【2023年度哲学思想研究会部誌収録文章】万物の根源の無限性について


「世界を構成する最小単位は何か」という問題は、多くの自然哲学者の興味であり、これまで多くのアイデアが生み出されてきた。例えば、タレスはそれを水、アナクシメネスは空気、デモクリトスは原子と主張した。また、現代物理学ではそれを素粒子に認めている。


基本的に彼らの主張は、一部の例外を除き、物質的な世界における万物の根源についてである。したがって、万物の根源は、それ自身も物質的なものでなくてはならないだろう。


ところで万物の根源を物質的なものに求めようとする態度は、哲学に限らず自然科学においても、無限後退するようなものであろう。


デカルトのいうように、物質は延長なる実体である。ゆえ、万物の根源も幅を持つはずである。ところで、カントールが証明したように、有限な幅を持つ量的な実体、あるいは集合は、その内部に無限性を有するはずである。


説明がむずいので例を出そう。0≦x≦1に含まれる実数xの全体の集合Aがあるとする。ここでAの要素である0.1という数を考える。この数の小数点と1の間に、1個ずつ0を付け加えていく。すると、0.01、0.001、0.0001・・・というような数が続く。これらはいずれもAに含まれる。このような小数点と1の間にある0の数は、1個、2個・・・と数えられる、すなわち自然数個である。自然数の個数は無限に存在するから、0.1、0.01、0.001・・・という数列も永遠に続くはずである。ゆえ、集合Aは無限に要素を持つことになる。


このことからもわかるように、実体は永遠に分解できる。したがって、物質的なものを考えるならば、限りなく0に近づくことはできるが、0に辿り着くことは決してあり得ない。このことは、人間の知的探求は永遠に終結しないことを示す一例ではないだろうか。


参考文献:

デカルト(1644)『哲学原理』(桂寿一訳)、岩波文庫

遠山啓(2012)『現代数学入門』ちくま学芸文庫

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