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Shopifyが日本で有名になった話

いつものように後楽園のドンキホーテで買い物を終えて、家までとろとろ歩いていると、会社から1通のメールが。そのメールによると、会社で人員整理が行われ、整理の対象者には追ってメールが届くと。

数分後にメールが届きました。

5年間のShopifyでの生活はこうしてあっけなく終わりました。


ということで、私、Ryota ToyodaはShopify Japanを8月末に退社しました。この記事で、はじめて私のことを知る人もいるかもしれないので、簡単な自己紹介をすると、Shopify Japanに2017年に日本3番目の社員として入社し、Shopifyでは中小企業向けのプロダクト(いわゆるShopify)の日本向けのマーケティング全般を担当しておりました。日本でShopifyがゼロの状態から、コロナ禍を経て、今の姿になるまでを見ていた唯一の人物です。

さて、話を戻すと、自分の所属していたGrowth Marketingのチームはリードごと吹っ飛び、ヨーロッパの同じチームもチームごと消えるという絶対にクビしか待っていないゲームに巻き込まれてしまいました。会社からレイオフの通知が来た翌朝にTwitterに投稿したら、想像を超える多くの反響をいただきとても嬉しかったです。DMでも多くメッセージをいただき、お声がけをしていただいた企業さま、本当にありがとうございました。

これまでずっとキャリアやShopify Japanについて記事にしようと思っていたのですが、多趣味だったり他の個人的なプロジェクトがあったりで全然書けず。ただ30歳になったタイミングで20代との訣別という意味を含めて、久しぶりに新しい記事を書きたいと思います。基本的には下のリンクの続きです。ただ、Shopifyがどうやって成長したのかや、どうやったらパフォーマンス面ではクビにならなかったのかなどの話も書きたいと思います。レイオフの話は長くなりすぎるので書きません。あまり話せないことも多そうなので、文字に残すのはやめておきます。
(本当は11月に出そうかと思ったのですが、なんかめちゃくちゃ忙しいし、ポケモンを買ってしまったしで、全然筆が進まなかったんですけど、なんとか出せるレベルにはまとめました)

Shopifyに正社員として入社

2017年からShopify史上初となるグローバルでのインターンシップを数ヶ月行い、晴れて2018年4月に正社員になるチャンスをいただき、フルタイムの仕事をゲットすることができました。

最初の肩書きは「Content Strategist」。誰も聞いたことのない肩書きでしたが、そう言われたのですから、そうなるしかないのです。コンテンツマーケティング担当の人の肩書きです。そして、本来なら新入社員はカナダへのオンボーディングに行くのが通例だったのですが、すでに入社の時点でたくさん仕事を抱えていたので、これもおそらく史上初でスキップさせてもらいました。本当は行きたかった。

というのからもわかるように、本社もあまり日本チームに関して口出しはしてこなかったようですね。そもそも2017年には「Shopifyの管理画面が多言語化することはない!」という話も聞いていたレベルで、会社もあくまで英語圏中心で考えていたようです。当時は日本にチームがあることを知らない社員がほとんどでしたし、とにかく結果を出せば良いという感じだったのでしょう。

Shopify Japanの礎を築いた人たち

2018年はとにかく自分ができることをやりました。Content Strategistなんていうのはただの肩書き。当時のShopifyは日本ではまだまだ本当に無名のプラットフォームなので、できることは無数に存在します。

上を見上げると、BASE、STORES.jp、カラーミーショップ、MakeShop、EC-Cube、FutureShop、ショップサーブなどなど大小名だたるECプラットフォームが存在していて、Shopifyは明らかに一番下。そして、すべて国産で英語の「え」の字もない。ただ、前の2つ以外はどこも老舗のプラットフォームで、真新しさはない。そこにチャンスがあったような気はします。ちなみに、MagentoやWooCommerceはEC業界の中での知名度の割には使っている会社も少なく、ほとんどベンチマークにしたことはなかったです。

肩書きであるコンテンツマーケティングには労働時間の2-30%しか使わず、他の時間で本国のチームとの広告の打ち合わせ、新しい機能の翻訳とレビュー、セミナーの主催やサポート、YouTube動画の撮影と編集、動画に字幕をつける作業、プロダクトマーケティング、PR、メールマーケティング、SNSなど、マジで色々なことをやらさせていただきました。人生初のカナダにも3回くらい行きました。今まで自分はアメリカのカルチャーに浸かって育ってきたので、アメリカ至上主義的な面はあったのですが、今はカナダも大好きです。気候さえどうにかなればアメリカより住みたい国です。人が本当に優しいのも最高。

