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2023 in Review 2023年は知識労働者にとって受難の年だった!彼らを取り巻く環境はどうなる?

 本日翻訳して紹介するのは、12 月 27 日に the New YorkerWeb 版にのみ掲載された Cal Newport によるコラムで、タイトルは、"An Exhausting Year in (and Out of) the Office"(オフィス内でもオフィス外でも疲れ果てた 1 年)です。


 Cal Newport は IT 関連の記事を高頻度で寄稿しています。著書も出しています。邦訳されているものも多いです。私は全部読みましたが、中でも「デジタル・ミニマリスト」は特に面白かったです。彼の著書を読むと、筆者は女性なのかなと思う時が多いです。女性なのかなと思っていましたが間違いなく男性です。Cal という名前はカル・リプケン( Cal RIpken )で分かるように、男性に固有の名前です。

 さて、Newport によれば、2023 年は知識労働者にとって受難の年であったそうです。このコラムの概要は以下のとおりです。新型コロナの影響で 2020 年春以降にリモートワークが増えた。その際に、デジタル・コミュニケーション・ツールに費やす時間が膨大に増えた。電子メールの受信トレイにはメールがひっきりなしに届き、無駄で長いテレビ会議が延々と続けられるようになった。知的労働者の成果は、誰にも煩わされずに集中した時間に為されることが分かっているが、そうした時間が確保できなくなり知的労働者は成果をあげにくくなっている。驚くべきことに、新型コロナの影響が消えつつあるのに、デジタル・コミュニケーションに知的労働者が費やす時間は依然として漸増中である。知識労働者の苦難は続いている。が、彼らの働く環境の改善は不可能ではないので、2024 年は改善の 1 歩となる年になって欲しい。

 私が思ったのは、Newport が言うところの知識労働者( knowlege workers )は、日本には居ないということです。アメリカの知識労働者は、リモートワークでほとんど CupertinoBrook Park 付近の瀟洒な自宅で楽しく仕事をしています。1 日数時間働くだけです。そんなところでも暮らしていけるということは、最低でも年収は 20 万ドルはあるのではないでしょうか。アメリカの知識労働者の所得は日本と違って非常に高いのです。優秀な方は、どんどんアメリカに行くべきだと思います。

 さて、2023 年にアメリカの S&P500 指数は 25% 上昇したが、その上昇分のほとんどは GAFAM とテスラとエヌビディアを足したマグニフィセント 7 の上昇によるものでした。S&P500 指数の上昇は GDP の成長とイコールではありませんが、株価は現時点での企業の将来価値を示すものであって、しかも多くの市場参加者が健全な市場で形成した価格であるわけですから、実勢を全く示していないわけではないはずです。 S&P500 指数は、自由意志を持った多くの市場参加者が将来を予測しているとも言えるわけですが、その予測は優秀な学者やアナリストの予測より当たることが知られています。つまり、マグニフィセント 7 の規模はもっともっと大きくなるということです。日本も IT 分野を大きくしていくべきです。製造業も重要ですが、IT 業界を大きくしていかないと日本の GDP は大きくならないでしょう。アルゼンチンは農業中心の産業構造の転換ができず、先進国から転落しました。日本は同じ轍を踏まないようにすべきです。

 では、以下に和訳全文を掲載します。詳細は和訳全文をご覧ください。


2023 in Review

An Exhausting Year in (and Out of) the Office
オフィス内でもオフィス外でも疲れ果てた 1 年

After successive waves of post-pandemic change, worn-out knowledge workers need a fresh start.
パンデミック以降いくつもの著しい変化があったが、それに疲弊した知識労働者のために大きな変革が必要である

By Cal Newport December 27, 2023

1.

 新型コロナのパンデミックによって知識労働者( knowledge workers )は 4 年にわたって変化と浮き沈みの激しい困難な状況に耐えてきた。まず 2021 年初頭に大きな変化の第 1 波が訪れた。いわゆる大退職時代( the Great Resignation )である。多くの労働者が職場を去った。ピーク時には毎月何百万人ものアメリカ人が仕事を辞めた。そして、2022 年にはリモートワーク戦争( the Remote-Work Wars )が勃発した。これが第 2 波である。在宅勤務を続けたい社員と、それはあくまで一時的な措置と認識し、現場で顔を突き合わせて仕事することが重要と考えている上司との対立が顕著になった。2022 年 8 月にはアップルのCEOであるティム・クック( Tim Cook )が、9 月から全従業員に週に 3 日以上はオフィスで勤務するよう要請した。同社は 5 年前に巨額( 50 億ドル)を投じて最新鋭の新社屋を完成させていたので、彼がそこに従業員を再び呼び寄せようとしたことは理のあることである。しかし、多くの従業員はずっと家に籠もっていたいと考えていた。クックの指示に不満を抱いた従業員の団体は、「いつどこにいて、どんな宿題をするべきか指示して従業員を小学生のように扱うのは止めろ。」と記した書簡を同社の経営陣に送りつけた。

