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妄想アマガエル日記(19)-8月24日(木)くもり

与助と二人で朽ち木に戻ってきた。
すると、朽ち木の前に1匹のヌマガエルがこちらを見ていた。

「あっ、あのヌマガエルはこの前 石の下にいたやつだ!」
銀次郎が思い出して、そう与助に小声で言った。

「ん?知り合いなのかい?」

「いや~知り合いってわけじゃなくて、この前朽ち木の隙間から外を見ているときに、そこの大きな石の下にいて目が合っただけなんだ。」

「ふ~ん、じゃ、知り合いってわけじゃないんだ。」
そのまま、そのヌマガエルの前を通り過ぎて、お互い隙間に戻ろうとしたところで、そのヌマガエルが声をかけてきた。

「俺は、小太郎っていうんだけど、お前俺のことは覚えてないだろ?」
小太郎が聞いてきた。

「いや、、なんとなく、見覚えあるけど。。」
銀次郎がわざとらしく、どうにか覚えているような感じで答えた。

「お前は、水の中から陸に上がる時に俺の頭を踏み台にしたのは覚えていないだろうけど、俺は忘れていないからな、、」
小太郎が恨めしそうに言ってきた。

「えっ、そうなの?確かに、あの時ちょうどいい石があると思って踏み台にしたけど、、あれは君だったのかい?」
銀次郎がまったく知らないって感じで答えた。実際に、知らないのだ。

「あ~、そうだよ。覚えていたのかい。」
「それは、話が早い。」
「お前は俺の頭を踏み台にしたんだから、一つお願いを聞いてくれ」
小太郎が、高圧的に言ってきた。

「えぇ、、、だって、わざとじゃないし。。。」
銀次郎が慌てているのを見て、与助が間に入って話しはじめた。

「まぁまぁ、話しはわかったけど、とりあえず、そのお願いというのを聞いてみようじゃないか。」

「俺は冒険家なんだ。だから、今日もいろいろなところを巡ってきた。ただな~~。あそこに黒い大きな建物があるだろ?あの上に行ってみたいんだけど、何度やっても登れないんだ。」
「そこでお願いなんだが、お前らは壁を平気で登るだろ?あれをどうやっているか教えて欲しいんだ」



銀次郎と与助がお互い顔を見合わせて考えていた。
というのも、壁を登るのに苦労したことがないからだ。
「どうやって壁を登るって聞かれてもね、、、こうやって壁に手を足を貼りついて登るだけだよ?」
銀次郎が身振り手振りで話した。

「いや、、そんな簡単に壁に手足なんて貼りつかないだろ?」
小太郎が自分の手足を見ながら言った。

「ちょっと手を見せてくれよ」
与助が小太郎に言った。

「ほら、お前らと同じ手だろ?特に、違いはないだろ?手じゃなくて、コツを教えて欲しいんだよ!!」
小太郎が呆れたように、手を二人に見せながら、言った。

その手を銀次郎と与助が覗きこんで、
「ん?、、、、吸盤がないね~」
銀次郎が言った。
「たしかに、、、吸盤がないね~」
与助も言った。

「ん?吸盤ってなんのことだい?」
小太郎が不思議そうに言った。

「ほら、見てみなよ。。。僕らアマガエルは手足に吸盤があるんだよ。この吸盤を壁に貼り付けて壁を登るのさ。」
銀次郎が自分の手を見せながら説明した。

「えぇ、、お前ら手に吸盤なんてついているのか!!」
「だから、あんな壁を平気で登れるのか。。。」
小太郎が少し悔しそうに言った。

「どうやったら、その吸盤 手につけれるんだ?」
小太郎が聞いてきた。

「そんなのわからないよ。。だって、オタマジャクシからカエルになった時にはあったからさ~」
銀次郎が少し困った感じで答えた。

「そうなのか、、、だから、何度壁に登ろうとしても登れないわけだ。。。」
小太郎が少し落ち込んでいた。

それを見て、銀次郎と与助は少し可哀そうに思えてきた。

「どうにかしてあげたいな~」
与助が銀次郎に話しかけた。

「確かにね、、、じゃ、二人でおんぶしてあの壁登ってみようか?」
銀次郎が提案した。

「そうだな~。。。面白そうだからやってみるか!」
与助もその提案に乗った。

「どうだい?僕らが君をおんぶして登るから、あの建物を登って、あの高いところからの風景を見てみないかい?」
銀次郎が落ち込む小太郎に提案した。

すると、少し考えてから、
「いいのかい?そんな面倒なことをお願いしても。。」

「いいさ。同じ夜に同じ田から陸に上がった仲間みたいなもんだし、頭踏んだお詫びもかねて。。」
銀次郎が照れくさそうに答えた。

「じゃ、お願いするよ。。。冒険家の俺は前からあの建物の上に登って、あそこからの風景をどうしても見てみたかったんだよ。。」
小太郎が嬉しそうに答えた。

「よし、じゃ、とりあえず、この辺りで練習しないといけないな。。落ちたら危ないから。」
「今日はもう遅いから、一晩休んで明日の朝から練習はじめることにしよう!」
与助が提案した。

「じゃ、僕の隙間においでよ!」
「与助の隙間より地面に近いところにあるから入りやすいし、涼しいしさぁ。」
銀次郎が小太郎を明るく誘った。

小太郎は一瞬で考えた。
コイツの寝相の悪さは異常だ。もし、寝ている時に蹴飛ばされたりしたら、隙間から落ちて怪我するし、コイツはたぶん寝るまで話しかけてくるぞ。。。いや、寝ても話しかけてくるぞ。。
「いや、、、壁を登る練習も兼ねて、与助の隙間で寝させて貰うよ、、いいかい?」

与助はその答えを聞いてすべてを悟った。
ハハァ~ン。。コイツ、銀次郎の寝相の悪さを知ってるな、、、、
銀次郎に気づかれないように答えないといけないな。
「わかった。じゃ、練習も兼ねて俺の隙間にいこう」

その答えを聞いて小太郎も悟った。
ハハァ~ン。。コイツも銀次郎の寝相の悪さを知ってるな、、、、
そして、銀次郎を傷つけないように答えてくれたんだな。

「いい奴だ!」

つづく