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次世代型太陽電池として注目される ペロブスカイト太陽電池の実力とは

2021年12月時点の内容です

高性能・高品質の太陽電池は、脱炭素社会の構築に欠かせないものとなりました。なかでも、次世代型として注目されるペロブスカイト太陽電池は、いままでの太陽電池では不可能な場所にも設置可能で、多くの用途が期待されています。 

今回はペロブスカイト太陽電池の生みの親で、光エレクトロニクス関連で優れた業績を上げた研究者に贈られる、イギリスのランク財団の賞を2021年9月に受けた、桐蔭横浜大学 医用工学部 特任教授 宮坂力氏に、国内海外を問わず話題の同電池について、お話を伺いました。

【インタビュアー】
吹田 尚久 (株式会社東陽テクニカ 理化学計測部 統括部長)


ペロブスカイト太陽電池とは何か

ペロブスカイト太陽電池を開発された経緯をお聞かせください。

ペロブスカイト結晶を用いた太陽電池を、ペロブスカイト太陽電池といいます。同電池が開発される前の話となりますが、2000年頃から、超電動材料中の鉛酸化物の酸素の部分が、ヨウ素や臭素などのハロゲンに替わったハロゲン化金属ペロブスカイトが研究されており、よく光ることが知られていました。これを光電変換の素子として応用研究し開発したのが、ペロブスカイト太陽電池です。

その頃のペロブスカイトは量子閉じ込め効果によって、光の吸収・放出はともに特定の波長だけでした。そのため、この時点ではまだ誰も発電目的の研究に着手していませんでした。私たちがそのペロブスカイトを担持(電極に付着)させて、電圧・電流の応答に成功したのが2006年のことで、研究成果をアメリカ電気化学会(ECS)で3回発表しています。

2009年に論文誌に発表したペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池の色素部分をペロブスカイトに置き換えたもので、太陽光に対するエネルギーの変換効率は約4%でした。材料は金属の鉛、ハロゲン、メチルアンモニウムという有機の+イオン三つ。これらは、ペロブスカイト太陽電池のスタンダード材料とも言えるものです。

図1:ペロブスカイト結晶の構造(宮坂氏提供)
図2:ペロブスカイト太陽電池の断面構造(宮坂氏提供)

ハロゲンを用いるのでイオン性が高く、水などに入れて極性の溶媒を入れると溶けます。これを徹底的に溶かし、塗って乾かせば、溶媒がなくなって結晶ができあがる。この溶液を薄く、穴が開かずデコボコしないよう0.5μ厚で基板上に塗布していけば、ペロブスカイトの太陽電池が作れます。塗って乾かしたイオン結晶は、非常に優れた半導体特性を獲得します。結晶に含まれる原子や電子などの配列が乱れる欠陥ができたとしても、それほど問題にならない欠陥寛容性の優れたものになります。つまり、簡単に作れることを意味するのです。

図3:ペロブスカイト溶液と基板の電極パターン

塗布する基板は、ガラス以外に金属膜やプラスチックフィルムなども使えます。厚さ50μしかない極薄のフィルム上に塗布してペロブスカイトの膜を形成(成膜)し、発電することも可能です。例えば、ペロブスカイトを塗った気球を飛ばして雲上で発電することをJAXAと共同研究しています。

基板を含めて極薄のものを作れることから、曲率の影響を受けにくくなり、自在に曲げることも問題ありません。シリコン太陽電池はシリコンを薄くスライスすることができないので、曲げる用途には不向きです。ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽いので、窓や壁に貼って発電させることもできます。使い方に合わせて、ペロブスカイトの濃度を薄くすることや、オレンジから褐色まで波長400〜850nmの間で色味を変えて作ることもできます。

一般的なシリコン太陽電池との違いは何ですか?

ペロブスカイトは鉛(2価の陽イオン)、ハロゲン(1価の負イオン)、そして有機や無機の1価の陽イオンのモル比(物質量の比)を変えたものを用意して塗って乾かせば、比較的簡単にいろいろな種類のものができます。ただし、まだシリコン太陽電池の変換効率を凌駕するには、至っていません。

普及しているシリコン太陽電池と比較して、大きな優位点はコストです。ペロブスカイト膜の単価は、原料から塗布工程まで全て含めて、1平方メートル当たり数百円。シリコンのウェハ基板だと2万円前後するはずです。変換効率が少しだけ低いとはいえ、半導体が二桁も安価でできるのであれば用途はたくさんあるはずです。

なぜペロブスカイトが次世代の太陽電池として注目されるのですか?

半導体性能のチャンピオンデータはガリウムヒ素で、電圧は1.12(バンドギャップ1.42の場合)といわれています。差し引きすると0.3ボルトのロスがありますが、非常に小さいものです。シリコンでは多くが0.5ボルトのロス(バンドギャップ1.2、電圧0.7)。ペロブスカイトはバンドギャップからの電圧の損失が少なく、バンドギャップ1.55で電圧が1.2くらい発生します。ガリウムヒ素に迫る性能といっていいでしょう。

電力を表すワットは電流と電圧の掛け合わせですが、実は電流の値はどの太陽電池も優秀で上限値近くにあります。違いは電圧の損失で、電圧損失が一番少なく、ほぼ理論限界に近いのがガリウムヒ素です。そんなガリウムヒ素が使われてこなかった理由は、製品展開が不可能なくらいコストが高いからです。宇宙とかCMOS半導体の中のパーツなど特殊なものを除いて、大きな面積の太陽電池では使うのは無理でしょう。その点、ペロブスカイトは非常に安価です。

なぜペロブスカイトか、と問われると、先ほどお話した通り、化学的に原料の比を調整することができるので、極薄の膜が作れるのです。これが大きな利点ですね。また電圧が高く、厚みに対する光の吸収量をあらわす吸光係数が1センチメートルあたり10の5乗と大きく、いままで実用化してきた薄膜太陽電池とほぼ同等な性能も、注目されているポイントだと考えます。

屋内だと、ペロブスカイト太陽電池にとって厄介な紫外線や赤外線がないので、変換効率は34%にもなります。また、太陽電池のフィルムはハサミで切っても発電できるので、この点でも用途が広がります。綺麗にカットしてワッペンとして胸につければ、ここで発電した電気でポケット内のスマートフォンを充電することもできます。塗布して作るのでプリンターで印刷すれば、文字が太陽電池になるなどということも夢ではありません。パソコン用デバイスに付けて屋内のLED光で発電させたり、窓や壁といった半屋外に貼って使ったりと、注目される点はいくつもあります。

図4:ペロブスカイトの吸光係数(宮坂氏提供)

ペロブスカイト太陽電池が発展するために

実用化に向けて何か問題点などありますか?

ポーランドのベンチャー企業であるサウレ・テクノロジーズが小規模の生産ラインを作って、B to Bのビジネス製品の量産を始めました。

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