『作らないこと』をお金にする

 4月に刷り上がった名刺から、自分の肩書が増えている。『チーフ・マネージャ』『テクニカル・ディレクタ』に続き『テクニカル・アーキテクト』というのを追加した。
 『胡散臭い名前を付けよってからに』と思った貴方、ちょっと待ってほしい。胡散臭い肩書が大嫌いな自分が何故こんな変な名前の肩書を追加したのには理由があるのだ。

増え続けるプロトタイピング需要

 5年前に1-10に入ったときから新製品開発の仕事を受けて、それをメインワークとしてやっていた。その時に思ったのが、『広告やインスタレーションを従事するエンジニアの開発速度とデザインに関する感度の高さは、メーカの新規事業開発に対してもかなり有効なのでは』ということだ。

 これはそういう立て付けのリリースを打って存在をPRすれば仕事が色々来るのでは?と思って相談したところ、いっそ会社を作ってしまおう、という話になり、1-10driveという会社を立ち上げることになった。

 その予想は当たり、去年秋に本体である1-10と合併するまでメーカからのプロトタイピングの仕事は全く途切れず、むしろ右肩上がりを維持していた。合併直前は社員が32人(当初は3人だった)が、売り上げのおおよそ半分はプロトタイプや新規事業、新製品開発の相談だった。広告代理店経由の案件はほぼゼロで、直接やりとりするものばかりだった。

 合併後も引き続きその手の相談は継続して増えつつある。

プロトタイピングにおけるクォリティとは何か?

 そんなわけでここ4年程、メーカのプロトタイピング案件の相談に乗ってきたわけだが、ひとつ判ったことがある。

 それはプロトタイプのクォリティはプロトタイプ自体のクォリティとは関係ないということだ。制作物の品質ではないところで制作物の品質が評価される、という若干歪な構造がプロトタイプにはある。では何がプロトタイプのクォリティを決定づけるのか?

 結論から言うとプロトタイプ制作の親である新製品開発のプロジェクト自体の検証項目に対してどれだけコストと期間をかけずにプロトタイピングして検証結果を出せるか?こそがプロトタイプのクォリティである。

 良く言うのだが本物と同じ機能と同じ状態を作るには製品そのものの開発予算規模が必要になる。手前で少額でプロトタイプしたい、というのは製品の有用性に疑問を持っていて、それを手早く素早いコストで評価したいからだ。

 例えばセンサの感度が体感的にどう影響するかを検証したいときには見える化は重要だがアプリケーションのGUIを凝りまくるのは効果的ではない。機構試作にフォーカスするべきだ。逆にこの製品の体験がそれほど面白くないのでは?という疑問がある場合、実際の機構は無視して体験試作を行って体験してみることになる。つまり最小で最も効果的に検証実験を行えるツールを作ることだ重要になる。リーン開発でいうところのMVP(Most Variable Product)の考え方だ。

 結果としてプロトタイプの相談を受けたとき、どれだけクォリティを出せるかは『親プロジェクトである製品開発プロジェクトの検証項目』がどれだけ消化できるかに依存するため、プロトタイプの内容よりも親プロジェクトの状態、ステータスについて念入りにヒアリングすることになる。

制作会社が『作るべきでない』と説明することに価値をつけるには?

 そしてヒアリングした結果、我々が引き受けなくてよいよね、という話をすることがままある。親プロジェクトの検証項目を『最小の工数で』検証する方法を検討した結果、『製作の工数がゼロでいけるパターンを見つけてしまった』ということだ。

 例えばカメラ付きラジコンの体験を検証したい、と言われ、検証したい体験をヒアリングしていくと『Amazonでウェブカメラとラジコン買って養生テープで取り付けた即席カメラ付きラジコンを作ればよいのでは』という結論になってしまったりする。流石に養生テープでやる工作に制作費を出すのはクライアントも馬鹿らしいと思うだろう。

 これは親プロジェクトの視点から見ると安く、短期間で検証できるソリューションを提示できているため、非常に良い仕事っぷりなわけだ。しかし、プロトタイプを依頼された制作会社側から見ると単純に仕事を断ったのと同じで、全く儲からないわけである。

 こういうパターンが非常に多く、悩んだ結果『親プロジェクトのディレクション費用』と『プロトタイプ自体のディレクション費用』を併記して出し、『親プロジェクトの視点で仕事するべきかどうか』をクライアント自身に選んでもらう、ということにした。この前者の業務を行う人を『テクニカル・アーキテクト』と(一旦)呼ぶことにしたわけである。

最後に

 タイトルでは『作らないことをお金にする』と書いたが、正確には『作らないで済むかどうか、あるいはより最小の工数で作れないか検討することをお金にする』ことを狙った施策である。

 この見積もり項目を追加した結果、少なくとも制作会社としての自分と良い仕事をしたいと思う自分が葛藤せずに済むようになったし、『作らないこと』の価値を認めて有償の相談をしてくれるクライアントも出てきているので、まぁ良いかなと思ってる。名前はもうちょっと検討の余地があるかもしれないが・・・。

追記
『作らない』にも2つ種類があって『検証項目は正しいが検証方法がもっと楽な方法がある』というのと『検証項目がはっきりしない、あるいは重要度が高くない』の2つがある。前者がテクニカルディレクタはコンサルするべき、という制作稼働を伴わないテクニカルディレクションを仕事にする、いわゆるテクニカルディレクションのコンサル問題。
プロトタイプにおける化粧の問題や、製品開発のスコープにおけるテクニカルディレクションは後者。後者の方も非制作稼働前提ではあるが、息の長いプロジェクトではこちらの方が重要だ。

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あざす!
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技術相談役。 テクニカルディレクター・コレクティブ『BASSDRUM』メンバー。 大阪芸術大学・京都芸術大学非常勤講師。 博士後期課程満期退学の工学修士。 目の研究→メーカで研究開発→クリエイティブ系のデザイン会社→プロトタイプ開発のスタートアップ→充電期間→今ここ

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