関して差があるのは明白ですから、今回は置いておきましょう。

立体であるという利点

立体コンポーネント全体の利点として、まず「立体である」という点があげられます。平面的なボードに立体物が存在するだけで視覚情報に緩急がつけられます。
つまりシステム上のリソースやキャラクターの役割だけでなく、ボード上に置かれた場合は優秀なマーカーの役割も果たしてくれるわけです。
例えばゲーム上重要な情報(収入やアクション)がボードに多数表記されていたとして、それら全ての情報をプレイヤーが常時認識するのはかなり負荷がかかります。
このボード上に例えばキューブを乗せることで「立体物→平面物」と視線を誘導することが可能になり、プレイヤーが情報の取捨選択を助ける役割があるわけです。
ザックリ言えば「キューブが置かれているところを良く見てね」とプレイヤーを誘導しているわけですね。
もちろんこれは「キューブが置かれているところはあんまり見なくて良いよ」とほぼ同義です。
ワーカープレイスメントにおいて、ワーカーが置かれたアクションは踏めませんよ、というのも視覚的な助けになっている一例です。

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ふうかのボードゲーム日記より引用
まず先に、駒等の立体物に目が行きませんか?


【キューブについて】

キューブ。ボードゲーマーにはとても馴染みのあるコンポーネントですね。
時には麦になったり、時には鉄になったり。想像力を働かせれば無限の世界が広がります。
木製、プラスチック製、金属製と材質における違いもありますが今回は省略いたします。
触り心地や重さに関してはこちらの記事もあわせてお読みいただけたら幸いです。

感触と感情と感動ーボードゲームのコンポーネントを考えるー
https://note.com/tozukachuou/n/n2fef90f13980


キューブのシンプルさ

フィギュアやプリント木駒に比べてキューブはとてもシンプルです。個人的にシンプルさ=情報量の少なさ、と考えています。
載せられる情報量の多寡によって、各コンポーネントには大きな差が出ます。この項ではキューブ含むシンプルな立体コンポーネントについて述べたいと思います。

「キューブだと想像力が膨らむ」というのはよく聞かれる意見ですね。これは固定のイメージを想起させにくいという利点でもあります。
ゲームが異なれば、キューブは同じ色でも別の意味を持ちます。そして別のゲームと限らず、一つのゲーム内でも置かれている場所によって、異なるフレーバーやシステムを載せることが可能です。
例えばスルージエイジズというゲームではキューブは置かれる場所によって異なるリソースに変わります。
ある時は食糧であり、ある時は鉱石であり。
置かれる場所によって異なるリソースとして扱えるのはシンプルさゆえです。小麦の形の木駒を場合によっては鉄として扱えというのは混乱を招きますからね。

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酒すごろくより引用

キューブの取り扱いのしやすさ

キューブは並べやすいという点でも優れています。
先ほどと同じくスルージエイジズでは個人ボード上にキューブを大量に並べます。キューブ以外の、それこそディスクでも並べるという取り扱いの点ではキューブに劣るかと思います。
もちろん場合によってはディスクのが勝ります(重ねる等)。
並べる、重ねるはシンプルな造形だからこその優れた機能です。
また大鎌戦役のように、二層ボードへはめ込む形でもキューブに利があると考えていいでしょう。
ただ大鎌戦役に関してはもう少し説明が必要です。

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ニコボドより引用

大鎌戦役では個人ボード上にフィギュア(メック)、木駒(ワーカーと建物)、キューブと円柱が乗ります。
ゲーム上各種異なる特徴を持ちますが、個人ボードでの役割としては「見えるようにする」と「隠す」の大きく2つに分けられます。
メックとワーカー、建物は「隠れたアイコンを見えるようにする」という役割しか持ちません。これはプレイヤーが取得する視覚情報を増やす方向に働きます。
対して、キューブと円柱は「あるアイコンを見えるようにして、同時に別のアイコンを隠す」という役割を持ちます。
この「隠す」においては、視覚情報量を減らす働きです。
そのため、隠すための物自体に視覚情報量が多いと、前後で情報量が変わらなくなってしまいます。
具体的に言えば、キューブや六角柱はある程度シンプルなのでアイコンを隠した時にプレイヤーがちゃんと意識しにくくなる(視覚情報を減らせる)けれど、隠すものがフィギュアだったりすると思わず目が行ってしまう(見る必要が無いのに見てしまう。視覚情報量が変わらない)となるわけです。

