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たぶん、誰も悪くない

3月、出会ってすぐに好きになった男性がいた。

マッチングアプリで出会ったこの彼。
私と彼は結局お付き合いすることも、連絡を取り合うこともないまま、4ヶ月が経っていた。

べつに彼に固執しているわけでもなく、縁がなかったと受け入れているつもり。
そして、これといって特に新しい出会いがあるわけもなく、日々を過ごしていた。

そんな矢先。
「ねえねえ、これってもしかしてキヨヒコだよね?」
マッチングアプリで、彼からいいねが来た様子のスクショと共に彩花からのLINEが入ってきた。

それは、まさしく、あの彼だった。
かつて私が好きになった人。
人生で初めてビビッときた人。
そして、その日のうちにに体を重ねてしまった人。
もう連絡は取り辛くなってしまった人。

この一連の流れを私は、彩花に話したことがあった。そして、彼女はそれを覚えていたようで、私が話していた特徴と名前から察したらしい。

「完全にこの人だわ。久しぶりに見たなあ(笑)」
なんの違和感を持つこともなく彩花に返信。

マッチングアプリにおいて、会ったことのある人や自分がいいなって思ってた人と、自分の友達がマッチングするなんてよくあること。

ただ、その先の対処はきっと人それぞれなのだと思う。

私だったら、迷わずスキップ。
だってめんどくさいから。
私にとって円滑な人間関係を構築しながら恋愛をしていく上での掟「1グループ1パーソン」は死守すべきことなのだ。
同じコミュニティの中で、恋愛関係を持つのは1人。それが相手にとっても自分にとっても1番平和だと思っている。
友達と好きな人が被っちゃうとか、友達の元彼と付き合っちゃうとか、わりとよくある話だけど、できるだけ避けたい。
大人になってから、学生時代からの同性の友達との関係が、男性を理由に拗れることほど残念なことはないと思っている。
だから、たとえ、終わっている恋愛だったとしても、友達とちょっと前に関係がありましたみたいな男性に、わざわざ自分から関わりたいとは到底思えない。
たとえ、そこに恋愛感情が湧かないとしても。

しかし

彩花の場合はこうだった。
「春子が言ってた通りの人だ!わりとタイプ〜!メッセージやり取りしてみよ〜」
もちろん、私と友達であることは伏せて。

数多の男性が登録しているマッチングアプリで、まさか少し前に恋愛感情を持った男性がこんな近くの友達とマッチングするなんて、ね。
運命の悪戯ってやつですか。

もちろん、私と彼はこの先どうこうなることは二度とない。
ただし、彩花の行動に不快感を抱く自分がいた。

彩花は彼と毎日メッセージのやりとりをするようになった。
何を思ってか、たまに、私に彼の近況報告をしてくる。

次第に、
私と友達であることを伏せてるのはなぜ?
私と彼がうまくいかなかったこと、おもしろがってる?
もしかして、私、マウント取られてる?
彩花ってそんなことする子だったっけ?

とにかく、悲しい気持ちになった。

ふつふつと、沸いてくる不信感をどうしても拭うことはできなかった。
じゃあ、この不信感の正体はなにか?と問うと、少なからず嫉妬心も含まれていることも分かっている。だから、余計に悔しかった。

彼のことなんてもう二度と関わらなければ簡単に忘れられると思っていた。そして、もうほとんど忘れてると思っていた。

なのに。
こんな感情になるなんて。

この状況をどうしたらいいか、私の持つ感情の正解が分からなくて、彩花とは全然関係ないコミュニティの友達何人かに相談した。
彼女達は、口を揃えて、
「友達ならそんなこと普通しないと思うけど、春子、その子と本当に仲の良い友達なの?」
「人のもの欲しがる人っているよね」
と言ってきた。
たしかに、私側からの話を聞く限り、私の味方をしてくれるわな。

彼女達のアドバイスは2極化した。

①そういうことをする子と仲良くできないから、何も言わず静かに関係をフェードアウトさせていく。

②大事な友達なら、あなたの行動で悲しい思いをしたことを素直に伝える。ぽっと出の男のせいで、10年来の友達を切ってしまうのはもったいないんじゃない?

