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豊岡演劇祭2023コラボ商品 「コウノトリ育むお米のパックごはん」:JAインタビュー

 地域の人々の暮らしに息づく産業である「農業」。毎日の暮らしや自然環境など様々な側面において、そこに住まう人々の生活に影響を及ぼす要素であると言えるでしょう。そんな農業を支えているのがJAです。
 豊岡演劇祭2023では、但馬地域の自然が育んだ「コウノトリ育むお米」のパックごはんが販売されます。「コウノトリ育むお米」とはどのような由来を持つ農産物なのでしょうか。また、地域と、豊岡演劇祭と協働するにあたって見据えられているビジョンはどのようなものなのでしょうか。但馬地域の農業を支える、JAたじまの黒田祐介さんにお話を伺いました。

黒田祐介さん

  今回、豊岡演劇祭とタイアップするに至った経緯についてお聞かせください。

 去年の10月に芸術文化観光専門職大学と産学連携協定を結ばせてもらったということが一番大きなきっかけだったのではないかと思います。豊岡演劇祭自体はそれまでもされていたと思うのですが、こういった連携協定を結んでいない状態でしたら、恐らくここまでの形で協力や応援が実現するというようなことは無かったのではないかと思いますので。
 最初にお話をいただいた時に、協力はさせていただきたいというようなところはありました。豊岡演劇祭の目的として「地域の活性化」であったり、或いは「地域内外の交流の創出」などといったものがあるということを、平田(平田オリザ)学長のお話として伺うタイミングがありましたので、そういった狙いに関しても承知しておりました。そういった流れで協力しますよ、というお返事をさせてもらいました。
 通常であればお金を出させてもらう形での協賛の仕方が一般的ですので、こちらも最初そうなるかなと思ったのですが、面白くないかなという風にも感じまして。農協ならではの協賛の仕方ということでご提案いたしました。芸術文化観光専門職大学の前例としてノベルティーグッズのパックご飯を作らせてもらっていましたので、今回もそういうような形で、それを全部こちらで作らせていただいて提供するという形の協賛でどうですかというお話をした結果、その方向で進むことになりました。
 但馬管内でも色んな名前が付いたお米を扱っているのですが、今回は特に豊岡の演劇祭ということで、「豊岡」という地域の名前を冠する演劇祭に一番強い繋がりがある「コウノトリ育むお米」というものが一番マッチしているかなと思い、これを提供させていただくような形になりました。

  豊岡市を起点として立ち上がったプロジェクトである豊岡演劇祭とタイアップするにあたり、どのような効果を期待されていますか。

 JAとしては、地域の農業であったりお米のことを色んな方に知っていただいて、食べていただきたいという思いがありますので、これらを色んな形で知ってもらう、その場面として今回の豊岡演劇祭が機能してくれればなと思います。
 地域内外の方が恐らく演劇目的で来るんですけれども、その際に「こんなものがあるね」、「豊岡でこういう農業やってるんだね」とか「こういうお米あるんだね」というように、気にもしていなかったような方々の目に少しでも触れること。また、それをきっかけに知っていただいて食べていただいて、地域の農業を応援していただくことに繋がれば良いな、というような期待はあります。
 また、農協が協力させていただくことで、地域の方に「演劇」を身近に感じてもらう機会にもなるのかなと思っています。「農協もなんか一緒にやってることなんかな」って少しでも身近に感じてもらえたら、それは演劇という分野にとってもプラスになるのかなと思います。そういった部分から、これまで演劇に興味が無かった方に少しでもこの分野に触れていただけたらいいのかなと。今回の取り組みが色んな所で紹介されることで生産者の方や一般の方の目にも留まって、「豊岡演劇祭に何かしらの形で絡んでみたいな」と思ってもらえたりちょっとでも身近に感じてもらえたりしたら将来的にも良いのではないでしょうか。
 「農業」と「演劇」は、普通あまり接点が無くて異業種みたいなものなんじゃないかと思います。レストランに食材を提供するとかっていうのは(食品流通という)同じ枠組みの中でやるんですけれども、演劇祭とのタイアップにおいては基本関係が無いんです。ただ唯一、「豊岡」という地域のためになんとかしよう、というそこだけで繋がって、一緒に何かしようとなったのは凄く良いことなんじゃないかなと。

  「コウノトリ育むお米」について、食味やコンセプトなどといった面における特徴をお聞かせください。

 食味にもこだわりを持っています。毎年、食味分析を実施していますし、全国からお米が集まる「食味コンクール」にも出展しています。コンクールでは入賞していますので、「美味しいお米」としても、十分に自信を持っておすすめします
 お米ってできたものを全部出荷できる訳ではなくて、大きいもの、小さいものという粒の大きさの違いがあるんです。大きさが違うものを一緒に食べると食味が悪く感じるっていうことがあるんですね。そこで、それまで(お米をふるいにかける際に)使用していたふるいの網目を大きくして大きな粒だけが残るようにする、ということをして、出荷されるものの質を上げたそうです。後は当然栽培技術も良くして。網目の目を変えると何が起きるかと言うと、製品になる米の量が減るんですね。100できても50しか商品にならなかったら、残りのふるいから落ちた50っていうのはどうなるかと言うと凄く安くなってしまうので、そこはやっぱり生産者の中でも色々意見があったっていうのは少し聞いてはいます。ただやっぱり「コウノトリ育むお米」というブランド価値を高めるために、そういうようなことに変えていったそうです。
 「コウノトリ育むお米」というのも広い名前で、「コウノトリ育む農法」を基にしているので、コシヒカリ以外にももち米だったりコシヒカリではない品種とかそういうものでも、同じ農法で作ったら「コウノトリ育むお米」という名前で取り扱うんです。多分全国的にもレアなんだろうなと。みどり戦略を国が示して、「有機農法を増やしていきましょう」という話でやっている訳ではなく、コウノトリが豊岡で絶滅したために復活させよう、とそういう中で出てきたお米なので。