 多くの組織でリモートワーク戦争が勃発したが、しばらくして一時休戦状態となった。というのは、ハイブリッドワークスケジュール( hybrid schedules:リモートワークとオフィスワークを組み合わせた柔軟なワークモデル)という妥協案が登場したからである。しかし、第 3 波が昨年の夏に来た。あるフォローワーの多いティックトッカーが、「最近、静かな退職( quiet quitting )という言葉を知った。」という語りで始まる動画を投稿した。彼は、「仕事を辞めるのではなく、必要最低限のことだけをこなす」べきだと提案した。多くの若い知識労働者がこの提案を素晴らしいものと考えた。SNS 上にはこの提案への共感を示す投稿が溢れた。そうした投稿に批判的な者も少なくなかった。この激動の数年間を振り返って私が強く感じたのは、知識労働者の職場は混乱し崩壊しかけているということである。何とかして、それを再構築すべきである。どんな環境で、どんな形態で、何をどうやって行うべきか等々すべてを見直す必要がある。

 今現在、つまり 2023 年末時点では、知識労働を根本的に変えるようなプロジェクトは存在していない。さまざまなニュースサイトを見て目に入ってくるのは、AI かストライキに関するものばかりである。知識労働者の働き方の改革に関するニュースは皆無である。多くの知識労働者は、声高に何かを主張するわけでもなく、疲労で引きこもっているようである。「働くことに疲れてしまった。」という投稿がレディット( reddit:アメリカの掲示板型ソーシャルサイト)の知識労働に関するスレッドにあった。「決して終わりのない課題のために、延々と会議、ブレーンストーミング、打合せを続けてるんだけど、これって全く無駄だよね」。知識労働者にとって新型コロナパンデミック以降の数年間で最も大きな変化は、在宅勤務に多くの時間を費やせるようになったことである。しかし、在宅勤務は決して万能ではなかった。やはり在社して業務をこなすのと違う点があるような気がするし、理由は分からないが仕事がはかどらない時もある。リモートワークをしている誰もが疲れているように見える。パンデミックの最中に大退職時代( the Great Resignation )が来て、次に来たのは大疲弊時代( the Great Exhaustion )である。


2.

 さて、どうしてこれほどまでに知識労働者が疲労感をおぼえ失望しているのか?一番最初に論じたいのは、知識労働者の職場がさまざまな要因で混乱しているのは何故かということである。新型コロナパンデミックが混乱をもたらしたことは明らかである。それは、知識労働者に新たに大きなストレスをもたらした。育児と仕事の両立がより困難になったし、家に閉じ込められることはとても窮屈だった。しかし、時が経つに連れて 1つずつ問題が解決し、少しづつストレスは減っていったはずだが、知識労働者のフラストレーションは増すばかりだった。もっと深いところに何らかの問題があるのだろう。

 確かにパンデミックによって知識労働者はよりフラストレーションを感じるようになったわけだが、多くの者が認識していないかもしれないが、間違いなくもっと大きな影響を与えたことがあった。それは、知識労働者がデジタル・コミュニケーション( digital communication )に費やす時間が急増したということである。その傾向を裏付ける資料がある。先日マイクロソフトが発表したリポートによれば、同社のソフトウェアのユーザーは、メールやチャットやテレビ会議といったデジタル・コミュニケーション・ツールの利用に労働時間の 60% 弱を投じているという。ワード、エクセル、パワーポイントなどでの創造的な作業に使う時間は、残りの 40% のみである。調査対象となった知識労働者の 4 人に 1 人は、デジタル・コミュニケーションでドツボにはまった状態にある。電子メールの処理のために、毎週 1 日を犠牲にしている(正確には、毎週 9 時間!! も費やしている)。また、オンライン会議に費やす時間は、2020 年 2 月と 2022 年 2 月の間で 250% 以上も増加した。

