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豊岡演劇祭2023 特別インタビュー②:ぱぷりか『柔らかく搖れる』インタビュー

 2014年に旗揚げされて以降、「広島弁」や「家族」などといったモチーフが特徴的な作品を上演してきた劇団 「ぱぷりか」。劇作家・演出家の福名理穂さんが主宰を務め、東京都を中心としたエリアで公演を行っておられます。豊岡演劇祭2023で上演するのは、第66回岸田國士戯曲賞を受賞した現代口語演劇、『柔らかく搖れる』。2021年の初演からキャストを一新し、台本にも改稿を加えた本作の制作過程や見どころ、創作スタイルや豊岡演劇祭への思いなどについて、作・演出を務められた福名さんにお話を伺いました。

  福名さんの作品における特徴の一つとして「広島弁での表現」が挙げられますが、これを採用されているのは何故ですか。

 私がとても想像しやすかったってのが大きかったですね。広島にいる人たちの方が凄く人間味が立ち上がりやすくて。広島弁で伝わるかどうかっていう懸念もあったんですけど、他の色んな方言の団体を東京で見ることがあって、あ、大丈夫だなって。広島弁でも伝わるな、っていうのも踏まえ、広島弁で書き始めたのがきっかけですね。

  福名さんの作品におけるもう一つの特徴として、「”家族”というテーマ」が挙げられると思います。「家族」を描き続けられていることにはどのような理由があるのでしょうか。

 私にとって家族が多分すごく重要なんだと思います。私の中の家族。仕事とか友達とか恋人とかもあるんでしょうけど、家族になっていく人と今家族である人っていうものの、近いけど他人っていうモチーフの方が、私はすごく興味があるんだろうなって思います。
 友達とかも書いたりするんですけど、やっぱりその一人ひとりには家族が居て。登場人物がもしバラバラだったとしても、その人たちにも家族が居るんだっていうのはすごい、そういうところから物語が繋がりやすくなっていくっていうのが個人的にあるんです。

  非常に繊細な「家族の関係性」を描写されるにあたって、心掛けていらっしゃることはありますか。

 押し付けにならないような言葉選びはすごくあるかもしれないですね。こういう振る舞いじゃないと駄目でしょとか、正解を提示しないように気をつけて書きます。色んな考え方とか色んな価値観があるっていうのは大前提だと思ってるので。
 もちろんそういう風に(作品内でキャラクターとして)お母さんが言ったりもすることもあるんですけど、なるべく「これが正義だ」とならないように、言葉は選んでいきたいなっていう風には思ってます。そうでないと見てる人がしんどくなりそうだなって思っていて。

  ご自身の出身地であり、創作におけるインスピレーションにもなっている「広島」に対して何か感じることはありますか。

 広島に対してあまり固定はされてないかもしれないです。すごく生きづらさみたいなものを感じてる方が周りに多いなっていう印象があったので、なるべく呼吸がしやすくなったり生きやすくなったりちょっと明日も頑張ろうかなとか。そういうものが創作においてはメイン(のインスピレーション)かもしれないです。
 ちょっと落ち着けるような、「あ、してなかったわ、呼吸」って気づける瞬間ができる作品になれたらいいなと思ってます。

  福名さんは、俳優の方々に「当て書き」をされることが多いと伺いましたが、そういった創作方法を採るにあたって稽古場で気を付けていらっしゃることはありますか。

 会話をすることはすごく気を付けてるかもしれないですね。誰が何を考えているかはやっぱり分からないので、「今こう思ってるけどどう思う?」っていうのはなるべく聞くようにしなくてはと思ってます。私から出てきてるものを相手に共有していく作業なので、会話はめちゃくちゃ大事にしたい。
 皆「私のイメージを形にしなくてはいけない」っていうのが軸にあるんで、ちょっと判断が遅れることもあるんですけど、「じゃあそういう方向で進めます」ってなるように、円滑なやり取りをしなきゃという印象はありますね。

  福名さんが「演劇」を始めた頃のお話をお聞かせいただけますでしょうか。

 1人で上京してきたんで、知り合いを増やさなきゃって思ってました。本当に知り合いがいなくて、なんでもいいから現場に付きたいっていう所から始まって。で、たまたま(ENBUゼミナールの)卒業公演でお世話になったロリエの奥山さんが、卒業してすぐの公演の演出助手として呼んでくださって。それでロリエっていう団体の人たちや、スタッフさんとも知り合いになれて。 また、「はえぎわ」が好きで、なんか仕事無いですかってノゾエ(ノゾエ征爾)さんやスタッフさんに聞いたら、制作補佐だったら良いんじゃないって。全然分かんない(笑)と思いながら、でもめげずに稽古場には行き続けて
 現場入ると、劇場と受付を行き来するんだ、これをやれば良いんだ、って分からないなりにやって。制作キューを出したりする時もあって、何でもやりました。

