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妄想アマガエル日記(50)-1月29日(月)晴れ

小太郎がポツリ、ポツリと話し始めた。

「大きな岩の上に登った時は雨が降っていたんだ。だから、調子よく濡れた岩の窪みを利用して登っていたんだ。頂上に登って周りを見渡してみたらすごく高くて、足がすくんでしまった。頂上は自分一人が座れるくらいしかなくて、そこでしばらく悩んでいた。まぁ、誰か通って、助けてくれるかもしれないとその時は待っていたんだ。でも、誰も通らなくて、しばらくしたら日が暮れて夜になってしまった。その日はそこで夜を明かした。次の日は、昨日の雨が嘘のように朝からカンカン照りでね。。。日が皮膚を焼くように照り付けるんだ。影になるところなんてないし、下には降りれないし、誰も通らないし。。。」

「大変だったんだな~」
与助が相槌をした。

「そして、日が照り付けて来て、水分がどんどん抜けてしまってな。。。もう座ることもできなくて、腹を上にして仰向けで空を見ていたんだ。。。もうダメだと思ってな。。。。」
「そしたら、次第に意識がなくなってきて、走馬灯のようにこれまでのことを思い出したんだ。銀次郎に頭を踏まれたこととかな。。。」

銀次郎が頭をボリボリかいて申し訳なさそうにしている。

「よくそれで生きていたね。。」
八助が思わず声に出した。

「ほんとだよ。。。もうダメだ、、、と思った瞬間。あの大きな建物が日を遮ってくれたんだよ。。。たぶんあと数分でも日を浴びていたら間違いなく死んでいたと思うんだ。そして、そのまま仰向けで日陰の中、空を見上げながら、決めたんだ。」

「もし、ここから生きて帰れたら、あの建物に御礼も兼ねて登ろう。」と

「そう考えていた時にちょうど、君たちが下を通りかかってくれて、精一杯声を出して助けてもらったんだ。」

「へぇ~~、そんなことがあったのか~。」
七助が声をかけた。

「ほんと、あの時に君たちがあそこを通らなかったら間違いなく死んでいた。あの時は本当にありがとうな。」
小太郎が深々と感謝した。

「そして、君たちのお陰で生きて帰れたから、あの時の約束を果たすためにあの建物を登ろうと何度もチャレンジしたんだが、、まったく登れなくてな。。。」
「でも、アマガエルがあの建物の壁の高いとこに張り付いているのが下から何度か見えて、、アマガエルに登り方を習おうと思ったんだが、、アマガエルの知り合いなんていないから困っていたんだ。」
「そしたら、お前のことを思い出してな。」
そういって、銀次郎のことを指差した。

「えっ、僕?」
銀次郎が戸惑った。

「そうさ。お前は知らないだろうけど、あの朽ち木にいたのを何度か通った時に見ていて、住んでいるところを知っていたんだ。だから、あの日、お願いしに行ったらちょうど留守にしていたら、外で待っていたんだ。」

「あっ、あの時はそういうことだったんだ!」
銀次郎が納得して答えた。

「確かに、待っていたな。。。」
与助も思い出しながら答えた。

「そして、お願いしてみたら、二人ともいい奴で協力してくれるって言うからとても嬉しくてね。。。あと、日出夫も手伝ってくれるって言ってくれたしな。。」
小太郎が恥ずかしそうに言った。

「そうか、、、あの建物に登りたい理由にそんな想いがあったなんて、知らなかったよ。。」
銀次郎が驚いて言った。

「まぁ、岩の上で干からびて死にそうになって、建物に登ることを決めたなんて情けない話しをお前らに知られたくはないからな。。。」
小太郎が恥ずかしそうに言った。

「小太郎も色々なことがあったんだな。。春になったらまた練習してさ~今度こそあの建物に登ろうよ。」
銀次郎が小太郎の肩を叩いた。

「そうだな。とりあえず、塀は登れたから、暖かくなったらもう少し練習したら、あの建物も登れるさ。」
与助も小太郎の肩を叩いた。

「そうだな。まぁ、いろいろ迷惑をかけるけど、よろしく頼むよ。。。」
それから、話しがとまらなくなった小太郎が、練習の時の話しをポツリポツリとして、これまでの他の危険な目にあった時の話しもポツリポツリと続けた。

「そしてな~。。あの時も本当に危なくて、、与助も行ったみたらいいよ。」
小太郎がそう言って、与助を見ると与助は地面に這いつくばって寝ていた。
その横で銀次郎が口を開けて寝ていて、その横で日出夫が丸まって寝て、その奥に七助と八助と六助が重なるように寝ていた。




「せっかく人がいい話しをしているのに、、、この蛙どもは~~」
小太郎が小さな声でそう言って、皆を見てほほ笑んだ。

つづく。