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妄想アマガエル日記(52)-3月27日(水)晴れ

ここ数日は冷たい雨が降っていた。しかし、今日はここ数日がウソのように雲一つない晴天だ。
地面を春の日が照らし、サクラが蕾を膨らまし、せっかちな蕾がポツポツと花を開いている。モンシロチョウがどこからともなく舞飛び、セイヨウタンポポも黄色い花を目いっぱい広げている。

春の風景が顔を出し始めた。

そして、そんな春の匂いを嗅ぎつけて、地面の下では小さな虫たちがゴソゴソと動き始め、まさに、蠢き始めた。

カエル達が寝ている穴の中にも、小さな虫たちの忙しない足跡や春の匂いが漂い始めた。

「いや~~!!!よく寝たーーーーーーーー!!」
与助が体を伸ばしながら大声で叫んだ。

「おっ!なんだ??」
与助の声にびっくりして、隣の部屋の八助が起きた。

そして、何の音だったのかわからない八助が確認するために部屋の外に出てみると、ちょうど隣の部屋から与助が出て来た。

「おっ!!八助!!」
「よく寝れたかい?」
与助が嬉しそうに聞いてきた。

「あぁ、、今まで寝ていたからね。」
「でも、なんか声?みたいなので起きてしまってね。。なんだったんだろう?」
八助が訝しそうに与助を見つめた。

「あっ、、、たぶん、それは、、俺がさっき、”よく寝たーーー“って叫んだ声じゃないかな?」
与助が申し訳なさそうに頭をかきながら言った。

「あっ、あれは君の声だったのか、、」
「起きた瞬間だったしさ、、、別の部屋から聞こえて来た声だったからさ、、、ちゃんと聞き取れなくて、、”よく寝たーー“が、、”ヘビ来たーーー“みたいに聞こえて、びっくりしたんだよね。。」
八助がほっとした。

そんな二人の会話が聞こえたのか、向いの部屋から六助と小太郎も出て来た。

「おっ!みんなもよく寝たみたいだな?」
与助が2人に嬉しそうに声をかけた。

「ほんとによく寝たよ~。初めての冬眠だったけど、あっという間だったね。ただ寝ていただけだったし。。。」
小太郎が自信たっぷりに答えた。

「ほんとだね、、よく寝た。寝違えたのか、少し肩が痛いけどね。」
六助が少し肩を回しながら答えた。

「じゃ、あとは七助と銀次郎と日出夫だけか!!」
与助が周囲を見渡しながら言うと、ちょうど七助が部屋から出て来た。

「おっ!!そろそろ暖かくなってきたし、少し腹も減ってきたから起きようと思っていたら君たちの声が聞こえてきたから出てみたら、みんなもう起きていたんだね!!」
「いつから起きていたんだい?」
七助がみんなに聞いた。

「いや、僕たちもちょうど今、起きて部屋から出てきたばっかりなんだよ。」
六助が久しぶりに会えて嬉しそう答えた。

「あっ、そうなんだ!やっぱりみんな暖かくなってきたから起きるタイミングは同じなんだな!!」
七助も嬉しそうに答えた。

「じゃ、、、あとは日出夫と銀次郎だね。」
与助がもう一度確認するように言うと、ちょうど日出夫の部屋の扉が少し動いた。

「ん??日出夫も起きたのかな?」
与助が日出夫の部屋に近づいて行った。

「お~い、日出夫~。起きているか~い?」

すると、
「あっ、、、起きているわよ♡」
「でも、今は肌のお手入れ中だから、部屋にはいっちゃダメよ~~♡」
「越冬直後の肌の手入れは、ほんと大事だから~♡」
日出夫が部屋の奥から叫んできた。

「あっ、そうなんだね~」
与助が答えた。

そして、その場にいたカエルたちは想像した。
日出夫の肌の手入れって、、いったい何をしているのだろう~??
そもそも、なんでそんなに肌の手入れをする必要があるのだろう~??
ダメと言われると、、、、見てみたい。