 リモートワークが急速に普及したことで、デジタル・コミュニケーションに費やされる時間が増えた。それは、当たり前のことで驚くべきことでは無いのかもしれない。思い出してほしいのだが、特にパンデミック初期の頃には、誰もがズーム( Zoom )やスラック( Slack )を使う機会が多かったはずである。それらは、急にオフィスから締め出されて孤立していた知識労働者にとって不可欠なライフラインだった。しかし、次第に仕事のリズムが安定しだし、実際にオフィスで勤務する時間が増えても、デジタル・コミュニケーションに費やす手間と時間は依然として多いままである。これは驚くべきことである。マイクロソフトの研究チームは、パンデミックが始まって以降のデジタル・コミュニケーションのデータ量の推移も調査していた。それによると、データ量はパンデミックが始まって直ぐに急増し、その後も漸増し続けているという。残念なことに、デジタル・コミュニケーションのデータ量が増加する一方で、仕事の満足度は逆に低下している。これを裏付ける研究結果も存在している。しかも、たくさんある。その 1 つは、2019 年にスウェーデンで大規模に行われたものであるが、デジタル・コミュニケーションの量の多さと健康状態の悪化との間には相関関係があるという。小規模の研究でも同様なことが明らかになっている。3 機関(カリフォルニア大学アーバイン校、MIT、マイクロソフト)が協力して行った研究では、それらで働く 40 人の知識労働者を被験者とした。2 週間心拍数モニターを付けてもらったのだが、電子メールに費やす時間が長いほどストレスレベルが上がることがわかった。

 絶え間なく新しいメッセージが届き、会議が目白押しのカレンダーを見ると、知識労働者は興味が常に次から次へと移るので集中することができない。仕事の重圧を感じ、精神的にも疲弊する。重要な目標に向けて継続的に努力しようとしてもあまりやる気が出なくなってしまう。マイクロソフトが行った調査では、10 人中 7 人が「勤務日に誰からも干渉されず集中して業務する時間を確保することができない」との不満を漏らしている。メッセージが溢れかえるほど送りつけられる状況にあると、仕事とプライベートを分けることも困難になってくる。受信箱に溜まるメールが追い付けないほどのスピードで増えると、情報をシャットアウトして寛ぐことが難しくなる。仕事がどこまでも追いかけてくると感じられるようになる。

 要するに、パンデミック発生以降にデジタルでのやり取りが急激に増加し、知識労働者の仕事はより単調で骨の折れる作業となり、元々混乱しつつあった知識労働者の環境がさらに悪化したということである。このような解釈が事実であるとするならば、パンデミック以降で変わってしまった状況を受け入れ、それに対応して知識労働者の働き方や環境を変える必要がある。過度にデジタル・コミュニケーションに依存しデータ量に圧倒されるような状況が続く限り(間違いなく続くだろうが)、行き当たりばったりで対応する機会が増えるので混乱した状況が改善されることはない。であるから、デジタル・コミュニケーションの削減に真剣に取り組む必要がある。

 状況を改善する方法はたくさんある。最初のステップとして考えられるのは、企業経営者が新たな基本ルールを設定することである。たとえば、今後は電子メールは全員が知るべき情報の伝達と、一度の返信で済む質問の送信にのみ使用する、と宣言するのである。この宣言をする際の前提となるのは、詳細を確認して詰めていく作業はオフィスや現場で顔を突き合わせて行うということである。この宣言と同時に、新たな会議が爆発的に増えるのを防ぐため、管理職はオフィスアワー( office hours )を導入するべきである。特定の時間帯をオフィスアワーと定め、毎日その時間帯にはすべての従業員が在席するようにし、誰もがアポなしで面と向かって、あるいはテレビ会議やチャットや電話で話し合えるようにするのである。15 分以内で終わりそうな内容はオフィスアワー内で話し合うようにすることで、煩わしい会議の回数を最小限に抑えることができる。電子メールのやり取りを延々と続けることから誰もが解放される。

 即座に対応する文化に慣れ親しんだ知識労働者にとっては、回答を得るために待たなければならないという概念は急進的で、実行不可能にさえ思えるかもしれない。しかし、この方法を実際に試した人たちがいる。彼らが実感したのは、誰にとってもより良い時間配分に繋がったということである。「ほとんどの場合、待つことは大した問題ではないことがわかった。」と、世界が注目するソフトウェア開発会社ベースキャンプ( Basecamp )の創業者であるジェイソン・フリード( Jason Fried )とデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン( David Heinemeier Hansson )は、自社にオフィスアワーを導入した後に主張していた。「当社の優秀な知識労働者が取り戻した時間は膨大で、より業務に集中できるようになった」。

