人を見捨てることが逮捕なら、人を見捨てないことで金をくれ
「同情するなら金をくれ！」
というのは、ドラマ『家なき子』で、子役の安達祐実が繰り返し口にしていたセリフである。
ドラマ未視聴なのであまり確かなことは言えないが、日に日にその言葉が切実だと思う。
85歳の母親が足の骨を折って自宅で倒れてたのを放置したら、59歳の娘が逮捕されたというニュースを見た。
母親は２９日夜に玄関で自己転倒して太ももの骨を折り、釣部容疑者に助けを求めていましたが、
釣部容疑者は一晩中母親を助けずに放置したということです。
「あぁ、この娘の気持ちが、わかる。」と思った。
私が、その人の気持ちを代弁しているのかはわからないし、この事件を借りて私は自分の主張をしたいだけだ。
私の妄想かもしれない。だけど、同じシチュエーションで、私は85歳の母を見捨てる自信がある。
見捨てるというか、動けなくなる自負がある。このままでいいか、ちょっと大変だ。明日の朝仕事がある、ここから救急車に乗って、救急隊員に伝達して、入院の場合必要な服とか下着とか持って、出掛けて…。薬を持って行って…。もう、今晩の夜中から、そんなことが起こると思うだけで、想像を絶する。
だるい、やめたい、一旦置いておいてもいいかな。それは、私の家に干せない洗濯物が溜まっていたり、シンクに洗えなかった洗い物があるみたいな話で、人の命であっても、疲弊すると人は動けなくなる。これは本当に本人の言葉を聞いているわけではないから、あくまで私が考えている空想小説に過ぎない。ただ、階段の下で倒れる85歳の母と、すぐには動けない59歳の娘、だった場合の自分の行動はありありと浮かぶのだ。
子供の頃、たまごっちが流行していた。私のたまごっちは、いつも、まめっちやふらわっちにはならない。まめっちやふらわっちは、一生懸命お世話をするとでてくるかわいい人気のキャラクターだったけど、私はまめにお世話ができないから、くろこっちとか、ござるっちとかになる。暗めのキャラクターで、正直あんまり人気キャラではない。
たまごっち、全然好きじゃなかったな。逐一呼び出されてその全てに応答しなければならないのが、とても辛く、なんであんなゲームが流行っているのかわからなかった。私は、多分たまごっちが好きではなかった。今まで言えなかったけど。だけど、ケアのことを考えている。人いちばい、たまごっちが苦手だから、考えている。たまごっち、いつもうまく世話ができないと、暗い色のキャラクターが出てきて罰されるような気分になる。私にケアの才能はない。
愛はあるけど、いつか、私は人を見捨てるんじゃないか、と思っている。子供が車に置き去りにされたニュースを見るたびに、私はいつかこれをやるだろうと思う。同じニュースを見て父が「こんなの絶対におかしい、普通忘れない」というけど、子どもを忘れるひとは、「絶対に忘れない」と言ってる側の人だとも思う。私はこの前ぬいぐるみのブローチを電車の中で落としてしまって無くしてしまったけど、多分子どももどこかに置き去りにする可能性があると思っている。面倒でなんの支度もできない日もあるのかもしれないと思う。子どもなら放置しないかもしれないが、大人ならどうだろう。放っておいて寿命が来たら全てから解放される、って考えてしまう日がくるんじゃないかとおもう。そんな自分が嫌だ。
会社に縛られていれば金がもらえるのに、人に縛られるのには金がもらえない。身近な誰かのこまめなケアをすることは私的な領域とされて賃金の対象にならない。
過重労働かもしれないが、夜中に特大スクープが得られそうで時間度外視で現場に向かう記者は、しんどさと引き換えに、お金と地位と名誉が手に入るかもしれない。システムのトラブルが起きて、復旧までに徹夜で仕事をしているひとならば、そりゃ、本当に大変だとは思うけど、一応お金がもらえたり、仕事をした、として処理される。
でも、夜中に85歳の母が倒れた時に、復旧まで動いて、入院の支度をして送り届けても、何もない。何もしなかったら、逮捕されてしまう。逮捕されるほどに重いことなのに、報酬がないのは不自然だ。
人の命を大切に、見捨てるな。保護責任だというのなら、人を見守ることにお金を払えと思う。お金を払ったって、無理なこともあるかもしれない。積み重なっていく洗濯物のように、人に対してケアができなくなっていく。
見捨てることが自助になる世界と、助けてもらうことが前提となるから、誰かを助けられる世界ならどちらが良いだろうか、と思う。私の頭の中では、階段の下でうめきながら朝まで放置してしまった85歳の母の姿がありありと浮かぶ。
私は友達が死にたくなった時には誰よりも早く会いにいくことを決めているから、そんなに悪い人じゃないと思うから、逮捕しないでほしい。どうしても、自分が59歳の時に、この母親を絶対に見捨てない！と言い切ることができない。私たちの問題だと思う、この事件は。
保護責任に、金銭は払われない。
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