初期のInternational Team
カナダでは繋駕速歩競走が行われています。(これを一発で読めるあなたは競馬狂)

また、2018年は日本にマーチャントをサポートするチームがなかったので、業務時間の隙間を見てマーチャントへのカスタマーサポートも対応していました。

ちなみに、これは個人的に考えていることなのですが、SaaS系のサービスの場合、どのような社員でも一度はカスタマーサポートを通るべきだと思っています。プロダクトへの理解度や解像度が上がりますし、実際のユーザーの声というのが一番大事です。いくらデータを分析しても、なぜその行動に至ったのかという「感情的」な部分だったり、彼らが本当に何を求めているのかというのは、実際のユーザーとの対話でのみ知ることができます。自分の場合は、数ヶ月のカスタマーサポート生活(深夜近くまで返信したことも多々)が、その後のShopifyでのマーケ施策やコピー作成、プロダクトのローンチなどにおいて非常に役立ちました。例えば、日本向けに機能をローンチしたり、日本語版のローンチを優先してもらうときには、自分が日本のマーチャントの代表となって、日本のマーチャントの特性であったり、なぜその機能が必要なのかというのを言語化できなければなりません。本国の担当者は日本のマーチャントというものをまったく知らないのです。なんなら北米のマーチャントと属性は同じだと思っている人も多いです。そういうときに、実際のマーチャントとの対話を通して得た知識というのが、大変役に立つというのを学びました。

2018年はShopify Japanにとってもチャレンジングな事を多く行い、Unite Japanの開催だったり、表参道でのポップアップも開催しました。ポップアップに関しては、今日同じことをやったら人が集まるのでしょうが、当時は本当に集客に苦労しました。そもそもShopifyの知名度が低すぎて、知り合いやマーチャントさん以外がふらっと立ち寄れる空気になかったのだと思います。でも、もしかしたら、0.1%くらいは認知度向上につながったのかもしれないです。今となっては知る術もありませんが(そして当時はデータサイエンティストのリソースなどもなかった)、一見無駄に見えるようなことでも「やり切る」って大事なのかもしれないです。めっちゃ体育会系の意見ですね。

ポップアップ(そういえばタイトルのデザインもした覚えが…)

Shopify、流行ってる・・・?

Shopifyのマーチャント数は右肩上がりで増え続けていましたが、2019年はEC関係者の知名度は上がりつつも、EC事業者からの知名度はまだ低かったです。自分の肩書きもIntegrated Marketerとなり、さまざまなチャネルを駆使してShopifyというものを日本で広める第一人者となりました。表には基本的に出ませんでしたが、Shopifyパートナー以外のことにはほぼすべてで関わっています(ShopifyではECサイト制作会社などShopifyに公式登録して活動している会社をShopify パートナーと呼んでいます)。また、引き続きローカライゼーションもひとりでやっていたので、自分のセンスで日本のマーチャントさんの満足度が決まるという面白い経験もしました。

その中でも特に思い出深いのは増税と軽減税率への対応と、ガイドブック作成です(Integrated Marketerぽくはない)。増税に関しては、Shopify側で日本のマーチャントの税率を自動更新するという簡単そうに見える対応をしましたが、ローンチをミスった時点でマーチャントの怒りを買って死亡する激ヤバ案件です。何事においても信用を失うのはかんたんで、信用を得るのはめっちゃ難しいのですよね。結局、大事になることはなかったので良かったのですが、本当の本当に税率を変更するチームが増税の大事さを理解しているのかなどの確認は相当気を遣ってしまった案件です。

ガイドブックは、実はShopifyが日本に来た直後にはShopify Plus PartnerのFlagshipさんが自前でガイドブックを作ってくれたり(初期には大変助かりました)、ARCHETYPさんがマニュアルを作ってくれたりしたのですが、管理画面のデザインが変わり、機能も大幅に増えたし、将来的にユーザーが増えたとき用に新しいのを作った方がいいよねということで作成したものです。EC初心者向けに作成をしましたが、中身の執筆とスクリーンショット撮影はすべて自分で行いました。ヘルプを要請できる人もいなかったので…。ウルトラ大変だったけど、これのあるなしを長期的に見るとある程度は日本市場へのインパクトも与えていたとは思うので、良い仕事だったとは思います。