 さて、スラック( Slack )のようなインスタント・メッセージアプリは、知識労働者の働く環境を良くするものなのか、それとも悪くするものなのか? 進行中のチャットを常にチェックする必要があるわけで、頻繁に電子メールが届くとか会議ばかりしているよりもさらに混乱を生み出す可能性がある。こうしたアプリ等を使わないのは不可能なように思えるが、決してそんなことはない。約 30 人の従業員を雇用し、企業間電子商取引プラットフォームを提供する企業であるコンヴィクショナル( Convictional )は、非常に大胆な決断をした。スラック等のチャット・サービスを完全に利用しないと決めたのである。同社の CEO であるロジャー・カークネス( Roger Kirkness )が 2021 年に IT 業界誌「プロトコル( the Protocol )」(現在は廃刊)のインタビューで説明したところによれば、この決断はスラックや頻繁な会議で絶え間なく作業を中断させられることに多くの従業員が憤っていたことに対処したものだという。カークネスは語った。「最も価値のある仕事のほとんどは、社員が気を散らさずに集中している時に為される」。

 カークネスによると、コンヴィクショナルに新たに加わる知識労働者の中には適応するのに苦労する者もいるという。スラックの代用として電子メールを使おうとしたり、矢継ぎ早に議論を起こそうとしたりすることがあるという。同社はそうした”ハッスル指向( hustle-oriented )"のマインドセットは捨てるよう知識労働者に奨励している。また、同社は元々ほぼ全員が完全にリモートワークであったが、カークネスは対面の会議を定期的に行うように変えた。感情的なつながりを促進するのが目的であった。リアルタイムで顔を突き合わせての会議や打合せに依存しない環境では、それが失われてしまう。この会社がチャットやインスタント・メッセージアプリなしでどのように運営されているかを詳細に述べることは避けたい。それは重要ではないからである。ここで重要なのは、知識労働者のコミュニケーション方法を大きく変革することが可能ということである。これは、どこの企業でもできることである。あるツールが広く普及しているとしても、それを使わなければ絶対に仕事ができないなんてことはないのである。


3.

 2020 年の春、新型コロナの影響で知識労働者の職場に混乱がもたらされ始めて数週間経った頃、私はその影響についての記事を書いた。私は自分の予測を書いた。在宅勤務への突然のシフトは、知識労働者の効率を悪化させ、彼らはデジタル・コミュニケーションの非効率性に苛立ち、満足度も低下するだろうと書いた。しかし、予測されるのは悪いことばかりではないとも書いた。私が予測した良い面は、混乱で痛みを感じることによって、長期的には知識労働者の働き方や環境がより持続可能で心地よいものに変わる可能性があるということであった。それから 3 年経ったわけだが、私の予測は半分しか当たらなかった。知識労働者を取り巻く環境はより悪くなった。この点は予測が当たったと言える。が、企業経営者のほとんどは、そうした状況に適切な対応をしなかった。その結果、多くの知識労働者が反乱を起こした。退職した者もいたし、出社するよう要請されて拒もうとした者もいたし、”静かな退職”を実践する者もいた。

 しかし、たとえ今、多くの知識労働者が混乱で疲れ切った状態にあるとしても、諦めるべきではない。近年、知識労働をする個々人の行動が大きく変わっている。仕事を辞めて田舎に引っ越す者がいるし、最低限の努力でできることしかしないと公言する者もいる。しかし、知識労働者の働く環境の改善は、急に進むわけではない。順調に継続的に進むわけでもない。地道にやっていくしかない。コミュニケーションの負荷が過多である状態は 2020 年に悪化し、現在も悪化し続けている。これが一番の問題である。幸いなことに、企業や組織や幹部が大胆に変革するつもりであれば、この問題は解決可能である。未読のメールで受信フォルダが溢れかえり、無駄に長い会議が多い状況は、デジタル化が進んだ世界で活躍する知識労働者に必要なものではない。むしろ、そうした状況はパンデミック後の混乱への対処で、より悪化してしまったという側面もある。新型コロナパンデミック後の知識労働者の職場の混乱は、現在の働き方を続けることが不可能であることを示している。もしかしたら、来年は、こうした状況が変わり始める年になるかもしれない。♦

以上

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