Book of the year 2023
作家司馬遼太郎の生誕100年の節目を迎えた2023年。
彼が生前愛していた菜の花のように、明るく、かつ優しく人生を照らしてくれるような良著たちに巡り会えた一年でした。
「データによって世界を冷静に、ちょっぴり明るく感じられる視座を与えてくれたことに感謝するで賞」:ハンス・ロリング『FACTFULNESS』日経BP社、2019年
この本で紹介されているクイズを3問出題します。
(問題文、選択肢は書籍より抜粋)
問1.現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A.20% B.40% C.60%
問2.世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年間でどう変わったでしょう?
A.約2倍になった B.あまり変わっていない C.半分になった
問3.世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子どもはどのくらいいるでしょう?
A.20% B.50% C.80%
もし、「3問ともCを選択しなかった」のであればぜひ『FACTFULNESS』をお読みください。
(正解は全て「C」)
この本は「世界の見え方を歪めてしまう人間の10個の本能」と「世界を知るためのデータ」について書かれた一冊です。
Googleマップをアップデートするように、情報にあふれる社会を安心して歩ける自分の中の「データという地図」のバージョンアップ・ブラッシュアップの方法を教えてくれる一冊です。
日々、SNSやニュースで社会問題や環境問題を目にすることで「この世界は恐ろしく、どんどん悪くなっている」とつい思ってしまいがちになります。
この本を読み、最新のデータを通して人類・世界は一歩ずつだけど確かに前進していると気付き、ほんのりとこの世界で生きる勇気をもらえました。
「問いによって自分を変える勇気を与えてくれたことに感謝するで賞」:小手川正二郎『現実を解きほぐすための哲学』トランスビュー、2020年
「何かを学びましたな。それは最初はいつも、何かを失ったような気がするものです」(バーナード・ショー)
何かを知ることで自分の中の何かを失ったり、時には壊されたりします。
失い、壊されるのは怖いからこそ、考えることを諦め、問いと向き合わずに理解した気になってしまうことも。
この本は「性差、人種、親子、難民、動物の命」の5つをテーマに、自分の頭で考えるために何が必要かを考えるきっかけを与えてくれます。
自分が変わるまで問いに身を晒す体験は、向き合い方について考え直す良い機会となりました。
「犬たちへの哀悼と感謝の気持ちを感じたで賞」:嘉悦洋『その犬の名を誰も知らない』小学館集英社プロダクション、2020年
来年2024年は「タロ・ジロの奇跡」から65年の節目の年。
この本はそんな節目の年にうってつけの一冊、「第三の犬」を主題としたノンフィクションでありミステリーである一冊です。
本は第一次・第三次越冬隊に参加した北村泰一氏への幾重にも重なる取材に基づいて書かれています。
タロ・ジロと再会する南極観測隊の第三次観測隊が到着する直前に息を引き取ってしまったものの、実はもう一頭生きていた犬が居たのではないか、その真相を解き明かしていきます。
丁寧な取材によって精緻に描かれる、第一次越冬隊の困難だけどやりがいのある手探りの観測のエピソードはどれも好奇心をそそられる話ばかりでした。
そして、その仕事を支えた犬たちとの日々は輝いていて、だからこそ「置き去り」の決断を選んだときの悲惨さを改めて感じました。
一貫して捧げられた犬たちへの哀悼と感謝の気持ち。
命の温度を感じながら読みたい一冊です。
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