また、2019年には多くのオフラインのセミナーなどを開催したり(いくつかは自分で主催させていただきました)、Shopifyよりも遥かに有名なテック系企業の皆さまに名前を借りてイベントを共催したりなど、認知度向上を目的に多くの施策を試しましたが、爆裂にお金を突っ込まない限り、プロダクトが一朝一夕で有名になることはなかなかありません。しかし、2020年の1月から風向きが変わり始めました。

Shopify パートナーの盛り上がりがすごい。

昔からShopifyを信じてオンラインでShopifyのことを発信してくださるパートナーさんというのは一定数いましたが、2020年に入ってから急激に「Shopifyが伸びてる」、「Shopifyが人気」という声が聞こえるようになったのです。

エゴサマシーンなので、当時は毎日のように「Shopify lang:ja」と日本語のShopify関連のツイートを調べていたのですが、2020年に入ってから明らかに風向きが変わりました。

2022年と比較すると雲泥の差だが、当時は最高値をつけていた

もちろん、盛り上がりを発信しているのは、マーチャントよりもパートナーさんが多いので、まだマスに向けて広がっているという実感はありません。ただ、明らかにShopifyを取り巻く環境が変わり始めていました。

ひとつ物事が好転すると、連鎖反応のように追い風になるようなことが起こります。その盛り上がりを嗅ぎつけたのかはわかりませんが、2月上旬にWBSがShopifyのことを特集してくれたのです。アマゾンキラーというタイトルで。これに合わせ、他のメディアもShopifyを取り上げるようになり、微々たるものですが、確実に知名度は上昇していきました。

ShopifyをCEOに直訴して日本に持ってきた男 マーク

国内で確実に知名度が上がっている中で、起こったのが新型コロナウイルス感染症の拡大。ダイヤモンド・プリンセス号の話題が毎日出ていたのも同じくらいのタイミングです。その後はご存知の通り、世界中でEC業界が爆伸びし、Shopifyも国内外で信じられないレベルで伸びましたが、実はコロナの少し前に兆しがあったというのはここで伝えておきたいです。

Growth Marketerとして

そんなこんなでContent StrategistからIntegrated Marketerというロール名に変更になり、2021年にはGrowth Marketerとして180°異なる分野に挑戦していました。日本チームがShopify Plusのセールスが中心になる中で、唯一と言って良いレベルで、引き続きSMBsの獲得を担当となり、日本の中では異質な存在になりました。会社の組織再編に合わせてコンテンツマーケターとして生きていく道を提示されましたが、これを断りまったく新しい道での挑戦です。

自分が3年以上担当していたShopify ブログは後任に委ねました。ブログのトラフィックは自分がはじめたときの数百倍になり、EC業界では当時は最もオーガニックで訪問者を稼いでいるメディアに成長しました。自分が育てた子供が旅立つ瞬間を見るのは辛いかなとは思いましたが、後任に委ねた瞬間に特に気にならなくなったというのは、子供が親離れをしたときの親の気持ちなのでしょうかね。

Growth Marketerの主な仕事はコンバージョンファネルの改善、そしてそれを達成するためのテストの企画と遂行。引き続き検索広告やSNS広告には関わっていたり、自発的な翻訳チェックは行なっていましたが、3-4年前と比較するとグッと担当領域が狭まっています。

Shopifyも巨大な組織になりました。スタートアップ的な勢いはなくなり、巨大テック企業へ向かっているのを体感できました。それにあわせて日本チームも拡大し、組織全体も複雑になり、各領域のステークホルダーがより明確になり、「日本でこれローンチしたいけど、その辺のエンジニアに頼んでやってもらって良いよね?」というような身軽さはなくなりました。おそらくそれでも他の企業に比べるとスピードは速いんでしょうが、初期のスピード感が好きな人はあまり面白くないでしょう。そのタイミングで昔からいる社員の多くが会社から離れたのも事実です。Shopify Japanを立ち上げたカントリーマネージャーもこのタイミングで辞めました。

完全に新しい分野の仕事は大変であると同時にとても楽しく、自分が比較的全ての分野に精通していたのもあり、APACとEMEAをあわせたGrowth Marketingチームの中ではメンター的な立場にもなりました。おそらく当時の同僚に話をしたら「Ryotaはめっちゃ頑張ってたよ」って言ってくれると思います。