彩花と会う予定を立てていなかった私は、伝えるのにもエネルギーいるし、わざわざ言うために会いたくないし、いったん距離を置くか、と思っていた。

彼と彩花がマッチングしてから、3週間ほど経った昨日。

「元気?」と彩花から電話がかかってきた。
「キヨヒコと会ってきたよ〜」とのこと。
私は思わず聞いた。
「キヨヒコのこと、好きになったの?」
「いや、まだわからないけど、もう一回会ってもいいかなと思ってる」
「あのさ、彩花、キヨヒコに私と友達って伝えてる?」
「タイミングがなくて言ってない」
「彩花はどういうつもりでキヨヒコと関わってる?私とちょっと前に関係があったこと分かってる状態で会うってどういう気持ちなの?
私はたぶん、それをしないから、普通にどんな感情なのか教えてほしい」
「え、待って、春子ってキヨヒコのことそんなに好きだったの?」
「今はそういうわけじゃないけど、ちょっと前まではすごく惹かれてたし、それを彩花にも言ってたから知ってたよね?」
「ふつうに、友達と好きなタイプが重なることはあるし、今までも友達の元彼と付き合うってことがなくはなかったから、キヨヒコに会った時も春子のことは全然考えてなかった。キヨヒコに人として興味があったから、春子がどう思うとか考えずに会っただけ、かな」
「そっか。べつに私は彩花とキヨヒコが恋愛することを止めたいわけじゃないから、もし、キヨヒコと先を考えるなら、私と友達ってことを言ってあげてほしい。言わないとなんかずるいっていうか、意地悪に見えるっていうか、ネガティブな推測されかねないよ?
もし、私が、キヨヒコの立場だったら、せっかくマッチングしていい感じの女の子がちょっと前に関係を持った女と友達ってあとから知ったら、どんな気持ちで近づいてきたのかな、とか、2人に裏でいじられたり悪口とか言われてたのかなってちょっと不快な気持ちになる。」
と、言葉を選びながら、ゆっくり、一気に伝えた。

「わかった。春子を嫌な気持ちにさせてて、それに気づかなくてごめんね。ちゃんと言ってくれてありがとう。
ただ、まだキヨヒコには1回しか会ってないし、この先恋愛感情を持つか分からない中で、わざわざ春子と友達ってこと伝える意味ってあるのかな、べつに今すぐ必要なこととは思わない」
彩花の言葉に、ああ、この子は人の気持ちを推し量る力がないのだと悟る。

もしかしたら、人に裏切られたり、傷ついた経験をあまりしてこなかった幸せな人なのかもしれない。

そして、自分の言動で誰かを傷つけてしまったことがあったとしても、それに気づかずに大人になったのかもしれない。

「そうかもしれないね。とりあえず、私は、彩花の行動に不信感を持ってしまったのは事実で、キヨヒコが同じようなネガティブな感情を持ってしまうことは避けたいから、相手に誠実に関わってほしいってことだけ彩花に伝えたかった」
と言って、電話を切った。

そうか。

伝えたあとってこんな感情になるんだね。
ああ。彩花の気持ちを聞く前に、こっちの都合で悪い解釈をして、好き勝手に悪口言えてた時の方がよっぽど楽だったな。

私は、モヤモヤしている気持ちを持ったまま、ろくに本人にも確認しないで、相談という名の悪口を友達に言いながら自分を守っているままが嫌だったから本人に伝えた。
伝えるという選択をしたということは、彩花と友達でいたい証拠で、きっと元通りまた話したり、仲良くしたいって思うようになると信じていた。


伝えたけど、結局、私的には一度不信感を抱いてしまった相手をすぐには信頼できないという気持ちが勝った。
今回は、彩花から裏切られた感にとても傷ついてしまったので、彩花に対して今まで通り接することはできない。


結局、いったん距離を置いて、また時期が来たらもしかしたら友達にもどるかもしれないし、そのまま距離感を保った関係でい続けるかもしれないという③という選択肢にたどり着いた。

現実は小説より奇なり。
でも、現実は、本来悪者に振り切ってくれたらいっそ楽なのにと思う人もちゃんと善良で、だからこそ責められない。それがリアルなんだよなあ。

気持ちを整理するためにこうして言語化してみたけど。
やっぱり、ね。

“誰も悪くない”

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