豊岡演劇祭2023観劇ガイド③:豊岡演劇祭らしい作品を楽しむ
開幕近づく豊岡演劇祭2023。観劇するプログラムはもうお決まりでしょうか? 今回は「豊岡演劇祭らしい」4つの演目のあらすじや見どころをご紹介。どの演目を見ようかまだ迷っているという方は是非ほかの「豊岡演劇祭2023観劇ガイド」も合わせてチェックしてみてください。
まずは豊岡演劇祭2023のフェスティバルディレクターである平田オリザさんが関わっている2つの作品から。1つ目はこまばアゴラ劇場国際演劇交流プロジェクト2023『KOTATSU』。フランスを代表する劇作家・演出家パスカル・ランベールさんが作・演出を、平田さんが共同演出と日本語監修を担当する作品です。ランベールさんが日本でのクリエーションを前提に書き下ろしたという戯曲の大きなモチーフはタイトルの通り「炬燵」。正月で親戚一同や友人たちが集う居間を舞台に、一代で世界的企業となった建築会社を経営する一族それぞれの価値観の違いやお互いに抱く愛憎が浮かび上がります。企業の世界的な展開やSNSを通じた批判の拡散など、個人のコントロールを離れて連鎖していく現実と、家族という共同体の内部で軋む人間関係。炬燵に集う家族の姿は、世界の中の日本を映したもののようにも見えます。平田さんが芸術総監督を務めるこまばアゴラ劇場とランベールさんは、2007年の『愛のはじまり』以来、数々の作品で協働を行ってきました。その集大成であり多くの青年団俳優が出演する本作は、互いをよく知る俳優・演出家同士によるアンサンブルが生み出す緻密でリアルなやりとりも見どころの一つとなるでしょう。
2つ目は青年団プロデュース公演『馬留徳三郎の一日』。こちらは2018年に第7回近松門左衛門賞を受賞した髙山さなえさんの戯曲を平田さんが演出する作品です。笑える作品が見たい!という方にはこちらがオススメ。ある日、馬留家にかかってきた一本の電話。長らく帰って来ていない息子からだというその電話は、仕事でミスをしたからそっちにいく部下に金を渡してくれというのですが——。お察しの通り、オレオレ詐欺をモチーフにした作品ですが、ここからの予想を裏切る展開とそれが引き起こす笑いがこの作品の見どころ。ここではその面白さをお伝えするため、この先のあらすじを少しだけ紹介したいと思います。ネタバレが気になる方は次の段落まで読み飛ばしてください。さて、やってきた男は金を受け取ってさっさと帰ろうとするのですが、ご近所のお年寄りたちまでもが入れ替わり立ち替わりやってきて、なかなか彼を帰そうとしません。どうやらなかにはボケてきている人もいるらしく、何が本当で何が嘘かわからない状況に男も観客も煙に巻かれていきます。ドタバタの果てにやがて見えてくるそれぞれが抱く事情とは。笑いの向こうに見え隠れする人生のほろ苦さもぐっとくる作品です。
リアルな現代劇2作品に続いてご紹介するのは野外で上演される2作品。この振れ幅もまた豊岡演劇祭の魅力です。いずれも豊岡演劇祭が育ててきた、本当の意味で豊岡でしか見られない作品になっています。
1つ目は岩下徹×梅津和時 即興セッション『みみをすます(谷川俊太郎同名詩より)』。国際的な舞踏カンパニー「山海塾」の舞踏手である岩下さんと、RCサクセションや忌野清志郎をはじめ世界中のミュージシャンと共演してきた梅津さんによるダンス×音楽の即興セッションが昨年に続き登場します。今年の会場は玄武洞公園と香住東港。私も昨年、氣多神社での上演に立ち会いましたが、木々を吹き抜ける風や観客の身じろぎ、遠くから聞こえる車の音にカラスの鳴き声まで、環境そのものと感応し合うようなおふたりのセッションに触れていると、私自身の感覚もその場所へと開かれていくような思いがしました。豊岡という土地の魅力を引き出すという意味で、豊岡演劇祭を象徴する作品の一つと言えるかもしれません。
最後にご紹介するのはフェスティバルプロデュースから烏丸ストロークロック×但東の人々『但東さいさい』。但東の民話を元に、但東の3地域の子どもたちと創作したオリジナル神楽を上演するプログラムで、こちらも昨年から引き続きの上演です。烏丸ストロークロックは2020年からこのプロジェクトをはじめ、地域の方々とともにこの作品を育ててきました。その様子は「但東さいさい2021『烏丸ストロークロックと子どもたち』」「但東さいさい2022『烏丸ストロークロックと本日開演』」という2本のドキュメンタリーにまとめられ、YouTubeで公開されています。人間とその生きる場所との関わりのなかで生まれる骨太なドラマを描いてきた烏丸ストロークロックは、但東の人々とどのような関係を築き、どのような上演をつくりあげるのでしょうか。今年の会場は但東に残る農村歌舞伎舞台。23日は幕間毎の解説、24日は出店や幕間毎に地域の様々な芸能を紹介する催しもあります。
『みみをすます(谷川俊太郎同名詩より)』と『但東さいさい』はいずれも公演当日にJR豊岡駅と会場を結ぶ無料の臨時バスが運行されるので会場へのアクセスも心配いりません。
豊岡演劇祭2023観劇ガイドは次回が最後の更新。コープス×キオ カナダ×日本共同制作作品『むかし、むかし』の稽古場レポートをお届けします。大人気演目『ひつじ』が日本各地で上演されてきたコープスと大阪の劇団キオの共同制作はどんな作品を生み出すのでしょうか。
文:山﨑健太
1983年生まれ。批評家、ドラマトゥルク。演劇批評誌『紙背』編集長。WEBマガジンartscapeでショートレビューを連載。2019年からは演出家・俳優の橋本清とともにy/nとして舞台作品を発表。主な作品に男性同性愛者のカミングアウトを扱った『カミングアウトレッスン』(2020)、日本とブラジルの移民に取材した『フロム高円寺、愛知、ブラジル』(2023)など。
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