  「コウノトリ育むお米」の栽培開始当初(2003年頃)、”環境に配慮したお米の栽培”というものは非常に先進的なものであったかと思います。このような農法について、当時はどういった認識をされていたのでしょうか。

 30年くらい前に生協の組合員さんから、「環境に配慮した、意識の高いお米を栽培することはできないだろうか」ということで「つちかおり米」というお米を作り始めたのが、JAで公式に環境に配慮した農業を進めていこうとなった事の起こりです。その後、平成17(2005)年にコウノトリが放鳥されるのですが、農業が原因でこれが絶滅したような所もあるので、その農業を変えていかないと折角放鳥してもまた死んじゃうよね、ということで一部の生産者がそういう農業を変えていこうと思われて。そういうものを立ち上げられた結果JAや豊岡市、兵庫県も一緒になってやってきたので、生産者とJAだけでできたことでもないんです。
 売れていなかったら、多分廃れてしまっていたんじゃないかと思っています。全国でも似たような有機の話はありますけど、やっぱり売るのが大変なんです。それは農協の役割なので、それを地道にやってきてなんとか今に至ります。普通のお米の倍で買い取るような勢いなのでそれ以上に売らないといけない。買ってくれる人がいなかったらJAも必然的に高い金額を生産者に支払うことができないので、成立しなくなってくる。雑草も生えるし草刈りも大変なんです。そうすると、それで値段が付かないのであれば辞めてしまうというのは自然な形ですし否定できないので、農協は頑張って売るんです。

  「コウノトリ育むお米」のプロモーションにおいては「ストーリーの強調」が特徴的ですが、このような方法を確立させるにあたってはどのような流れがあったのでしょうか。

 本当にありがたいのは、普通の有機栽培と違ってストーリーがあるということです。「このお米、無農薬で作ってて美味しいですよ」って言っても、正直な所あんまり大差が無いので、何で売るかというとやっぱり取り組みのストーリーになるんです。それでやっていくっていうのは昔からうちではあって。専門の部署を立ち上げまして、実際に職員らが都市部のスーパーに直接行って質問を受けて売ると。それを定期的にやって認知してもらう、ということを続けてきました。
 一つの県で言ったら沖縄県が実は一番沢山買ってくれるんです。沖縄のサンエーさん、地元の大きなスーパーなんですけれども、この社長さんが共感してくださったんです。また、沖縄はあまりお米を作っていないので、色んなところからお米を仕入れる必要があるということと、お米を贈答品にする文化があるために丁度価格的にもまあまあ合ったのかなということで取り引きをしてくださって。

  豊岡演劇祭に来場される方々や、この記事を読まれている方々に伝えたい、”「コウノトリ育むお米」のアピールポイント”を教えてください。

 豊岡市の象徴は「コウノトリ」です。世界的に見て、一度絶滅した動物を野生復帰させることに成功した事例がどれだけあるのかは分からないのですが、兵庫県の端っこの田舎町でそれが成功しているということ、またその中で生まれてきた農法とお米であるということはお伝えしたいです。
 決して偶然ではなく、全部が揃わないとコウノトリがそこら辺を飛んでいるような状況は成立しなかったと思うので、生産者の方の思いと地域の思い、消費者の方の理解があってこそこういうものができているということもアピールしていきたいです。

  今後も「演劇」や「芸術文化」などといった領域と協働していく、というようなお考えはおありでしょうか。

 芸術文化観光専門職大学との産学連携協定を活かして、何か継続的にやっていけたら良いなと思っています。学生の方々と直接面識を持ったり生産者の方々との関係性を取り持ったりもしているので、イベントごとだけではなく、細く長く協働していけたらなと。
 当然、学生の方々も卒業して人が入れ替わってくると思いますので、組織と組織、学生とJAという形で無理なく何か続けていけたら良いなと考えています。

豊岡演劇祭オリジナルデザインのパッケージ

 但馬の自然を育み、但馬の自然に育まれた地域のブランド米、「コウノトリ育むお米」。環境と農業の共存を志向する農業関係者の熱い思いによって生まれたこのお米は、豊岡市の学校給食や沖縄県の贈答品、全国展開のパックライスとして人々に幸せを届け続けています。豊岡演劇祭の舞台となった豊かな自然は、環境に配慮した農産物の生産者と販売者、消費者が成す大きな輪に支えられていると言えるでしょう。
 但馬の未来を紡ぐ真っ白な宝物を閉じ込めた「コウノトリ育むお米のパックごはん」を、是非あなたのお手元に。

取材・文:粒耒楓彩
2003年生まれ。芸術文化観光専門職大学3回生。豊岡演劇祭2023では、実習生として広報部に携わる。

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