  コロナ禍の時期は、公演中止や活動の自粛などあったかと思いますが、この時期の創作活動はどのような状態でしたか。

 公演中止を一回経験したので、その時は本当に思ってたよりショックが大きかったです。また同時に、演劇をするのがしんどい時期でもあったんです、私が。いっぱいやんなくちゃいけないことにアップアップしている時期でもあって。おかげっていうのもおかしいですけど、私はあの時期があって、ちょっと一息つけたなっていうタイプでした。一回人間に立ち返るっていうか。
 舞台を観に行くこともできないから、違う楽しみ方、楽しい過ごし方を見つけられる時期でした。美味しい食べ物食べたいんだなとか、私はここでゆっくりしたかったんだなとか、演劇以外で大事にしたかったことっていうのは、あの時期に結構感じましたそれで生きやすくなったっていう印象があります。色んな辛い思いをした方ももちろん居るだろうから良かったとも言いづらいけど。
 無理をし過ぎないことって凄く大事。なんか、無理をし過ぎちゃうんです。やり続けなさいって言われるから。公演を年に二回打ちなさいとか。私は、器用じゃないから一個一個丁寧にやっていかないと。まだ(そのペースに)順応してない状態でそれが来て、うわってなってる時期ではありましたね。だから、タイミング的に私は助かったなと思ってます。

  タイトルの「搖れる」の表記が旧字体になっている由来をお聞かせください。

 『柔らかく揺れる』っていうタイトル自体を考えついたのはうちの夫なんです。映画監督をやってる方なので。(映画作品の)仮タイトルが何個かあるのですが、その中で「柔らかく揺れる」という候補があって、それがボツになったんです。でも私はこのタイトルが一番好きだってずっと言い続けてて。今回の作品を書くってなった時に、いいよ、あげるよと言われたんです。川の水面の揺れと、感情の揺れみたいなものがリンクされる点も含めて凄く素敵なタイトルだと思うと話して、この作品名を頂きました。
 『柔らかく搖れる』の「搖れる」は私が考えたのですが、旧字体の方が深みがあるなと思ったんです。いつもすぐに変換で出てくる「揺れる」の方は軽い感じがして。これは感覚的な話なんですけど、「搖れる」の方がいいなと思い、『柔らかく搖れる』というタイトルにしました。

  本作は4話構成となっています。「一幕、二幕...」、「シーン1、シーン2…」などといった分け方ではなく、「話」として区切る方法を用いられたことにはどういった理由があるのでしょうか。

 主人公を変えていくから、1話、2話、3話、4話という風に区切りました。1話だったらヒカルが主人公で、2話だったら志保さん。3話だったら愛ちゃん、4話は信雄さん、と主人公がバラバラなので、1話、2話、3話、4話にした方が良いかなと。
 (初演時は)もう10人キャストが決まっていたので、皆、しっかり役として立ち上げたい、立ち上がってもらいたいって思ったんです。それで、家族の話を軸に、他者を主人公にして物語を進めていきたいなと思いました。小川家の4人に他者がフォーカスを当てていく。外枠から客観的に見えているもので、家族の人間性とか関係性が浮き彫りになっていくという。

  豊岡演劇祭に対して、何か期待されていることはありますでしょうか。

 色々な地域の劇場で公演することがすごく面白いなと思っていて、色んな地域、国の人たちが盛り上がって確立させていく形を楽しみにしています。これからどんな人たちが(演劇祭に)あふれていくのかがとても楽しみ。東京以外の地域の方や海外の人を呼んで、しかも豊岡でやっていくなんて。東京であればまあ、「東京だしな」となってしまう所からの脱却というか、新しい形だと思うので。
 それぐらい国際的な街になっていくということにワクワクしています。それだけじゃなくて、海外でも「豊岡演劇祭」というのがローマ字で出るようなことを今しているのかなと思うと、それにもワクワクします。(地域の)名物になっていくかもしれない、「うちは豊岡演劇祭やってるから」と言ってもらえるような未来を目指していくんだろうなと。

  豊岡演劇祭の来場者や、『柔らかく搖れる』を観劇予定の方々へ向けて、一言いただけますでしょうか。

 多様な人たちの感情が様々に入り混じる作品になっていると思います。その中で自分と重ね合わせたり、自分の周りに居る人たちと重ね合わせた時に、人と人とが寄り添ったり、あ、ここで共に生活していくんだという感覚や感情の機微みたいなものを、ダイレクトに体感してもらいたいなと考えているので、なるべくリラックスした状態で、構えずに観劇してもらいたいと思っています。(※本インタビューは2023年9月9日に行われました。上演終了後の掲載となったことをお詫びいたします)

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ディレクターズ プログラム

ぱぷりか
『柔らかく搖れる』
豊岡市民プラザ ほっとステージ

9/14(木)19:00
9/15(金)15:00
9/16(土)11:00

約100分
受付開始:開演45分前
開場:開演30分前

前売一般:¥3,500
当日一般:¥4,000
前売U25・学生・障がい者割引:¥2,500*
当日U25・学生・障がい者割引:¥3,000*
うずまくパス:¥1,000
*当日要証明書掲示

チケット
https://teket.jp/7075/24298

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取材・文:粒耒楓彩
2003年生まれ。芸術文化観光専門職大学3年生。豊岡演劇祭2023では、実習生として広報部に携わる。

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