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第18話 いい天気

 今日はとてもいい天気。

 隣の道の駅からは朝からバンドの声が聞こえて来て賑やかだし、涼しくてポカポカしている。昼休みは散歩するようにしている。特に、天気のいい日は散歩日和。

 いつものコースをいつものように歩くだけ。しかし、そのコースの途中には私だけが見ている生物や植物たちがいる。そんな彼らとの日常を少しお話してみようと思います。

 まず、当館の敷地を出て歩道を歩きますとすぐ脇に水田が広がり、この時期には小麦を植えるので、その芽がちょこちょこと出始めています。

 そして、その田んぼの手前の土の隙間にこの時期にはツノゴケ類が少しずつ成長をはじめます。ツノゴケ類というのは、私が好きなコケなのです。コケというのは蘚苔類と言いまして、蘚類(せんるい)と苔類(たいるい)とツノゴケ類の3つに大別できるのですが、このツノゴケ類というのはなんとも変わった蘚苔類。姿形は苔類のようだけど、変な角みたいなのが出ていて異彩な感じです。

ツノゴケ類(たぶんニワツノゴケ)

 以前、蘚苔類(コケ)の企画展を作った時に最後までこのツノゴケ類が見つからなくて困っていたら隣の田んぼに生育していたので、その時からここのツノゴケ類は顔馴染みです。「今年も無事に出始めましたか!よしよし」と思いながら再び歩き始めます。

 その先には小さな川がありますので、その小さな川の小さな橋を渡ります。その橋の上から川の中を覗きこむと、オオカナダモという外来種の水草が所々に繁茂していて、その隙間にアブラボテという魚たちが見え隠れしています。

橋の上から見た小さな川

 この魚は二枚貝に産卵するのですが、この川の川底はニセマツカサガイという二枚貝が多数生息していまして、それに産卵するのでしょう。ここの二枚貝は以前、淡水貝類の企画展を作った時にここで見つけたのです。また、カワニナという巻き貝も多数生息しています。この貝は言わずと知れたゲンジボタルの幼虫の餌となる貝です。
 
 そんな小洒落た川の中を見た後は、車が来ないのを確認して道路を渡って、水田の間の小道に歩みを進めます。渡った先の道の脇にはいつもイシクラゲがゴミのように溜まっていて、それをツンツン触るとブニョブニョしていて変な感触がします。雨が降らないとカラカラに乾燥して、海苔みたいにパリパリしますけど、今日はブニョブニョしていたので、少し得した気分です。

イシクラゲ

 しゃがみこんだその位置から見る華山がとても雄大で綺麗なので、いつもそこでちらりと華山を見上げます。

華山(げさん)

 そして、水田と水田の間の小さな道を歩いていると程なく左の水路に大きなマスがあります。ここは用水路に水がない時期でも常に湧き水か、染み出し水のお陰で水で満たされていてカワムツやアブラボテ、ドジョウなどの魚が元気に暮らしています。その様子を上から覗き込み、「おっ、今日も元気にしてるな、よしよし」と思いながら、その様子をしばらく見てみます。

水が溜まったマス

 しゃがんだ脇のこのマスに注ぐ小さな水路の石をめくってみると大きく太ったゲンジボタルの幼虫が姿を現します。いつもの要領でゲンジボタルの幼虫をムニョムニョとつまんで匂いを出させてその匂いを嗅ぎます。「相変わらずの匂いだな」と確認します。そして、幼虫を元にポイっと戻して、また歩き始めます。

ゲンジボタルの幼虫

 水田と水田の間の道を歩いていると見たことがないトビケラだかカワゲラだかの成虫が群れて飛んでいます。こんな時期に成虫が出るんだな~とその様をしばらく見た後、そこからは一目散に一気に歩みを進めて、ミュージアムに戻ります。

 まぁ、だいたいそんな散歩を毎日していると、いつも見ている顔馴染みやそれを取り巻く環境の変化を感じます。そろそろ寒くなってくるだろうし、寒い時期しか見れない生き物達も出てくるでしょう。
 
 そして、最近は次の企画展のために地衣類を勉強しています。すると、これまでただのシミや汚れと思っていたものが、地衣類であることがわかってきました。「へぇ~、これも地衣類だったのか~、あ~、あれも立派な地衣類なんだな~」といった具合です。

 また、いつもの同じ散歩コースに顔馴染みが増えました