「ゴクッ」
その場にいたカエル達が見てみたい好奇心と葛藤していた。

それに気づいた与助が声をかけた。
「あっ、あっ、そうだ。」
「銀次郎も起こさないといけないね!!そうだ、そうだ。」

そして、与助が皆の背中を押して、銀次郎の部屋に押していった。

「お~い!!銀次郎~~。春が来たぞ~~」
「まだ寝ているのか~??」
与助が銀次郎の部屋の入口から中に声をかけた。

しーーーん

「ん?返事がないな??まだ寝ているのかね?」
小太郎が不思議そうにつぶやいた。

「ほんとだよな~。アイツのことだから、一番に起きていると思ったんだけど。」
与助が不思議そうに小太郎に相槌した。

「ん??その扉、おかしくないかい?」
七助が扉を指差して言った。

「確かに、、、扉がボロボロになっている。」
六助が扉を確認しながら言った。

「ほんとだな~。。まぁ、アイツは寝相が悪いから、扉くらいこんな感じになっても不思議じゃないんだ。」
与助が七助と六助を安心させるように説明した。

「にしても、何の音もしないのは、おかしいな?」
小太郎が与助に言った。

「たしかにな、、、ちょっと失礼して中に入って様子を見て来よう。」
与助がそう言って部屋の中に入った。

「なんじゃこりゃ~!!!」
部屋の中から、与助の叫び声が聞こえてきた。

「ん??どうしたんだい?」
小太郎がそう言って、皆が同時に部屋にはいった。

すると、そこには、銀次郎の姿はなく、壁がボコボコに凹みだらけになり、寝床はボロボロになっていた。

「オイオイ!!これは、ヘビか何かに襲われたんじゃないのか???」
八助が怯えながら叫んだ。

「ほんとだ、、これは、カエルの仕業ではないぞ!!」
七助も怯えながら叫んだ。

「銀次郎は跡形もなく食べられてしまったんじゃないか!!」
六助も怯えながら叫んだ。

「どうかな~???君たちは銀次郎の寝相の悪さを知らないから、これを見たらそう思うかもしれないけどね。。。」
「アイツならやりかねないのだよ。。。」
与助が腕を組みながら冷静にそう言った。

「ほんと、与助ちゃんの言う通りよ♡」
「銀次郎ちゃんだったらこんなの不思議じゃないのよ♡」
日出夫が顔だけ部屋の中にぬっと入ってきて、ツルツルの肌を揺らしながらそう言った。

「あっ、日出夫も出てきたんだね。肌ツヤツヤだね!」
与助が少し驚いて、明るく声をかけた。

肌のことを褒められて、嬉しそうに日出夫が顔をひっこめた。

「でもね、、、じゃ、銀次郎はいったいどこに行ったというんだい?」
六助が不思議そうにつぶやいた。

「そうだな~。。」
腕を組みながら部屋を出て周囲を見渡しながら与助が指差した。
「あっ、ほら、あそこの壁が凹んでいる!!」

「ほんとだ!!寝る前にはあんな凹みはなかったね。」
小太郎が自信たっぷりに言った。

みんなでその壁の凹みまで行ってみた。

「確かに、こんな凹みはなかったな。」
七助が凹みを触りながら言った。

その凹みのところで周囲を見渡すと、
「あっ、あそこにも同じような凹みがあるっ!」
六助が見つけて、指差した。

そして、その凹みに皆で近づいて行くと、八助が、
「あっ、あの穴の奥にも凹みがある!!」
そう言って、指差した。

「オイオイ!!もしかしたら、銀次郎の奴、、、寝ている間にあの穴の奥に転がっていったんじゃないか?」
与助が腕を組みながら言った。

それを聞いた日出夫と小太郎は、与助と同じように腕を組みながら与助の後ろから穴の奥を見つめて同時に呟いた。
「あり得る!!!」

つづく。