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第12話 ホタルの博物館

当館は、ホタルを主軸に置いた自然史博物館です。

 ですから、ホタルのことは外せませんし、丁度ホタルの時期なので、このことについて少し触れておきます。開館当初、ホタルの博物館なのだからと出前授業に行ってもホタルのこと、来館された方に話しをしてもホタルのこと。まぁ、当然のことなのだけど、毎日ホタルのことばかり「ホタルは素晴らしい」とか「ホタルを守りしょう」とか言っていると、なんとも 自分が自分のことを気持ち悪い奴だな~と思うようになりました。

 また、出前授業に行って質問を受けると、ホタル以外のことが多かったのもあって、ホタル以外のことをやらないといけないと思うようになりました。自然史博物館なのだから当然のことなんですけど。
 幸いホタルは発生時期が短いので、他のことを対象としてもさほど問題はないのです。とはいえ、当館はホタルを主軸に置いた施設ですから、ホタルのことをまったくやらないわけにはいきません。
 そこで、色々な対象とともに、ホタルを絡めた企画展などをするようになりました。

 そして、気づいたのがホタルの多面的な魅力でした。

 ホタルは、発光という部分以外にも胚発生を調べても他の昆虫とは違いますし、内臓のつくりも違います。そうかと思ったら神経系は昆虫のもっとも基本的な形態をしていて昆虫の神経系の説明の基準になるし、ホタルという一群の中には幼虫が水生の種類もいるし陸生の種類もいる。さらに、幼虫はすべて肉食で、毒を持つのもいるし、形態や色彩もさまざまです。

陸生のホタルの幼虫
水生のホタルの幼虫

 そして、ホタルのことを調べていて一番思うのが、ホタルという昆虫はもっともよく知られた昆虫ということでした。老若男女問わず、皆ホタルという昆虫のことは知っているし、血を吸ったり、農作物を食い荒らすこともないので、印象も悪くない。さらに、文化的なことを調べても色々と出てくるし、文学にも度々登場します。ホタルを主軸に置いて、ホタルと比較しながら色々な生き物を調べると、よりホタルの魅力を発見することができたのでした。

↑ホタルの文化的なことも、生物学的なことも書いた冊子です

 しかし、色々とホタルのことを調べていると「ホタルなんてメジャーな昆虫を調べてどうするんだ?」とか「ホタルは色々と保護されているのに、私が研究している〇〇虫なんて誰も見向きもしないから、ホタルばかりズルい」とか、(人それぞれ好みや立場がありますから全然いいのですけど)よくわからない部分でホタルが批判されているところを見聞きするようになりました。

 そこで、ホタルを守るために、もっと誰も見向きもしない生き物などを調べて、その知識と展示でホタルを守ろうと決めたのでした。どういう論理展開でこのようになるか説明するのは大変ですけど、メジャーなホタルを守るために、よりマイナーな生物群や分野で守るという、まぁ自分でもよくわからないけどホタルの用心棒みたいなものです。

 よりマイナーな生物群や分野を一つずつ調べていくようになると、それらもすべて魅力的でした。また同時に、発光したり、飛翔したり、よくわからない感覚器が体中に散在するホタルという生き物の魅力を再確認できたりもしました。

 さらに、ホタルのことを多面的に調べていると、当館のような田舎の奥の田舎にある小さな博物館の職員に、優秀な研究者たちが色々なホタルの情報をくれたり、ホタルのことを調べる機会を与えてくれたりしました。その過程でもホタルという生き物の新たな魅力に気づいたりしました。

 そして、つくづく思うのです。ホタルが主軸でよかった。