Growthチーム全体の中で賞をもらったり

新しい分野を極めるのは素晴らしいことで、そのような機会をこの後の人生でもらえるかはわからないとは言いつつも、実際のところは、転職のタイミングを探さねば・・・と思っていたのも事実です。実はコロナの前には東京五輪を見届けたら転職しようというのは思っていました。コロナで状況が180°変わった上に、東京五輪が1年延期になったので、計画自体は崩れたのですが・・・。

Shopifyは本当に素晴らしい会社で、働く人もみな優秀。この先の人生でこれより良い会社に巡り会えるのだろうか?というくらいの会社です(現在のShopify Plusチーム中心の体制は分かりません。個人的には完全に別企業だと認識しています)。だからこそ、そこでぬるま湯に浸かってしまっていては、逆に自分のキャリアを破壊することに繋がりかねない。同じ会社に10年も居続けてチームを持っていないようなキャリアの男に対して会社はどのような価値を見るんだ?という話です。前カントリーマネージャーのマークにも同じことを言われていました。知り合いにもそういう話はしていました。ただ、決心がつかない。そんな葛藤も頭の片隅に抱えていたら、レイオフの対象になり、チームもろとも解体となってクビになってしまいました。🥲

なぜShopifyが有名になったか

多くの人がなぜShopifyがここまで日本で成長したのかと気になっているとは思います。もちろん、まだEC事業者以外の知名度は皆無ですし、結局のところマス向けのプロダクトはまだ日本でローンチできていないですし(超絶便利なShopアプリなど)、全国的なキャンペーンもやれなかったので、伸び代もあるという点を含め天狗になってはいけないとは思いますが、個人的な意見がありますのでここに記します。

  • パートナー戦略がうまくいった

  • ミニマムな投資でチームを作れた

  • マーチャントとプロダクトを作り上げれた

  • インハウスでローカライゼーションができた

  • 競合が舐めていた

この5つかなぁと思っています。もちろん新型コロナという追い風はありますが、あれがなくても、将来的には今のような地位を確実に築ける状態にはあったと思います。

下に簡単に書き記します。

パートナー戦略がうまくいった

Shopifyのことを初期から信じてくれるパートナーさん(制作会社や開発者)がいて、彼らがShopifyに代わって継続的に情報の発信をしてくれたり、新規マーチャントの獲得をしてくれたりしたことが本当に大きかったです。当初は日本語もままならない英語圏向けのプラットフォームだったのにも関わらず、そのデメリットを上回るメリットを提示して、Shopifyのことを広め、多くの事業者を獲得してくれたというのは本当に頭が上がりません。そして、初期から活動するパートナーさんが野心の大きい素晴らしい方々だったというのも本当に幸運でした。パートナーさんと一緒にShopifyは大きくなれたという側面は非常に大きいです。

ちなみに、2022年現在でもShopify領域というのはレッドオーシャンに見えたブルーオーシャンだと思います。まだまだShopify関連の事業で成長する余地はあると思うので(むしろこれからが本番かも)、気になっている方はぜひご検討ください。ただ、日本チームがPlus中心になっているため、自分の力で切り拓くような体力が必要です。

カナダ大使館でパートナーの説明会をやったり

ミニマムな投資でチームを作れた

大きめの外資テック系では珍しい超少人数で2-3年活動でき、その間に地盤を固めることができたというのも今の成長につながっていると思います。2017年はカントリーマネージャーと、パートナーマネージャー、BDマネージャーと自分のみが日本チームの社員で、シニアポジションの人材を入れ始めたのはしばらくしてから。社内スタートアップのような感じで結果よりもチャレンジが優先されていたような時期でした。

どういうことかというと、最初期に多大な額を投資してしまうことによって、結果を求められるスピードも同時に速くなる=損切りのスピードも速くなると思うのです。たらればであるとは思いますが、2017年の時点では日本向けに5%のプロダクトしか持っていなかった、2018年でも2-30%くらい。その段階でいきなり100やるみたいな参入の仕方をしてしまったら、上に挙げたパートナー戦略も中途半端になっていたと思いますし、PMFもままならないプロダクトに失望するリテンションしないマーチャントを多数獲得して、投資を縮小するということも考えられたはず。その中で、少人数でしっかり日本での地盤を築き、マーチャントとパートナーと信頼を構築し、内部でマーチャントの意見を聞きながら、プロダクトをゆっくりだけど来たる日に向けて着実に開発していけたことは「今」につながっていると思います。

