見出し画像

これまで、色々な企画展をやってきたので、色々な生物を解剖してきた。そのせいか、最近は全国から解剖の仕方を習いに来る学生さんたちもいるので、教える機会も増えた。

ただ、私は誰かから解剖の仕方を習ったことはないし、そのような本や論文を読んだこともないからすべてが自己流だし、使う道具も自分で使いやすいように作ったものが多いから、正しい方法なのかどうか、未だによくわからない。

でも、とりあえず出来ているからこのやり方でいいように思って、最近作った「下関の自然2」という本では、私なりの解剖のコツなども紹介してみた。

これまで、色々な分類群の生物を解剖して体の中を調べてきた。
そして、その中では印象深い生物などがいるので、それを簡単に紹介してみようと思う。

まず、解剖が一番楽でやりやすいのは、カタツムリやナメクジなどの一群であった。なぜ、この一群が楽なのかと言えば、筋肉が少ないのと表皮が簡単に破けて表皮に内臓があまり癒着していないなどが理由にあげられる。カタツムリに至っては殻を持ちあげる殻軸筋肉くらいしかないから、とてもやりやすい。体液が解剖の邪魔にならない点もとても楽である。

また、解剖の仕方とコツを学ぶにはミミズがいい。ミミズが解剖の練習に適しているのはいくつか理由があるが、まずカタツムリと同じで筋肉が少なく、表皮が破きやすい。そして、大きい。さらに、フトミミズは寿命が短い。だいたい春に孵化して、秋には死んで液体になるから、秋前くらいに採集して標本にしておけば解剖に利用しても彼らへの影響はほとんどない(カエルのように寿命が10年以上もある個体を解剖のために殺すのはなんとも後味が悪いし、影響がでる。外来種の駆除個体や養殖個体ならいいかもだけど)。さらに、ミミズの解剖では針で固定しながら見ていくが、この方法を覚えておくと、他のどの生物を解剖する時にも役に立つ。

一方で、筋肉が多くて邪魔で解剖が難しい生物といえば、ナメクジウオとヤツメウナギであった。特に、ヤツメウナギはプリプリの筋肉がなかなか外せず、いくらピンセットで取ろうとしても癒着して難しい。仕方なく水酸化カリウムで溶かしながら解剖したり、オタマジャクシに筋肉だけを食べてもらって内臓などを調べたことがあった。

また、表皮を破るのが難しい生き物と言えば、なんと言ってもカブトガニであった。通常、節足動物というのは、節の隙間などからピンセットなどを入れて表皮を外すことができるのであるが、ことカブトガニ関してはピッチリと隙間がなく、しかも硬く、節を外すことが非常に難しかった。節と節が癒合しているのもそれを難しくしている理由の一つでもあった。仕方なく、メスを使って内側を割いてどうにか解剖して神経などを取り出したが、この神経が輪っか状になっていて、大きな体をしているのに解剖がとても難しかった。

ハリガネムシも同じように隙間がないクチクラの皮膚であるが、少し切れ目を入れて皮膚を剥ぐとバナナの皮を剥ぐように綺麗に外すことができるので、それほど難しくはなかった。ただ、この生き物は想像以上に筋肉が多く、筋肉を外すのに苦労した。

さらに、解剖の前の処理が大変であった生物もいた。それは、コウガイビルやプラナリアなどの扁形動物であった。これらが難しいのは、死ぬとすぐに体をちぎってしまい、しかも細胞の破壊がこれまで経験した生物のなかで圧倒的に早く、固定液の処理が間に合わない。そのため、解剖する前の細胞を固定する方法を工夫する必要があった。色々と試して、最終的には生きているうちに麻酔をかけて寝ている間に細胞を固定するという方法を編み出して、解剖までとりあえずできることができた。皮膚が柔らかいし、筋肉は咽頭くらいしかないので、解剖自体はそれほど難しくはなかった。

また、哺乳類や魚類、両生類や爬虫類、鳥類なども一通り解剖したが、これらは案外どれも似ていて解剖はしやすかったが、両生類のオタマジャクシだけは少し難しかった。特に、オタマジャクシの骨を取り出すのにはなかなか苦労した。なんと言っても柔らかいのである。。

そして、これまで色々な生物を解剖したが、私がもっとも多くの個体を解剖したのは、なんと言っても「ゲンジボタル」である。この生物は骨の髄まで見てやろうと思って、解剖して調べ尽くしてきた。だから、今では顕微鏡が無くてもある程度の解剖ができる。それには、組織切片や電子顕微鏡、μCT、触角電図などの力も借りて、彼らの体を詳細に見てきたから、それらを頭の中で統合して彼らを見ることができるからのように思う。

私は、別に解剖が好きなわけではないけど、生物を殺すのが得意ではないから死んでしまった生物から展示物やデータを取らないといけない。そのため、仕方なく解剖しないといけない羽目になったわけである。

だけど、今となっては色々な生物を解剖して見て来てよかったように思う。彼らが歩いているところや泳いでいるところを見ながら、彼らの体の中の動きを少しだけ想像できるようになったのだから。。。