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毎月なにかしらの観察会をしているが、それらは1日(数時間)で終わるものだが、夏休み期間だけ「昆虫の教室」と「貝類の教室」という数日かけて行うものがある。

以前までは、これ以外に「植物の教室」と「化石の教室」というのもやっていたが、前者は標本を乾燥させるのに日数が足りないこと(小学校の夏休みが短くなったため)、後者は数日かける必要がないこと(標本がすぐ作れるので)でやらないことにした。

さて、今年も「昆虫の教室」をすることになった。そこで、この教室でどのようなことをやっているのか、そして夏休みに自分で昆虫標本を作ってみたいと思う人もいるかもしれないので、その作り方というを簡単に説明しておこうと思う。

まず、この「昆虫の教室」というもののスケジュールを説明しておこう。
1日目の午前中にミュージアムの敷地内で草むらの昆虫を採って、その後に近くの公園にいって渓流の昆虫と森の昆虫を採集する。午後からは近くの湿地に移動して、ゲンゴロウやミズカマキリの水生昆虫を採集する。
2日目は夜に公園でライトトラップをして光に飛んでくる昆虫を採集する。
3日目はそれらを標本に作製する。標本は乾燥機で一気に乾燥する。
4日目にデータラベルをつけて、同定して同定ラベルをつけて標本箱に入れる。そして、採集風景とか採集・標本方法とかを各自写真を撮って貰ってそれをまとめた昆虫日誌を作成して、標本と一緒に持って帰る、というものである。日誌があると、後に昆虫標本を見た時にどんなところで、どんな風に採集したのかとか思い出せる。

1日目にこちらが用意する使う道具はこれだけである(あとテキストも)↓

1日目の午前に使う道具(これ以外に虫採り網もある)袋はサコッシュのように簡単に中身が取り出せて、両手が開いて、汚れてもいい袋がいい。
使っている様子

各採集地で採った昆虫をチャック付き袋に入れてそれをこちらで回収して、採集が終わったらすぐに冷凍する。事前に採る昆虫については次の注意をする。①同じ昆虫を何匹も採らない、②(翅のない)幼虫は採らない、③雌雄がいたら雌雄を各1個体採集する、④蝶やトンボは三角紙に入れて、セミの抜け殻などのもろいのはフィルムケースにいれて一緒に袋に入れる。など。

通常、昆虫採集をする時には『毒瓶』というのを使って昆虫を酢酸エチルという神経毒で殺すのであるが、昔からこれがどうも気持ち悪かった(もう10年以上使っていない)。虫がもがき苦しむ様を見るのも嫌だし、子供にそれを見せるのがどうにも納得がいかなかった。また、子供に毒瓶を渡すと、なんでもかんでも入れてしまって同じ種類を何個体も入れたり、標本に出来ない幼生を入れたりと無駄に昆虫を殺すことにもなる。さらに、昆虫の内臓や神経、心臓などを調べるようになってから、この殺し方は非常によくないことに気づいた。さらに、酢酸エチルで殺した虫を標本として作るときに、その虫から酢酸エチルの匂いがする。ということは、子供にそんな化学物質の匂いを嗅がせることになり、体によくないだろうと思うようになった。だから、標本にする必要最小限の昆虫を冷凍庫で一気に冷凍するようになった。この方が標本として綺麗に死んでくれる。危険もないし、もがき苦しむ様を見なくてもいい(虫には申し訳ないが、、)。ただ、まだ生きている時に一緒に袋に入れると他の虫を食べたりする種類がいる。その場合は、これで↓一瞬で凍らしてから袋に入れる。

一瞬で凍らせるスプレー

私が小さい頃に昆虫標本作成キットみたいなのが売っていて、注射で何かの薬品を昆虫に入れて昆虫を殺すというが売っていたが、未だにあれが何の意味があるのか、何の薬品だったのか、なんであんな方法を取る必要があったのかわからない。