マーチャントとプロダクトを作り上げれた

初期はマーチャントさんのフィードバックを聞きまくっていました。次の項目で翻訳については書きますが、プロダクトの機能面に関しても、なるべくマーチャントさんの意見を吸い上げながら一緒に作り上げてきたという感覚はあります。

また、最初期ではあまりにもShopifyの機能が足りなかったので、日本のマーチャントさんが機能を補完するアプリを作ってくれたとこもしばしば。社員だけではなく、マーチャントの皆さんも主体性を持っていただいて、Shopifyがより良いプロダクトになるのを手助けしてくれたのは、本当に感謝です。もちろん、すべての要望を叶えることができたわけではないのが心残りですが、常に良いプロダクトを提供したいという思いで活動していました。

インハウスでローカライゼーションができた

日本進出にあたり社員自らプロダクトをローカライズするテック系企業ってほとんどないと思います。Shopifyはそうでした。もちろん、直近では大部分の翻訳の実務は外注してますが、最初のグロッサリーと翻訳の指示書は自分で作りました。4年近く経った今もある程度は踏襲されているはずです。社員(自分)が常に翻訳の品質をチェックし、場合によっては変更し、さらにユーザーからの意見や文句を吸い上げてすぐに適用させる、この流れというのは日本で有名じゃない外資テック系が成功するには必須だと思います。

社員が関わるのが何が良いかと言うと、翻訳会社では不可能な翻訳というのができます。翻訳会社は、あくまで指示に従って翻訳をするだけ。指示がないと逸脱はしてくれないのです。ただ翻訳と日本向けの言語に関するローカライゼーションは異なります。例えば、"Learn more"というCTAのコピーも、普通の翻訳では「さらに詳しく知る」となると思いますが、日本人から見たらまだ少しおかしい。ここを「詳細はこちら」とか「もっと詳しく」とCTA向けにさらに日本語としてスムーズにしてはじめて完成なのです。他にもっと良い例があるような気はしますが、こういうことの積み重ねで日本語として違和感のないプロダクトができていくと思います。

また、そのような翻訳を常にチェックする人がいて、おかしなことがあったら即座に修正する。ユーザーというのはミスにはすごく敏感で、1回のミスを挽回するためには、5回くらい連続で成功しないといけないのです。改善がなかったらさようならの世界。それがShopify初期の段階では、ユーザーの目に届く前に避けることができていた(ことが多かった)というのは、不必要な信頼の喪失というのも避けられて、リテンション率にもある程度は貢献していたと思います。

競合が舐めていた

正直な話、おそらく競合には舐められていました。2018年の2-30%のプロダクトの時点でも、国内の他のプロダクトと比較したら機能自体は上のはず。しかし、多くの競合は、Shopifyは英語が使えないとダメ、越境向きのサービスで国内販売は無理というスタンスを崩さずに、Shopifyを特に敵対視すらせずに、自社のプロダクトを改善しようとしなかった。さらに、いくつかのサービスは、昔からいるユーザーをいかにプロダクトの改善以外の点で自社に留めておくのかというところにも集中していたように見えました。

その結果、Shopifyが徐々にPFMをしてマーケットに順応してきたタイミングでは、真新しさも含めて、Shopifyに軍配が上がることになったと思います。ユーザー側も、日本の昔からある使いづらいサービスと、海外からきた日本語でも使える使いやすいサービスだったらどっちを使うかと言えば、主体性を持って選べる環境にあれば、後者を使いたくなると思います。日本人としてはありがたいことではないのですが、レガシーにすがっていた競合があったのもShopifyの成長にもつながったのではないでしょうか。

この先生きのこる

さて、Shopifyというのは、他の外資テック系と同様かそれ以上に人を切ります。ローパフォーマンスでクビになる会社です。それだけ優秀な人が集まり、常に成長をしている会社なのです。

