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妄想アマガエル日記(66)-7月15日(月)雨

真矢と別れて穴の奥に進んで行くと、その先は光がまったくない真っ暗闇であった。外からの音も聞こえず、ヒンヤリとしたコンクリート製の地面は、さらさらとした細かい砂埃を覆っていて、その感触のみが感じとれた。カエルたちのピタっピタっと歩く音のみが響いていた。

先頭を歩く与助が周りを見回した。
「そろそろ右に曲がらないといけないと思うんだけど、なかなか道がないな。。。」

「ほんとだな~~、、これまでの道には横道らしいのはなかったからね。」
銀次郎も周りを見回していた。

少し進んだところで銀次郎が座り込んだ。
「あっ、ここに小さな穴が開いているけど、、、もしかして、これが横道なんじゃない??」

「えっ、、こんな小さな穴が?」
与助が振り返って、座り込んでいる銀次郎の上から覗き込むようにして言った。

「とりあえず、入って確認してみるよ。」
銀次郎がそう言って、頭を無理やり押し込んで、その後 体をまっすぐにしてヘビのように体をくねりながら穴に入っていった。

「あっ、、穴の中は立てるくらい広くなっていて、結構先まであるみたいだよ!!」
その小さな穴から顔を出して、伝えてきた。

「でも、、、こんな穴だったら、日出夫は入れないだろ?」
「真矢さんも、日出夫がいるのは知っているわけだから、こんな穴だったら最初に言うだろ?」
小太郎が後ろから与助と穴の奥にいる銀次郎に言った。

「まぁ、そうだよね。。。」
与助は小太郎が言う前から同じことを考えていたが、一応、納得したような返事をした。

「まぁ、でもさ、、、せっかく入ったからさ~。。少しこの穴の先を見てくるよ!!」
銀次郎がワクワクしている様子を他の皆はわかっていたので、誰もそれをとめることはなかった。



「なかなか帰ってこないな~。。。」
与助が銀次郎の帰りが遅いので、少しイライラしてきていた。

「ほんとだな~。。もう15分くらいは経つよな~。。」
小太郎もイライラしてきていた。

「でも、、、もしかして、道に迷って、、干からびてしまったんじゃないの??」
花子が心配そうに、イライラしている与助と小太郎に声をかけた。

「えっ!!!さすがに15分くらいだよ?干からびはしないでしょ??」
「なぁ、、小太郎?」
与助が少しうろたえながら答えた。

「あ、あぁ、、、。さすがにそんな短時間で迷子になって、干からびるなんてことはないだろ??」

「でも、、、ほら、真矢さんが言っていたでしょ。道に迷ったら干からびるって、、、確かに、この地面はコンクリート製で砂埃がすごくて水分持っていかれるわよ!」

確かに、、、もしかしたら、、この穴の奥はもっと乾燥しているかもしれないな。。
与助と小太郎は花子の言うことに納得して、少しずつ心配になっていた。

「おーーーい!!銀次郎~~」
「大丈夫かーーーー」
「おーーーい!!」
与助と小太郎が穴の中に向かって声をかけた。

シーーーーーーーン

まったく、返事がない。
「ちょっと、俺が見てくるしかないな!!」
与助が意を決して、穴の中に入ろうとした。
その時、穴の奥から何やら、音がした。

ザー、ザー、ザー、、

「ん??なんか、、、音するな?」
穴に入ろうとした与助が振り返って小太郎に言った。

「ほんとだ!!何かを引きずっているような音だな!!」
「もしかしたら、体が干からびた銀次郎が匍匐前進みたいな感じでここに戻ってこようとしているんじゃないか!!」

「確かに、、、ありえる!」
与助が振り返って小太郎にそう言って、穴に入ろうとした時、穴の中からヌッとカエルの脚が出て来た。

「オイオイ!!本当に脚が干からびているじゃないか!!」
与助が驚いて、腰を落とした。

「ほらっ、引っ張り出してやろう!!」
小太郎がそう言って、その脚の足首を持って引っ張った。案外重たく、穴に引っかかってしまって小太郎だけではなかなか引っ張り出せなかった。それを見ていた与助が小太郎の腰を持って、花子は与助の腰を持って、日出夫は花子の腰を持って、皆で力を合わせて引っ張りだした。

ウン、トコ、ドッコーーイ
ウン、トコ、ドッコーーイ

小太郎が変な掛け声を言って、皆がそれに合わせて引っ張った。

ウン、トコ、ドッコーーイ
ウン、トコ、ドッコーーイ

そーーーーーれ!!  

ポンっ!!

ようやく、穴から体が抜けて、全身が出てきた。
それは、銀次郎ではなく、見たことない大きなトノサマガエルであった。でも、干物みたいな状態だった。

「えっ!!!銀次郎じゃないじゃないか!!!」
皆でその干からびたトノサマガエルを見ながら、小太郎が言った。

「おっ!!!みんな、引っ張り出してくれてありがとう!!」
そう言って、穴の中から銀次郎が顔を出し、ヘビのように体を細くして出て来て、体に付いた砂埃をパンパンと手が叩いて落としながら、立ち上がった。

「おい!!これはどういうことなんだ??この干物みたいなトノサマガエルはなんなんだ?」
小太郎が銀次郎に問いただした。

「まぁまぁ、、説明はあとで。とりあえず、このトノサマガエルに水をあげないといけないね。」
銀次郎はそう言って、来た道を急いで戻り穴の入り口に行った。そこには既に真矢の姿はなかったが、ツユクサがいっぱい生えていた。その茎を何本か急いで取って、戻った。
そして、ツユクサの茎を1本絞り、水をトノサマガエルにかけた。

すると、
「ぶはっ!!!」
干乾びていたトノサマガエルが水を吸い、一気に膨らんて、上体を起こした。

「おっ、よかった~、生きていていたか!!」
銀次郎がほっとして、声をかけた。

つづく。