「目を引くような綺麗なコンポーネント」はプレイヤーが盤面から得る情報を削減する上で不利に働くこともあります。フィギュアやプリント木駒はこの点で劣ります。

その他、キューブの利点は「雑に扱える」「小さくて良い」という部分も考えられます。これに関してはフィギュアやプリント木駒の項で詳しく説明するとしましょう。

【フィギュアについて】

昨今のボードゲームシーン、特にkickstarterにおいてはフィギュアゲームの隆盛は凄まじいものがあります。
フィギュアはそれだけで満足度が高く所有欲が大いに満たされます。
いわゆるフィギュア(ボードゲームに関係しない物)をショーケースに飾り眺める人はいても、木製キューブをショーケースに入れる人は希少でしょう。
この利点がとにかく非常に大きいと考えるわけですが、その他にいくつかの利点と欠点も持ち合わせています。

フィギュアはデカい

デカく出来る。という方がより正しいでしょうか。
高さ20センチの木製キューブはかなり無理がありますが、同じサイズのフィギュアは少なからず存在します。
木製キューブはノンフレーバーなのに対し、フィギュアはそれ単体で様々なストーリーが付与されています。大きさもその一つです。
皆で立ち向かう強敵が小さいキューブより、大きなフィギュアのがテンションが上がりますよね。
付与されるストーリーがキューブに比べて限定される分、没入感や臨場感はフィギュアに軍配があがるでしょう。


情報量は多いが認識はしにくい

フィギュアはその造形の細かさから様々なストーリーを付与できます。が、無彩色フィギュアに関しては実は遠目だと見分けがつきにくいという欠点があります。
丸、三角、四角という単純な形であれば比較的認識に難は無い(パッと見て分かる)ものの、ある程度複雑な造形になってくると形での判別がやや困難になります。プレイヤーはフィギュアの造形と言うより、大まかなシルエットで認識してると考えて良いでしょう。
そのため、無彩色と言えどもプレイヤーカラー等各々別の単色を用いていることがほとんどです。

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ぼっちのホビーblogより引用
ライジングサンのフィギュア

また先ほど大きく出来ると書きましたが、大きさの違いによって判別のしやすさも生み出しています。
つまりは 色>大きさ>形 の順に、プレイヤーは判別していると考えています。
もちろんペイント出来るという魅力もあるため、無彩色フィギュアそれ自体が欠点というわけではありません。

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ホビージャパンより引用。
フォールアウトシェルターのフィギュアはとても小さく、その造形は素晴らしいものの各駒の違いをゲーム中に認識するのは困難です。

雑に扱えない

ゲーム中、フィギュアを机から落としたらヒヤッとしませんか?
もちろん持ち運びにも気を使います。フィギュアは壊れやすく、雑に扱えません。
雑に扱えない、つまり丁寧に扱わなくてはならないという意識こそがフィギュアの価値をより高めているのも事実です。
人は「大事なもの→だから丁寧に扱おう」だけでなく「丁寧に扱わなくてはいけないもの→だから大事なもの」という認識もしてしまうと考えています。丁寧に扱うフィギュアだから大事。

ですが、この「雑に扱えないこと」自体が制限となります。
袋やトレーにごちゃっと入れることはほぼ不可能です。となると、キューブや木駒のようにリソースやランダマイザとしての役割を持たせることが難しくなります。
またある程度の大きさも必要なため、ゲーム中の細かい管理には不向きです。スルージエイジズのキューブをフィギュアに置き換えたらどうでしょう。おそらく個人ボードは3倍の大きさが必要になる気がします。
大きくて、複雑な造形で、繊細だからこそ素晴らしい魅力を持ち、同時にゲーム中の数値やリソースとして扱うには大きな欠点を持つのがフィギュアです。


【プリント木駒について】

木駒と彩色済みフィギュアの合いの子のような存在です。
見て、触って、楽しい。という点以外にいくつかの利点があります。


認識のしやすさ

キューブの場合、その識別には色を用います。場合によっては小さいキューブと大きいキューブといった大きさも併用しますが、メインは色と考えてよろしいでしょう。
ではゲームにおいて最大何色持ちいることが出来るでしょうか。
6色? 7色?
10色を超えてキューブを用いるのはやや無理があります。
その点、プリント木駒であればイラストという形で認識することが出来ます。無限とは言いませんが、20種30種は容易に可能です。
また駒自体の色とプリントされるイラストの違いによって更に工夫の余地が生まれます。例えば同じイラストでも駒自体がプレイヤーカラーによって分けられる、等です。