私も、一緒に仕事をしている人が切られるのを何度も見てきました。結果的に自分はパフォーマンス外の要因でクビになってしまったのですが、自分のパフォーマンスは常に高い評価を頂いていたとはいえ、そんな状況に身を置いたら1日たりとも油断はできません。人によって意見は色々あるとは思いますが、個人的にどうやって外資系未経験の普通の人が5年近くも生き残れたのかを少し書き記したいです 🍄(マネージャーレベルだと政治的な話などが出てきて違うとは思いますが、シニアレベルだったらある程度は外してないと思います。

主体性を持って動く

当然なので詳しくは書きません。自分で仕事を見つけて、自分で学び、指示を仰がずに仕事を終わらせて結果を出す。そもそも主体性を持っていないとこの業界では生き残れないとは思います。

24時間モードで働く

業務効率化とスピードを求めるには、日本時間の9時18時だけ働くのではなく、24時間モードで働いた方が良いことがあります。これは決して仕事量の話ではありません。いかに最短ルートで目的地に辿り着けるかの話です。

例えばABテストの実装をしたいと仮定しましょう。
もし自分が日本時間の9時18時のみで働いている場合…

1. 日本時間のお昼に北米の社員にテストの実装のお願いする(日本時間1日目)
2. その日の深夜に北米の社員がテストへの質問をしてくる(1−2日目)
3. 日本時間のお昼にその質問に回答する(2日目)
4. 回答をもとにその日の深夜に北米の社員がABテストのステージングサイトを送ってくれる(2-3日目)
5. 日本時間のお昼にステージングサイトを確認してGoを出す(3日目)
6. その日の深夜に北米の社員がABテストを実装してくれる(3-4日目)
7. 実装の確認(4日目)

とお願いしてから3日経ってから実装となってしまいますが、これが24時間モードで働いていると…

1. 日本時間のお昼に北米の社員にテストの実装のお願いする(日本時間1日目)
2. その日の深夜に北米の社員がテストへの質問をしてくる(1−2日目)
3. 質問されたタイミングで即回答(1−2日目)
4. 回答をもとにその日の深夜に北米の社員がABテストのステージングサイトを送ってくれる(1-2日目)
5. ステージングサイトを即確認してGoを出す(1-2日目)
6. その日の深夜に北米の社員がABテストを実装してくれる(1-2日目)
7. 実装の確認(2日目)

と、仕事のスピードを2日早めることができます。

24時間モードではない状態で、このテストの実装を日本時間の水曜日にお願いした場合は、金曜日に実装ができず、日本時間の翌週月曜日は向こうの日曜日のため、テストの実装が日本時間翌週の火曜日となってしまうこともあります。

この時点で、何時間無駄にしてるのって話になり、そもそも業務が進みません。そして、業務が進まない時点で、仕事量や成果も低くなってしまう可能性があります。時差というのは怖いもので、時差通りに仕事をしていると、簡単に時間を浪費してしまいます。深夜まで働いて、本社の人から「早よ寝ろ」と言われるくらいになってこそ一流です。

チーム外の人と仲良くなる

チーム内の人と仲良くするのは当たり前。どれだけ気が合わなくてもプロである以上、そんなことは関係なく協力するべきです。それ以外にもチーム外の人と仲良くなることも大切だと思います。チーム外の人(特に同じレベルの人)と仲良くなることで、急なお願いや、相手の通常業務外のお願いをしやすくなります。さらに、相手にも存在を意識づけておくことで、「日本のことはこの人に聞けば良いんだな」という認識が生まれ、結果的に彼や彼のチームに日本に関わるような仕事が生まれたときに、自分の存在を思い出してくれ、仕事が舞い込むようになります。本社の人は日本にオフィスがあることを知らない人も多いので、そのようなときに自分に仕事が入ってくるようになると、結果的には無駄な手間が省けて(後追いでの翻訳編集など)、後々楽になったりします。さらに360°評価の際には、チーム外の人からも高評価を得れれば、「こいつは頑張ってるな」となるはずです。少なくとも自分の場合はそういう感じでした。これが、マネージャーレベルになったら、こんなに簡単にはいかないのでしょうが、下っ端ならこれくらいで十分です。

チーム外の人に自分が何をしているのかを知ってもらう

チーム内は当たり前。もし、それができてなかったらクビへまっしぐらです。それだけではなく、日本国内外関わらずに普段は関わらないようなチームの人にも、この人は何をしているんだというのを知ってもらうというのが大事です。

この世界では「何かをしていても何をしているか知られていない=何もしていない」です。何もしていない人は当然評価は下がります。では、どうやって知ってもらうか…

  • 社内のイベントや情報共有の場、ミーティングなどでの登壇

  • Slackなどで積極的に情報発信(月間・四半期のまとめや、Winなど)

  • 自分の関わりそうな領域の社員に積極的にアプローチ(質問)

  • 自分で社内イベントや勉強会をホスト

色々あります。自分みたいな人間でもなんとかなりました。しっかりと自分の存在を色々な人に植え付けるのは生き残る術だと思います。

次は何をする…?

