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とある船員の発熱記録

「キーーーーーン」


隔離された船内の一室には、静かにディーゼルエンヂンの排気音だけがこだましている。

一体ここに入れられて何時間が経過したのか。船舶時計は7時を指しているが、朝なのか夜なのかがわからない。


テーブルに灯されたデスクスタンドに照らされた、飲みかけのコカ・コーラ。動揺で倒れないようにするための木製のコーヒーカップ用の台座に座っている。

そのボトルの中で、船の動揺に合わせて右へ、左へと、半分ほど飲み干した中の真っ黒い液体が規則正しく行ったり来たりしている。

小さな気泡が黒い液体の底の方から、まるで無限に湧いて出るかのようにポコポコと、大気へと融合しようと不規則に昇っていく。




「アスリートは、元気を出したい時はコーラ飲むんだよ」


機関長は定年間近の元レスリング有名選手で、後輩の面倒見が良く、頼れる兄貴だ。

今となってはでっぷりと脂肪の乗った腹回りが、コーラが持つカロリーの暴力性を物語っている。

その兄貴が持ってきてくれた、世界で1番売れている炭酸飲料。…献身的に看病してくれるのは嬉しいんだけど…


喉が痛い患者にとっては、飲みにくいんだ……しかも5本も…

の、飲まなくちゃやっぱ悪いよな、と思い半分、頑張って飲んだ。

その時





ガチャリ



完全防護姿で部屋に入ってきた見慣れたお腹が、手には見慣れない「棒状の物」を持っている。


その棒状の物が纏う禍々しさは、これからここで起ころうとする事象を予兆しているかのよう。


カチャリ、カチャリ

手際よく作業を進める、エンヂンの仕事30数年の油臭いベテラン内燃機屋は、初めて触るであろうその棒状のものも、説明書を読みながらなんなく扱っている。


ついにこの時が来たのか…かなり緊張してきた。


準備が出来上がったらしいので、彼の指示どおり椅子に座り、まだ何物の侵入も受け入れたことがない、僕自身の蕾をさらして、目を瞑る。


とても「棒状の物」を飲み込んでいく自分の姿なんて見てられない。


……ゆっくりと入口が押し広げられ、ヌルッとした冷たい感触が中に入ってくる。

ついに機関長のごつい指が僕自身に静かにぶつかった…


あっ……え、


一連の動作が済んだそのゴツイ手もまた、はじめて挿入した動揺か、はたまた船の動揺かわからないが、震えていた。







抗原検査の結果は、陰性。





どうもみなさんおはこんばんにちは、とよじです。

実は発熱してしまい狭い船内でダウンしていました。今のところ症状は軽く風邪のひき始め程度なんですが、このご時世のため厳格に隔離されてしまっております。


いやぁ、まさか医療従事者以外に抗原検査してもらうとは思ってませんでしたよ。ありゃ寿命が縮んじゃうよ…船揺れてるしさぁーーーーーグサグサグサーーーなったら嫌やん、兄貴を信じるしかなかったんよ〜怖かった〜


実は1週間前くらいに我が社でも出たんですよ、陽性患者がね。

運動と食事管理で体調管理には気を遣ってる方ですし、あまり人混みのあるところにはまじで外出しないんですが


こうして具合悪くなってる。


だからみなさんも、本当にお気をつけて。隔離されてコーラだけ飲み続ける羽目になりますよ(うちの船だけか)


明日ちゃんとしたお医者さんに診てもらう予定なので詳しい検査結果が出て、万が一コロナだった場合は症状などをレポートしたいと思います。


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