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ブルーエゴナク『ザンザカと遊行』

『ザンザカと遊行』に寄せて(当日パンフレットより)


8月16日。

豊岡市地域おこし協力隊であり演劇祭事務局のサカイ君の車で、初めて竹野町に入ってから本番までの約1ヶ月の間に、
自分に起きた変化を考えながら、この文章を書いてみようと思う。

今作は滞在制作ということもあり、前半は竹野町の歴史や言い伝え、風習などをリサーチする期間が続いた。
同月9日に城崎在住の松井敬代さんにお話をお聞きしていたこともあり、民族的なテーマにある程度焦点を絞っていた。
リサーチは進むにつれて、主に「民謡」「信仰」「儀礼」の3つに分かれ、それは各地域で聞いた話とそれぞれ紐づいている。
下町区長・與田政則さんへの取材を元に、竹野相撲甚句や竹野町盆踊り、竹野町小唄などから歴史を遡った竹野浜地区、
松永正博さんへの取材で伺った何万年前からの史実から、今もこの土地に残るアニミズム[精霊信仰]、シャーマニズムに触れた中竹野地区
また、竹野南地区では三原区長・茨木光男さんへの取材の中で、三原地区の儀礼の数々、また山中の集落の生活様式を知った。

そしてその3つのテーマが、それぞれ〈見えないもの(物/者)への態度〉であることが分かってきた。
それは霊的なものだけではない。側溝の隙間に消えて見えなくなった蟹もそうだ。
海と山に囲まれ、見えない場所が広く、その緊張感の中での想像力が、竹野町ならではの風習を生み出して来たのだろう。

それで今作は、些細な罪悪感と些細な信仰心の話になった。
一見軽薄に見える若者(あるいは僕自身か)の姿を、されど過酷な時代を生きている(あるいは生きていた)彼らの姿を、
この地域を通して見つめ直した時、露になったのは罪悪感と信仰心だった。
何を抱えて、何を信じるか、息苦しい社会をその二つのフィルターを通して覗いてみるような。

時に、滞在制作はどんな形にせよ地域の養分を吸い取って作品にするという搾取の構造から逃れられない。
またその時に、その地域の方々やあるいはそれからさらに外側の社会が何を望んでいるか、それに応えるだけでは自身の作品になり得ない葛藤もある。
声なき声に耳を傾け、態度、距離、居方、あり方を模索し続けても、それでもこぼれ落ちてしまうものがある。
これも芸術への、罪悪感と信仰心だ。

だけど信じるからには続けなくては、とも思う。
初めて訪れた土地で、少なくない人を巻き込んで作品を作る。作った。
このご縁を、これからも丁寧に繋げていければと思います。

最後に、奥城崎シーサイドホテル様、竹野盆踊り振興会様、豊岡演劇祭実行委員会事務局様。
それぞれのお力無くして、このご縁を繋ぐことは出来なかったと感じます。
改めてここに最大の感謝をいたします。

穴迫信一


……それで、自分に起きた変化は何だっただろう。
あまり思いつかないけれど、一つだけ確かなのは虫が多少(本当にちょっとだけだけど)平気になったことくらいだ。
変化はすぐには起きないかもしれない。自分の故郷に帰ったときに、何かに気付くかもしれない。

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『ザンザカと遊行』9/10〜13
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ブルーエゴナク
北九州市拠点。地域を拠点に、国内外に通用する新たな演劇作品の創造と上演を趣旨として活動。
リリック(叙情詩)を組み込んだ戯曲と、発語や構成に渡り音楽的要素を用いた演出手法を元に、〈個人のささやかさ〉に焦点を当てながら世界の在り方を見いだそうとする作風が特徴。
これまでに市場や都市モノレールでのレパートリー作品を製作するなど、地域との共同製作も多数。
2020年度より、代表の穴迫信一がセゾン文化財団セゾン・フェローΙに採択される。

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