レイオフになった後から、自分は本当は何をしたいのかというのを色々と考えました。幼い頃からこれと言った夢はない中で、こんなに素敵な会社で働かせてもらいました。ただ、今までの仕事と、自分の生まれてからの行動指針、そして何が好きで何が嫌いかというのを照らし合わせてみたら、自ずとどういう軸で仕事をしたいのかというのは見えてきた気がします。

私は体制や伝統というのが嫌いです。決してラディカルな意味ではないのですが、昔からの伝統にしがみついているこの世の仕組みや、サービス、人間というのが大嫌い。そして、そういう世界を変えて、より良い世界にしたいという思いがあります。

この話をプロダクトに置き換えても同じ思いです。テック業界やEC業界ではもっと良いプロダクトがあるのに小手先だけの技でユーザーを留めようとする例がいくつもあります。ユーザー側もしょーもないプロダクトに固定費をたくさん払って使用し続け、プロダクト側にろくなアップデートもないまま時代に取り残されていく。そして時代の遅れに気づき、時代に追いつこうとプロダクトを移行しようとしたときにはとんでもないコストがかかるから、結局元のプロダクトに居続ける。見ていると泣きそうになります。もちろん、好き好んでそのプロダクトを使う人もいるという事実もあるので、お節介にはなりたくない思いをありつつも、そういう人を減らしたい=既存の体制や伝統を打ち破りたいという思いがあります。

Shopifyでは、それができました。日本の相互不可侵な状態にあって、プロダクトにまともなアップデートもなかったり、めちゃめちゃ高いお金を払わされてユーザーが困っているという、EC業界を少しは変えることができました。なので、今後もそういう既存の体制をプロダクトを通して変革していき、より良い世界を作れたらなと思います。自分はpi-shaped型の人間なので、プロダクトの0-1や1-10、マーケに誰もいない会社や、日本進出してきたような会社の方がやりやすいのかなと思います。

最初の会社が外資系だったので、外資系中心になってしまうとは考えていましたが、決して日系がダメではないというのもこの何ヶ月かで気付きました。いわゆるJTCみたいな会社は、多分息が詰まってしまうでしょうが、長い人生一度は働くのもありかなとも思います。また、自分は決して起業家ではないので、どこかの会社に雇われる運命かなとは感じます。

この記事を執筆している時点では、業務委託という形で企業さんのグロースに携わっていたり、ローカライゼーションなども関わっていますが、テック系で考えると今は転職には良いタイミングではないということもあり、今年度中はこういう感じで働く予定です。しかし、その後何が待っているのかはまったくわかりません。Timing is everythingというのはよく言ったもので、周りのレイオフになった人も、素晴らしい役職に就いたりしています。自分の場合は、まだtimingが来ていないのか、それともtimingを逃しまくっているのかはわかりませんが、自分が思うtimingが来たらその道を突き進もうかと思います。

万が一、私のことを知りたいって方がいたら、TwitterとLinkedInのリンクを貼っておきますので、覗いてみてください!レイオフ直後は、信じられない量のメッセージが来て、対応が薄くなってしまったりしましたが、今は誰からもメッセージが来ないので(バズの力は恐ろしい)、もしお話ししたいみたいな方がいましたらご連絡ください。Shopifyって働くとどうなの?みたいな話でも大丈夫です。

https://www.linkedin.com/in/rt18/

ちなみに仕事以外だと、毎年テーマを決めて100以上のお店で同じものを食べ歩いています。2022年のテーマは生姜焼きでした。こちらのまとめ記事も年明けにnoteで出すのでぜひ見てやってください。結局114生姜焼きを食べました。

↑昨年の。

では、最後にレイオフになったときにチームのチャンネルに上げようとしたgifでお別れしましょう🌱 読んでいただいてアルティメットありがとうです。

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