余談です。

1日目の午後から、近くの湿地に移動して採集するのだが、どうやっても泥が付く、汚れてもいい服装で来てもらうが汚れすぎると後で綺麗にするのに時間がかかる。そこで、大きめのゴミ袋を切って、糸で縫ったものを履いてもらう。そうすると、服が汚れず採集できる。水生昆虫はエタノールにいれて固定する。

湿地での採集では汚れてもいい服で来てもらうが汚れすぎることがあるので、ゴミ袋を縫ったものを履いてもらう。

2日目のライトトラップの時は採集した昆虫をどんどん私のところに持ってきてもらって、私が選別して(同じ種類を採りすぎていないかとか、幼虫とか羽化直後ではないかとか)、袋に入れていく。その時にガなどはこの一瞬で凍らせるスプレーで凍らせてから三角紙に1個体ずつ入れて袋に入れていく。そして、それを一人一袋にまとめて冷凍する。

右下で私が選別して三角紙などに入れているところ

そして、3日目に標本にするのであるが、家で自分で採集したのもその時に持ってきてもらう。家で採集する際は、1個体ずつデータラベルを入れるように最初に指導して、それを冷凍庫に入れて固定と保存しといてもらう。また、飼育して死んだカブトムシなども持ってきてもらう。多少腐って体が外れても、煮てから、接着剤に繋げれば立派な標本になる。

標本の作り方をその場で手元を投影して説明する
標本を作成しているところ(この時点でデータラベルを一緒に横に針で刺す)
標本をラベルは高さを合わせた方が見栄えがいいので、私が作った平均台で高さを合わせる

標本の作り方は、甲虫やカメムシ類などからバッタ、トンボ、蝶という順番で説明して作っていく。バッタは肉抜きや綿入れを説明して、トンボも肉を抜いて、棒を入れる。蝶は展翅板を使ったやり方を説明するが、個人的には展翅板を使わなくても細い針で翅脈を引っ張り上げて乾燥すればいいと思っているので、そのようなやり方もありますよ的な感じで説明していく(ただ皆さんには展翅板を使ってもらう)。調べたい部位がちゃんと見えるようにして、乾燥すれば標本としては十分なので。

大事なのは、綺麗な標本ではなくて、後に観察・同定できる資料としての標本である(別に脚や翅が左右対称になってなくたってもいい)。私は子供達にコレクターになって欲しいのではなく、標本というものが膨大なデータを持つ資料であると認識にして欲しいし、昆虫の体がいかによく出来ているのを知って欲しい。私たちは彼らから学ぶべきことがたくさんある。
だから、珍しい昆虫なんて採る必要はない。どこにでもいるふつうの昆虫でいい。もっといえば、どこにでもいるふつうの昆虫の方がいい。ふつうにいる昆虫であれば、後に自分でその種の種名とか調べやすいし、生態を観察もしやすい。

完成した昆虫標本(バッタやセミなど同定に必要な形質がちゃんと見える)

そして、4日目にそれらを図鑑を見て自分で同定して調べていく。種名を聞いてそれをラベルに書けば簡単だけど、「模様が違う」とか「大きさが違う」とか、間違えてもいいから親子で調べるのが大事だ。だから、保護者の方もふくめて一人1冊この図鑑↓を渡して調べてもらう。

増補改訂版もでていますが、とても素晴らしい図鑑です。

標本の下にはデータラベル(採集地や採集日、採集者が入っている)、その下に自分で調べた種名を同定ラベル書いて、それらを各標本につけていく。

最後に、私が標本の配置などを確認して、移動中に標本がクルクル回転して他の標本を傷めないように針でそのような標本は固定して、乾燥材を入れて「よくできました!」と書かれたシールを標本箱の右上に貼って(確認しましたよという証のような意味もある)、昆虫教室というのは終了する。

完成した標本の右上にはシールを貼る

さて、次はもう一つの夏休みの教室である「貝類の教室」について、機会があれば紹介しましょう。