側面から情報が読み取れる

駒を立てて置いた時に、イラスト面が側面にあればそこから判別が可能になります。
ボードゲームの中で「横から見て分かる」というコンポーネントは多くありません。カードやボード、タイルは平面だからです。
そして多数種の識別が可能なのは、立体コンポーネントの中でも彩色済みフィギュアとプリント木駒の大きな利点です。
さらに彩色済みフィギュアと異なりプリント木駒はアイコンとしても優秀です。麻雀牌を思い浮かべていただくのが分かりやすいかと思います。
単にイラストやキャラクターを表すだけでなく、数字やマークも載せやすいのはプリント木駒の強みでしょう(もちろん麻雀牌等のプラスチック駒も同様です)


雑に扱える

これはフィギュアと異なるプリント木駒の利点です。一個落としてもそんなにヒヤッとしませんし、袋の中にもガシャガシャと入れられます。
雑に扱えるというのはセットアップの簡易さにも繋がります。複数個を手でガシッと掴んでザッと出せる。造形の細かいフィギュアでは中々に難しい芸当です。
ほぼ同じ意味として、手のひらで持ち遊べる点もあげられます。「見て楽しい」に関してはフィギュアに軍配が上がるかもしれませんが、「(気楽に)触れて楽しい」という点ではプリント木駒のが優れるかと思います。

【Aqua Garden のコンセプト】

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Aqua Garden は2020年11月15日、uchibacoya様よりkickstarterが始まる予定のゲームです。
このゲームでは17種、計116個のプリント木駒が入っています。kickstarterの結果次第ですが、ストレッチゴール等で印刷ナシだった他の28駒もプリント木駒に変わる可能性があります。

今回システムをデザインするにあたり、システムの悩ましさだけでなくプリント木駒の特徴を存分に活かそうと考えておりました。


見た目と勝利点

箱庭ゲームでは見た目の華やかさと勝利点が紐付いている場合が多いと考えています。
勝利点が低い箱庭はスカスカ。勝利点が高い箱庭はミッチリ。そういったイメージです(全ての箱庭ゲームがそうではありません)。

Aqua Garden では、勝利点の高さと見た目の華やかさをなるべく離そうと試みています。
具体的には、極端な行動をしない限りプレイヤーが手に入れられる駒数の下限を設け、かつセットコレクションの制限により点数の振れ幅を大きくしています。

※このゲームはスゴロクのようにマスを進みます。ただし進むマスの数は自分で決められます。ここで言う極端は行動とは、一歩目でゴールまで進むといったものを指します。そのようなプレイングをしない限り魚駒は一定数必ず手に入ります。

つまり遊んだ全てのプレイヤーが自分だけの水族館を完成させることが出来るのです。

もちろん完成された箱庭の華やかさが足りないことによって上達度合い、いわゆる「次はもっと豊かな箱庭を作ろう」というリプレイ性に繋げることも出来ます。
しかしながら今回は、勝利点の高低によって上達度合いへ繋げようと考えていました。「満足する箱庭は出来たけど点数は低かった。今度は高い点数を目指してみよう」という形です。
そう言いつつ点数高いと魚駒がいっぱい入るのも事実なので、見た目と勝利点が全く切り離されてるわけではありません。


立体感と奥行き

Aqua Garden では海の生き物がプリントされた木駒たちを個人ボードに並べます。個人ボードの6つの水槽内のどこに並べるかという制限はありますが、一つの水槽内での駒の位置は問われません。
そのため各水槽内で木駒の位置を微調整することが可能です。
例えば、ジンベイザメを海藻から顔出すように配置しようとか。クマノミとサンゴは近くに置いてみようとか。ウミガメの角度を調整しようとか。
そういった見た目に関して、プレイヤーの自由度が多く残されています。

この配置の楽しさはプリント木駒ならではだと思っています。
側面から認識出来るイラストのおかげで、魚の頭から尾が明確に区別され、配置によって見た目が大きく変化します。先ほど挙げた例を実際にイメージしていただくと分かりやすいでしょうか。
これは無地の木駒やキューブ、またはフィギュア等ではなかなかに難しい、プリント木駒の利点だと考えています。

“立体感と奥行きのある箱庭ゲーム“

これが Aqua Garden のコンセプトです。


最後に

キューブ、フィギュア、プリント木駒。
どれが優れるという話ではなく、各々に強みがあります。
そして今回kickstarterを行う Aqua Garden に関しては、プリント木駒の強みを存分に活かせたと考えています。
Aqua Garden に関しては下記ノートも合わせてお読みいただけたら幸いです。

Aqua Gardenを出版する意図について|Tanaka Junpei uchibacoya
https://note.com/uchibacoya/n/nf18f58985e4a


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